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神などいない(11)

「ここならいいだろう。」

シドが言う。


ラリスの小屋のある湖の対岸だった。

オリオストと戦った時同様、広さがある。


「始めるか…俺と戦うってことで良いんだよな」

拳を握るハージン。


それを制するようにシドが言う。

「まあ、待てよ」


「あ?」

不服そうな表情のハージンを置いて、シレイスに手招きして遠ざかるシド。

寄ってきたシレイスに言う。


「この精神状態は、まずいと思うんだが…」

「さあ…何でしょうか?まるで、バーサークでも発動したように落ち着かないのは確かですがね」


不敵な笑みを浮かべるシレイス。


「バーサーク…!!」

驚いた様子でディエマの方を確かめるように見るシド。


ハージンの一挙手一投足に注目しているディエマ。

変わった様子は見られない…


思い浮かべた不安は消えたが、シレイスに向き直ると同時に怒気を含んだ声を向ける。

「シレイス!!あれがどういうものかわかってるだろ!!いくら相手が神殺しだからと…」


真剣に咎める様子のシドを制するように手を上げたシレイスの整った顔から再び笑みがこぼれる。

それに気付かないディエマ。


「やっぱりですか…シド。誰が魔法など使っているというのです…攻撃力を高めはしても、精神を破壊しかねない魔法になど頼るつもりはありません」


「それじゃバーサークは…」

「使うわけがない!!もう、あんな思いはたくさんだ…」


それまで落ち着いていた口調が怒気を含む。

「あれ以来、そのたぐいの魔導は使っていません…私の友の命を差し出してまで二度目を行使するなど出来るはずがない」


二度目を使うとき…

それは死を覚悟するとき…

シレイスの静かなる誓い。


「すまない…俺もあの場にいたのに…冷静さを欠いていたようだ」

「いえ、私も誤解を与えてしまうような事を言ってすみません。しかし、本当にあの時と同じ…かもしれない…」


二人とも沸き起こるような衝動を抱えていた。

何か落ち着かない高揚感とでもいうのか。


再びシレイスがあの魔法を行使するはずなど無かった。

冷静でなくても、分かるはずだった。


まさに愚問…


分かりきっているはずなのにシドはシレイスを問い詰めてしまっていた。

全てはこの精神が揺さぶられるとでもいうしかない、落ち着かない状況…


何だというのだ一体…

「シレイス…お前じゃないなら、なんでこんなに落ち着かない?あの時みたいに…」


戦うという衝動を必死に抑える。

誰彼構わずとびかかってしまいそうな自分がいた。

それほど歪んだ衝動…


「私も気にはなっていました…別名戦神と呼ばれるあの人の放つ気流のせいでは?」


自らの力を高めるかのように佇むハージン。

気流が渦巻くのを感じる。

魔力が増しているように感じた。


さっきより強い??


「なんて気迫だ…」

気圧されそうな気に息をのむシド。


「おいおい…やはり神の聖なる気とは程遠いような気がするんだけど…」

二人のやり取りなど全く聞いてなかったようなディエマ。

相変わらずハージンに注意を向けていた。


そんなディエマにあきれ顔のシレイス。

また、あの悲劇とでも言うべき状況がおこるのでは…


嫌な予感がしていた…

だが、杞憂だったようだ。


「ディエマ…あなたは感じないのですか?」

「え?何?俺は伝説の神殺しと戦えれば何でもいいぜ!!神さえ封じた能力…どんなものかこの目で確かめたいんだ」

「やれやれ、あなたという人は純粋すぎます…だから…」


あの時壊れた…


必死だった…暴れ、近づくもの全てに敵意むき出しで傷つけるディエマ…

彼であって、彼じゃない…

もう、あんなのはたくさんだ…


沸き起こる感情を抑えているが、表にださないシレイス。


「????」

不思議そうに見つめるディエマ。

「なーにつらそうな顔してるんだ?勝負仕掛けたのはシレイスだろ?まさか後悔してるのか?強くて当たり前。相手は神殺しなんだからさ!こんな機会、二度とないかもしれないんだし、もっと肩の力抜いていこうぜ」


