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神などいない(30)

「あ~やっぱりレナンの料理は最高♪」


上機嫌の、ディエマ。

腹をかかえて、苦しそうな感じ…


今、敵襲があれば、間違いなく、お荷物確定のような…

やはり、コイツは戦士失格なのでは…

考えるハージンをよそに、紅茶を飲み終えたシレイスが意を決したように、レナンを呼ぶ。


「ねぇ、レナン、先ほどから気になってはいましたが、あなたの心情を考えるとなかなか切り出せず…」

「おい、もう少し落ち着いてからでも…」

察したディエマが、遮ろうとするが、


「ディエマは黙って、これは絶対避けて通れる問題ではない。同じ村に住むものとして、当然知らなければいけない…」

厳しい顔を向けるシレイスに、仕方ないという風に、肩をすくめるディエマ。


「レナン、単刀直入に聞きますが、村があったであろう場所に村が無かったのです。バードや、みんなはどうしました?あなたはさっき、みんなが来るから料理していたのだと言っていましたね…」


「あ…そうか!!」

ひとり合点するディエマ。

「みんな生きてる?」


期待と不安の入り混じる緊張の場が生まれる。

少女に注目する三人。

しかし、少女の答えは期待とは程遠いものだった。


「見ての通り…よ」

「???」

「誰も、帰って来やしない…」


「ど、どうしたんだよ…レナン…まさかみんな…」

言おうとする寸でのところで、迷うディエマ。

言ってしまったら、本当になってしまう…


シドを失ったばかりでキツ過ぎる。

だから言いたくない…

だが、そんなディエマの弱気を無視するハージン。


「レナン。さっきも言ったが、村があるべき場所になかった。消えた…としか思えない」

「思えないじゃなくて、消えたの…」

「え?」


「だって…」

言い淀むレナン。

その表情に、明らかな怯えが見える。


「レナン?」

ハージンに何か言いたそうにするレナン。

けど、首をふると、


「そ、そう…消えたんだ。わ、私もびっくりして…」

わかりやすく動揺するレナン。

そして…


たすけて…


それは突然伝わってきた。

声なき声…


「ね、ねえ、その事と、関係あるかわからないんだけど、気になる場所があって…」

レナンはまだ喋っている。

だが、間違いなく彼女から発せられたSOS。


たすけてだと…!!?

ハージンにだけ伝わったシグナル。


「気になる場所…ですか?」

「何だよそりゃ?」


シレイスやディエマは気づいていない。


(SOSの原因はその場所にあるのか?)

瞬間的に理解するハージン。


「どこだ?案内してくれ」


驚くレナン。

ちぐはぐな突拍子もない流れで出てきた言葉…

気になる場所…なんかじゃない…


それが何なのか?

どうして行く必要があるのか?

確認することなく、行こうとするハージンに、


「おい…」


言いかけるディエマ。

その背に手を当てるハージン。


(いいから、黙ってついてこい)


声ではなく、念で言葉を伝える。

まただ…

声ではなく意識で会話していた。


「な、何言って…」


言いかけるディエマを遮るように背の圧力を強めるハージン。

驚きながらも、黙るディエマ。

ただならぬ雰囲気を感じ、黙って見守るシレイス。


「行こう!!」

ニコリとするハージンに戸惑うレナンだったが、


「う、うん。こっち…」

申し訳なさそうに言うと、歩き始める。


だめ…

行ったら…


でも…

助けてくれるの?


レナンの思考が伝わる。

迷い…恐怖…

困惑していた。


振りむこうとするレナン…

しかし、まるで見てはいけないように向きを変えてしまった…

まるで何かに脅されているようにも見える…


それを見ながら、またも記憶の琴線に触れるものの、はっきりしない記憶にもどかしさを覚えるハージン。


(見覚えが…ある?)


