神などいない(6)
(今度こそ死なせない?私…?)
困惑するラリス。
明らかな殺意をもって、攻撃した自分を死なせないと言ってるのか?
(そんなはず…)
オリオストが笑う。
「クック…死なせないだと?それも今度こそ?過去に救い損ねた事があったみたいではないか…どこまでも面白い男だ。しかしだ。その足でどうやって戦うというのだ」
「え??」
慌てて変わり果てた自分の足を見るハージン。
気づいた彼を激痛が襲う。
辛うじて折れ曲がった足を持ち上げ、片足立ちで抱えたラリスを降ろすと、そのまま転がり込み、声ならぬ声を上げ痛がるハージン。
「ガッ!!!!ハッ!!!!!」
猫とネズミの追いかけっこが主の某アニメでお馴染みのシチュエーションであるが、絵がグロすぎて笑えない。
「ハージン…」
不安そうな表情のラリス。
と、次の瞬間、呆気に取られて信じられないという表情にかわった。
ハージンの足が少しずつ向きを変え、戻っていく?
(治せるというの?)
そのことに目もくれず、独りごちるオリオスト。
勝利を確信している彼には、多少、大きな波動が動こうと大したことではなかった。
心を読む事をやめていなければ、気づけたに違いないのだが…
「どうやら、戦線離脱のようだ。神殺しハージン・デュエルだと…フン、がっかりだ。宝剣の守護者といい、所詮俺の前では児戯に等しい力だったようだな」
「あ、あなたは何故三種の神器を求める?」
何故かオリオストの注意を惹くように、たどたどしい口調で話しかけるラリス。
「愚問だ。貴様に何故剣を守護しているのだと聞くのと変わらぬ」
「答えて!!」
「答えなくても解ろう?奴に会うためだ」
「サタン…」
「あぁそうだ」
「何が目的?あなたほどの実力があれば、サタンの手など借りずとも」
「サタンの手を借りる?この俺がか?冗談ではない」
(世界を支配するのが目的でない?)
「世界など、どうでもいい!!あいつだけは!!」
取り乱しかけたオリオストだったが、ハッとし、態度を改める。
「………貴様には関係ない。神器の封印を解き、俺は奴を殺す!!それだけだ…」
「殺す…サタンを?」
「笑いたければ笑え、今から死にゆく貴様には関係ないだろう?」
オリオストが空中を掴むように手を向けると、再び浮き上がるラリス。
オリオストの殺意。
逃げたくても完全に自由を奪われてしまっていた。
(ここまでか…)
諦めかけるラリス。
「そうだ。終わりだ」
再び心を読むオリオスト。
そんなオリオストの心にさざ波を与える衝撃が走る。
それは、強固なる意志。
!!!!!!!!
「き、貴様…」
そこには、折れ曲がったはずの足はなく、正常な足でしっかりと立ち上がるハージンの姿があった。
(ばかな…初めてあった時といい、今といい、何だこいつは…これではまるで…)
不死者…
空中で捕らえられ、諦めさえ見せたラリスから満面の笑みがこぼれる。
「もう、あなたが神殺しだろうとなんだろうと関係ない。この局面を乗り越えられるなら…」
「面白い。それでこそ潰し甲斐があるというものだ。今度こそ死なせないと言ったな?それは、不可能だと解らせてやる必要があるようだ…」
言い終えると同時にオリオストの姿が消える。
「後ろ!!!」
ラリスの悲鳴に近い絶叫。
「!!!!!!!」
驚く間もなく吹っ飛ぶハージンの体。
ラリスの方へと向かう。
「クック、雑作もない」
(ダメ…!!)
動けなかったはずのラリスの手が伸びる。
それまでの勢いが消されたかのように、ふわりと着地するハージンの体。
「助かった!!」
ふいぃいいと汗を拭くようなハージン。
オリオストの方を向き、キッと睨みつける。
「こい!!!」
掛け声と同時に、これまで所在が不明だった光の双剣を手にし、構える。
「いくぞ!!!」
と言い終えるかどうかで、オリオストに剣先が当たる?