能天気なディエマに自然と笑みがこぼれるシレイス。


「おい、いつまで待たせるんだ?とっくに準備できてるぜ」

空間を切り裂くような視線。

ハージンだ。


「そうですね。では私から…」

言いかけるシレイスを遮るように、

「まとめて来てくれても問題ないぜ」


挑発するハージン。

すかさずシドが注意する。


「そうはいかない。戦うといっても、殺し合いをしようっていうのではないからな。それに、せっかく戦士の門を越えられるかもしれない人材に、もしもの事があったら困るからな」


そもそも戦うことが、もしもの事の発端になりそうなものだが、そこをスルーしてしまっているシドの言動。


全てはこの渦巻く謎の気流に答えがあるようだった。

この気流の正体がこの場ではなく、別の次元から発せられていたなど、現時点で気付ける者はいなかった。


何者かの意思…

それが彼らを戦いへ誘ったなど、誰が気づけようか…


「そういえばシド。あなたは先ほど戦うことが無益だと言っていたはずですが…」

「今でも変わらないぜ。けど、止めて聞くお前か?」


「確かに…これは私の戦いですからね…止められて、受け入れるなら最初っから言いません」

「ふん…俺も止めはしたが形だけかもな」


「え?」


「見たくなったのさ。うちの主戦力が神殺しと言われる存在にどこまで迫れるかをな…」

「珍しく感情的ですね」


「いや、あれからどれだけ実力を上げたか興味があるだけさ。俺も戦士だったからな…」


戦士だった…

だった?

右足を確かめるように見るシド。


シドの右足の動きが、少し普通とは違っていた。

外向きに開くというか、独特な動きをする。


普通に歩くスピードに、違和感が無く、これまで気づかずにいたが、時折、動きがもたつくのを見ると、それは違和感をもたらした。


「踏み込みの鬼と呼ばれてたんだがな…」

一瞬ディエマを見たが、首を振る素振りで視線を逸らすシド…


複雑な思いの見えるシレイスの表情。

「あの時、あなたが止めてくれなければどうなっていたか…」


「全くだ…苦労したぜあの時は…」

「苦労は今も変わらないのでは?」

「ふん…お前こそ、何で戦いたいなど」


「さあ、何故でしょう…戦士の門の守り手としてというのもありますが…私もある意味あの人の気に影響を受けているのかも…」


「結界は…」

「えぇ、使っているのですが、ハージンの纏う能力(ちから)は何か違う…そう思います」

「まとう…能力?」


「うまく表現できませんが…普段なら抑えられる感情を揺さぶられるというか…」

「…確かに、俺もいつも以上に平静でいるのが難しい…」


言いかけたシドを遮るようにハージンが待ちかねた声を出す。

「おい、いつまで待たせるんだ?戦いを提案してきたのは貴様だったな?」


シレイスを指さす。


「こないなら、こちらからいこうか?」

さっきまでの泣き虫は影を潜め、みなぎる様な魔力を帯びるハージン。


ほとばしるような力を前に、ひるみそうな心を抑えながらシレイスが言う。


「待ってください」

ハージンを制し、ディエマに目を向けるシレイス。


「ディエマ!」

「お~っし!!俺ならいつでもいいぜ」

「いや、そうじゃなくって…」


バン!!

両拳を合わせるディエマ。

聞く耳を持たず、ハージンに集中している。


「あ、待って…」

言いかけたシレイスを無視して行ってしまうディエマ。


(私が行こうとしたんだが…)

複雑な表情のシレイス。


ハージンと対峙するディエマ。


「いや、伝説と戦えるとは有り難い」

「ありがたいだと?まさか勝てる気か?」

「まあな」


「ふん、大した自信だな」

「修業はしてきた。あんたで試させてもらおうか!!」

まるで手品のように合わせた拳が離れたと同時に剣が構えられている。


「捉えられるか?」


シュンと空気を切り裂く音。

ディエマの剣を構える右腕が、影のような残像になったと思えた瞬間、

爆発するように無数の剣先が現れた。


!!!!!!