何故だかわからない…

しかし、見たことのあるシチュエーション。

来たことがあるなどではない、生々しい感覚。


これから起こる事を知っている。

そんな奇妙な感覚がある。


案内されたのは、外…

例の湖。

空はこれから来る夜の闇へと向け、赤さを増しかけたところだ。


「ここがどうかしたのか?」

聞くのはハージン。

「この下に…強い気を感じるんだ…」


ハージンと目線を合わせないように答えるレナン。

指さす指が震えていた…


シドを埋葬するあいだ、不審な点は感じられなかった。

しかし、これから起こることを知っているハージンにとって、それは問題ではなかった。


「湖の底ってことですか?」

「うん。たぶん、みんな…ここに…」


「バカな…それじゃみんな…」


死んでる…


絶望を感じてか、膝から崩れ落ちるディエマ。

だが、信じない気持ちが、死を口にするのを拒んでいる。

シレイスも、息を呑み、湖面を見ている。


そんな二人に、両手で触れるとハージンが言った。


(まだ死んでない…)

「え?でも…」


(いいから聞け)

強い意志に、言葉を飲み込むディエマ。

(いいか、これから何が起こっても、動揺せず、戦うと誓え!!)


「何を言って…」

二人そろって声を出しかけるが、

(誓えるか!?)


ただならぬ圧を感じ、黙る二人。

ただただ、頷く。


その様子を不安げに見るレナンに、大丈夫とでもいうように笑顔を向けると、ハージンが言った。


「底を見てくればいいのか?」


!!!!!!!


嘘を見透かされた子供がそうするように、不自然な間が空く。

「う、うん…」

何とか声を絞り出す。


「よし、わかった!!」

迷いなく助走を始めるハージンに、


「待って!!……待ってよ!!!」

叫ぶレナン。

はっきりと聞こえるはずなのに、止まらないハージン。


バッ!!!!!

大の字宜しく、湖に飛び込むと、そのまま深くに潜っていく。


「ど、どうしよう…」

立ち尽くし、震えだすレナン。

「あたし…あたし…」


「いったい何なんだ?訳わからん」

ハージンといい、レナンといい、不可解な反応に、愚痴るように言い捨てるディエマ。


「レナン、落ち着いて…何があったのか話してくれますか?」

耳心地の言い、声が響くと、何とか声を発するようにして、話し出すレナン。


「わ、悪いやつが来て、む、村ごと…」

言いかけて、湖を指さす…

「気が付い…たら、ここに居て、みんなを…助けた…かったら…ハージンに食事を振る舞うふりして…これを…」


途中から泣きじゃくりながら話す少女の手に、紙包みが握られていた。

急いで手にするシレイス。

紙包みを開いて匂いを嗅ぐ。少し指にとって、舌にのせ、確認する。


「おい、それ大丈夫なのか?」

「劇薬で無い事は確かですが…痺れ薬と言ったところですね」


「な…それって…」

「ハ、ハージンに…食べさ…せたら、呼べって…」

言いかける少女の後ろに、


ザッパーン!!!!!

5メートルはあろうかという大波が立つ。


「やば…」

慌ててレナンの手を引っ張って波から逃れさそうとするディエマ。


しかし、間に合わなかった。

波にのまれ、水中を漂う三人…


そうなっていたはずだ。

波が崩れず、ある形に変形する事が無ければ。


さながら、角の生えた悪魔と恐竜を思わすディテールの透明な水の怪物がそこにいた。

その水の、頭の部分に、瞳の無い目が開き、尖った鼻先が伸び、牙だらけの口が開くと言った。


「どうした。どうした?今回はあっさりと捕まったもんだな神殺しさんよ!!!」


今回は??

疑問を抱くも、その信じられない光景に目を疑うディエマとシレイス。


怪物の手に握られた右手でぶら下がるようにして気を失ったハージンに目を奪われつつ、戦慄するしかなかった。


(いいか、これから何が起こっても、動揺せず、戦うと誓え!!)

ハージンが言った言葉がよみがえる…


「冗談だろ…こんな化け物…」

「聞いてねぇ…」


はるか上空にのびるかのような化け物の巨体。

水でできた魔法生物に、言葉を失う。

その姿はイサイラスなど、比較にならないほど圧倒的だった。


          ~第三十一話に続く~

この小説、はじまりは中学生の時に中途半端な気持ちで描き、数ページで描くのをやめてしまった漫画でした。

でも、いつか完成したいという気持ちだけは本物でした。


そこから数十年かけて、ようやくハージンというキャラクターと向き合うことができました。


僕にとって、ハージンは同志であり、戦友です。

僕の中にあるヒーローそのものです。


絶対に後悔しない物語にしたいので、自己満足に陥らないよう、最後まで読んでてよかったと言っていただける作品を目指してまいります


すこしでも気になったら、ご一読いただければ幸いです。

よろしくお願いいたします。

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