神などいない(31)
山のようにそびえたつ水の怪物に、唖然とするシレイスとディエマ。
「ど、どうしろってんだ…」
相手は水。
切れるのか?
剣に手をかけるも、尻込みするディエマ。
「戦うしか…」
魔力を高めるものの、対峙したことのない敵を前に踏み出せないシレイス。
難敵を前に迷う二人。
ざわつく心…
違う…
そうじゃないだろ?
また、逃げるのか?
また後悔したいのか!!
シドを失った過去がよみがえる。
逡巡するシレイスとディエマには目もくれず、レナンを見る化け物…
「神殺し…こうもあっさりやられる展開は初めてかもな…前回は、お前が俺の波でさらわれたのを助ける為にやられちまったんだよなぁ小娘」
同意を求めるが、
???
何を言ってるのか理解できないといったレナン。
「そうだったそうだった。お前はあの時と同じじゃないんだった」
ますますわからないと言う顔をするが、化け物の独り言は続く。
「まあ、どうでもいいか!!今回も村は全滅。お前ら全員死ぬんだからよ…」
言っているそばからハージンの周りに靄の様なものがかかると、そのまま塊となって覆っていく…
「氷…だと?」
信じがたい光景に、二度見するシレイス。
そう、ハージンが氷の中に閉じ込められていく…
どんどん膨らむ氷の塊。
厚く覆われた球状の氷に、ハージンには頼れない現実を突き付けられたシレイスとディエマ。
「クック、このくらいあれば、重さで動けまい…前回は油断して、こうしなかったのが運の尽きだったからな…」
言うと、ためらうことなく、ソレを湖に放り込んでしまった…
そのまま浮かんでこないハージン。
通常であれば違和感を覚える状況だが、ハージンがいとも簡単にやられたことと、目の前の怪物に気が動転しているのか、この時点では誰も違和感を覚えることは無かった。
「ハージン!!!!」
「何てこった!!」
このピンチを切り抜けるのに一番必要な切り札が居なくなったのだ。
頭を抱えるシレイスとディエマ。
「あ…あぁ…」
震えだすレナン…
怪物の手が少女に伸びる。
掴まれる!!!
思った瞬間、
ガキッ!!!
伸ばした水で構成された手には、少女は無く、ディエマの剣が食い込む。
「させねぇ…」
言いながらも、
バクッバクッ…
心臓が爆発しそうなディエマ。
(ビビるな…)
気づかれない様、深呼吸する。
恐怖と戦ってる…
水のように見える体に触ることが出来た事に正直ホッとしていた。
ハージンが沈んだ方を見て、再度深呼吸…
心臓の高鳴りはやまないが、
「覚悟決めて、やるしかねぇ!!」
自らを鼓舞するように叫ぶ。
「ディエマ!レナンは私が守ります」
そう、コイツもいる!!
シレイスの存在で、幾ばくか不安な心を振り払う事に成功する。
「よっし、いざとなったら、アレ頼むかもしれん…そん時はよろしくな!!」
「縁起でもない。アレにならないでパワーアップ出来るはずですから大丈夫!!私の能力を見くびらないでください」
「そうかよ…」
アレとはバーサクの事だった。
普通なら何のことかとなる会話…
アレで、バーサクの事だと理解したダチ(友達)に、ニヤリとしつつ、神経を集中するディエマ。
(くっそ、ぶよぶよして切れねぇ…)
剣を押し返そうとする魔人の意志を感じる。
凄まじい圧だが、ディエマも負けていない。
だが、図体で勝る怪物は余裕の表情だ。
「ほぉ、やるな…では、これはどうだ?」
「ディエマ!!!」
シレイスの声と同時か、それより早く、動くディエマ。
押していた部分がふつうの水に戻って、剣がすり抜けたのだ。
支えを失い、転びそうになるディエマ。
勢いあまって、体勢を崩しかけたが、何とか持ち直せたのは野生の勘とでもいうべき察知能力あればこそだ。
「初動が大事ってか」
自分の気持ちを鼓舞するディエマに見えない角度からの、怪物の斧のような蹴りが飛ぶ。
グァッシ!!!