二度見するほどの、あっという間の出現劇…
「馬鹿な…ぐぐっ」
光の弾丸のような速さのラリスでも追いつけなかったオリオストのテレポートの発動まで止めるハージンの神速だった。
しかし、肝心の剣先はオリオストを傷つけることなく、かろうじて展開した光のバリアにも見える球体に防がれていた。
しかし、ハージンの押す圧力が上まわるのか…苦し気な表情を浮かべるオリオスト。
(全く読めなかった。いや、読めたとて、間に合わぬ?それほどの速さ…くそっ一級の魔力を誇る俺が読めぬだと?最初に会った時とまるで別人ではないか…)
力で敵わぬと見たオリオストは次の行動に移ろうとするが、
「馬鹿な転移できぬ…だと!!!」
転移し、ハージンの後頭部にバリア帯をそのまま叩きつけるつもりだった。
しかし、叶わない。
宝剣の能力だろうか、すごい勢いで魔力が奪われていくのだ。
その感覚に触れ、初めて恐怖に似た感情を見せるオリオスト。
(まずい…このままでは…)
オリオストが展開していたバリア帯が消えた。
無防備となった腕に一閃が走る。
「ぐあ!!!!!!!!」
腕が裂け、鮮血がほとばしる。
血の流出を防ごうと抑えるオリオスト。
同時に空間転移。
剣先の干渉がない今なら、うまくいく。
ハージン達に見えぬ位置に身を潜めるオリオスト。
(血…血を止めねば…)
ダラダラと滴り落ちる鮮血が草むらを染める。
健全な手のひらからボワッと光が溢れる。
瞬時に塞がる傷口。
手指の動きを確認すると、
(ゆるさぬ…)
怒りの波動が空気を揺らす。
それは、警戒を続けるハージンとファリエスの宝剣にも伝わった。
周囲を見回し、波動の位置を探る。
近くには未だ自由を奪われ浮いたままのラリスと、そのラリスにより引き出されたオリオストの魔力でできた発光体が見える。
(あっちだ…)
感じるまま注意を促す声が宝剣から聞こえる。
「わかってる!!」
同じ感覚を持つハージンが応える。
再び宝剣から声が聞こえることに何の違和感も持たないハージン。
飛ぶ!!
信じられぬほどの跳躍!!
目の前に…
オリオスト!!!
突如出現したハージンに驚く様子も見せずに、手を上に伸ばすかのような動きを見せるオリオスト。
ハージンの注意が一瞬そちらに向いたのを見逃さず、姿を消す。
(下!!!!)
宝剣の注意も空しく、触れたオリオストの手から漏れ出るような魔力に包まれるハージン。
同時に、双剣から光が失われる。
結界?
(い、息が…)
とりみだすハージン。
「クック…魔女ともども、二人仲良くあの世へ送ってやるぞ」
聞こえたと同時に息が吸えるようになったハージン。しかし、包まれた光の色と見えた景色が、さっきとは違う。
「上を見ろ!!!」
それを見て、愕然とするハージン。
ラリスを投げ込もうと構えるオリオストが見える。
という事は!!
「そうだ!!そこは、さっき俺が封じ込められようとしていた結界の中だ!!!動けまい!!今度こそ防げはしない!!」
確かに、さっきからオリオストの方へ飛ぼうとするが、何かに遮られる。
それどころか、ものすごい勢いで力が吸い取られていくのを感じる。
(力がぬけ…)
意識が遠ざかるのを必死にこらえる。
「結界を張る暇は無かったようだな!!」
勝ち誇るオリオストの声。
「傑作だな。貴様はさっき、この魔女を死なせないと言った。だが、その魔女が作り出した結界術のせいで二人とも命をおとす。魔女を死なせないどころか、救うと言った自分まで死んじまうなんてな!神を殺した罰というわけだ!!」
力の侵食を懸命に阻止しようと試みるが、もう、力さえ入らない。
(何をしているのだ…)
宝剣の声。
(先ほども言ったが、力など存在しない。魔術など、まがい物だ。まやかしにすぎぬ。打ち破れ)
(む…り…だ…)
遠ざかるハージンの意識。
そんなハージンの耳にオリオストの声は、水の中で水上の音を聞いているような響きに聞こえたかもしれない。
「この俺に傷をつけたのはさすがだったぞ。先ほど児戯と例えたこと、謝ってやるよ神殺し!!」
振り下ろされるオリオストの腕。
(たすけ…)
おびえた表情のまま、ハージンの待つ結界へとかなりの速度で飛ばされるラリス。
彼女の体が発光帯に接触した次の瞬間、結界の内側を突き破るほどの爆発が起こる。
爆風が起こり、衝撃波が外へと拡散していく。
それは木々をもぎ取り、湖の端を削り、湖面全体を揺らすほどの力…
「この爆発!!不死者といえど、塵さえ残るまい!!」
煙立つ先の見えぬ様子を見降ろし、勝利を疑わないオリオストは言った。
「今回も救えはしなかった…詰めが甘かったな。ハージン・デュエル」
高らかな笑い声が響き渡る。
~第7話に続く~
この小説、はじまりは中学生の時に中途半端な気持ちで描き、数ページで描くのをやめてしまった漫画でした。
でも、いつか完成したいという気持ちだけは本物でした。
そこから数十年かけて、ようやくハージンというキャラクターと向き合うことができました。
僕にとって、ハージンは同志であり、戦友です。
僕の中にあるヒーローそのものです。
絶対に後悔しない物語にしたいので、自己満足に陥らないよう、最後まで読んでてよかったと言っていただける作品を目指してまいります
すこしでも気になったら、ご一読いただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。