驚くハージン。


一瞬で距離を詰めるディエマ。

何十本の剣がハージンに突き刺さる!!


思われた刹那、

かわすハージンの姿が消える。


ガチン!!


ディエマの左脇。

肘あてを狙うハージン。

刀身で受けるディエマ。


当てた肘を剣の腹にそって滑らせるように、移動、反転するハージン。

腰をねじりながら拳を固め、踏み込む!!


ディエマの後頭部へ裏拳…

しかし、頭を下げ、前転のような体制でかわすディエマ。


起き上がるや否やハージンをけん制するように切っ先を向ける。

「やるな!!初見でかわされるとは思わなかったぞ」


「ふん、いきなり必殺技か!?けど、見切ったぜ」

余裕の表情で返すハージン。


「見切った?ほう、この速さでもか?」

言いながら、今度は爆発剣では無く、普通に切っ先を構えて飛び込むディエマ。


(速い…)


流れるような放物線を描きながら、変幻自在に伸びる剣先は避けながら後退するハージンを追うようにその距離を詰めていく。


(いける!!!)

自信みなぎるディエマ。


下弦を描く切っ先は、反り返りながらハージンの死角から首筋へと向かう。

だが、


しなやかに上体を後ろに曲げて避ける。

低いハードルの下をくぐるような姿勢…


それは、限られた動きしか出来なくなることを意味していた。

即ち、剣を引きながら下に降ろせば捕らえられる!!


ハージンを傷つけないように刃の部分ではなく腹で殴りつけるように振り下ろすディエマ。


「やったぞ!!!」

勝どきを上げるディエマ。


しかし、次の瞬間、しびれるような手の感覚に、ハッとする。

剣は地面を叩いていた…


「馬鹿な…」

気づけば、寸止めで延髄蹴りをされた格好のディエマ。


手の反動で飛び上がったと思わせる体制のハージン。


「完全に上体が沈む瞬間にあわせたはずだ!!!」

慌てた様子のディエマに、


チョン…


軽く延髄蹴りの続きを当てるハージン。


「戦士としては失格の様だな…」

「な…なんだと!!」


「確実に当たると思ったんだろ?けれど、当たらないかもしれない。それを見越して動けなければ、死ぬ!戦場であれば尚の事」

「………!!!!」


「生き死にのかかった勝負でなくて良かったな」

勝ち誇るハージン。


「くそっ!!もう一度だ!!」

慌てるディエマ。


そんなディエマに何言ってるんだという表情を見せるハージン。

「はん?お前はもう死んだ!!ゲームオーバーだ」

愕然とするが、首を振ってディエマは訴える。


「もっかい(もう一回)だって!!」

「やめろディエマ。お前の負けだ」

「シ…シド??次は負けないって」


「いいえ、終わりですよディエマ」

手で制するシレイス。


「シレイスまで…」

「ディエマ!!今のが生き死にをかけた戦いだったら死んでた!!違うか!!」

シドが怒気を含む声で言う。

「ぐっ…」


「さすがはリーダーと名乗るだけはあるな。俺の言いたいことわかってる!」

追い打ちをかけるハージン。

「次がある…そんな事を考えているとしたら、ますます戦士失格だぜ」

あざけるようなハージンに、


「首を蹴られたくらいで終わるほど、やわな鍛え方はしてない!!」

抗議するディエマ。


「そうか?」

言うが早いか、近くの木の枝目掛けてダッシュするハージン。

棒高跳びのように体をしならせて舞い上がると、オーバーヘッドキックよろしく、狙った木の枝を文字通り蹴り落した。


転がった木の枝を見て、先ほど自分の首を狙った蹴りがどのような性質のものかを理解するディエマ。

何と木の枝は折れただけでなく、真っ二つに割れていた。

それも太く、重さもありそうな大きな枝が…だ。


蹴り幅が短い分、威力としては下だろうが、失神させるには十分な威力を持っているはずだ。


「お…俺の負けだ…」

悔しさが声に滲みでるディエマ。


「ふん、分かってくれたかよ。俺も弱い者いじめはしたくない…おい、今度は貴様が相手だろうな」

言い放つハージン。


そんなハージンの目を直視するシレイスの表情が曇る。

「???」


最初に見たハージンと、今目の前にいるハージン。

何か違和感があると感じていた。

抑えられぬ衝動…


それを必死に抑えているようにも見えるハージン。

戦うと言ってから、明らかに違う。

まるで別人のような口調で、別人のように目付き鋭いハージン。


そのハージンを覆うような禍々しい魔力を帯びた気を感じていた。

(私の中の衝動は、やはり彼の影響か…??

先ほどから自身にも、ハージンと同じように抑え込まねばならない衝動を抱えていた。


その衝動は、ハージンのそれまで感じたことの無い、すさまじいまでの魔力や動き、神殺しの能力を感じるほどに膨らんでいる。


(ざわつく…これは…何だ…??)

頭に浮かぶ不安。


(解放していいものか…)

迷っていた。


解放すれば、自分が自分でなくなるようで怖かった。

あの時のディエマのようになってしまうかもしれない。


止めてくれる存在が欲しかった。

だから、さっき、ディエマを呼んだのだが…


「おいどうした!怖気づいたか!!」

ハージンが怒りに似た声を上げる。

不安を打ち消すように、不敵な笑いを浮かべるシレイス。


(のまれては駄目だ…)

「何笑ってるんだ?」

「失礼…勝てる気しかしないもので…」


飛び出た言葉で、不安を隠す。


「な、シレイス?」

好戦的なシレイスの言葉に驚くディエマ。

「大丈夫。あなたの仇は絶対取ります」


「ふん、魔導士風情がこの俺に勝てると?」

勝ちを疑わないハージン。

「勝てますね…その魔導士風情を追い払う事しか出来てないじゃないですか」


「なんだと?」

不快感をあらわにするハージン。


挑発しながら、衝動が大きく大きく膨らむのを感じる。

そんな自身に心の中で驚くシレイス。


(何故私の心はこんなにも揺れている??)


理由を探していた。

そんな中、一つの思いが浮かんだ。


「あなたを許せない…」

言った瞬間、目を見開くシレイス。


(これが私の本音…??)


戸惑いながらも理解した様子のシレイス。

(そうか…やっとわかりましたよ…なぜ神殺しなどという無茶な相手に戦いを挑んだのか…)


自分の中の感情を肯定したとたん、それまで抑えていた衝動は弾けた…

叫ぶように思いをぶちまけるシレイス。


「真に神を越える力をお持ちなら、なぜ、我が師ラリスを救えなかったのだ!!」

正面から見据えるシレイスの目。


「ぐっ…!!」

言葉詰まるハージン。


「私は認めない!!何が神殺しだ!!」

                第十二話に~続く~

この小説、はじまりは中学生の時に中途半端な気持ちで描き、数ページで描くのをやめてしまった漫画でした。

でも、いつか完成したいという気持ちだけは本物でした。


そこから数十年かけて、ようやくハージンというキャラクターと向き合うことができました。


僕にとって、ハージンは同志であり、戦友です。

僕の中にあるヒーローそのものです。


絶対に後悔しない物語にしたいので、自己満足に陥らないよう、最後まで読んでてよかったと言っていただける作品を目指してまいります


すこしでも気になったら、ご一読いただければ幸いです。

よろしくお願いいたします。

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