剣の腹で受ける!!
そのまま勢いよく転がった。
吹っ飛ばされたかに見えたディエマだったが、またしても超反応!
流すように身をねじって威力を殺していた。
「くぅ、あっぶね!!」
「ハン、思ったより楽しませてくれるな。前回までの村人Aから昇格ってわけだ?今回は新規のイベントが多くて楽しませてくれる。シドの相手もいい加減疲れてたところだったしな…」
「あ???」
さっきから一体何を言ってるんだ?こいつは!!
いら立ちをぶつけるように剣を振るディエマ。
!!!!
またしても水と化し逃げられる…が、
爆発剣!!!!
無数に見える剣が広範囲に水を吹っ飛ばしていく。
化け物の片腕は見る間に吹っ飛ぶ。
これまで切れなかったのが不思議なくらいあっさり飛散する。
衝撃を何回も加える事で分裂させられるらしい。
「これぞ、天性の勘ってやつ?完全に、攻略法が無い訳じゃなさそうだ!!」
偶然、必殺技と攻略法がマッチしただけだったが、図に乗らない手は無い。
お調子者の、快進撃は続く。
「そらそら~!!!」
爆発剣!!!
中途半端に切れ、元に戻らない怪物の腕…
「いいぞ!ディエマ!!!」
思わず声が出たのはシレイス。
「言葉遣い、素に戻ってんぞ!!」
ニヤリと余裕を見せるディエマ。
攻める!!
しかし、湖に戻る魔人。
攻撃が届かないほど離れていく。
「きったねえぞ!!」
思わず声が出るディエマ。
「調子に乗るな!!」
出てくると、元に戻る魔人。
回復する暇を与えないほど一気に畳みかけるしかないようだ。
「あちゃ~、速攻戦かぁ!!」
がっかりするディエマ。
「ふん、運命は変わらない!!どうあろうと貴様らは前回、雑魚だった。ここまでも、これからもな!!お前らなど凍らせれば一巻の終わり…洪水を起こすことだってできる。それを忘れるな」
「なぜそうしない!!」
「ふん、あきらかにこちらが勝つ方法があるというのに、楽しまない手はないだろう?弱者に圧倒的差を見せつけながら勝利する!!戦士としてこれほどの喜びは無い」
「ハージンへのしびれ薬もその圧倒的な勝利をおさめるためですか?」
侮蔑のこもったシレイスの声が響くと、慌てたような化け物の言葉が続いた。
「はん、ハンデだハンデ!!あいつは神と同等かそれ以上の能力をもってやがるんだ。そのくらいしないとやってられねぇんだよ」
「卑怯者の言い訳ですね」
「あ?」
卑怯者のレッテルに難色を示す魔人にディエマが突きつけるように言葉を放つ。
「卑怯者には負けねぇって言ってんだよ!!前回は俺たち、雑魚だっただ?前回とか知らねぇけどよ、雑魚がお前みたいなバケモン相手にここまで出来るかって!!馬鹿にするな!!」
「雑魚だろうが!!シドを救えなかったくせによぉ!!」
!!!!!!
固まる二人。
「怖かった~ってか?泣いてたよなぁ…ぷぷ…笑わせんなっての!!」
イサイラスに抱いたディエマの本音…
何故知ってる?
水の化け物
湖と井戸…
村が消えた理由…
こいつが?
思う間も、怪物の勢いは止まらない。
「シドもこんな臆病者を弟子にしなかったら助かってたのになぁ?あ、あ!!それとも弟子が弟子なら師匠も師匠ってか~?もしかしてビビってやがった?」
睨む二人の眼光に殺気が宿るが、お構いなしの化け物。
「ビビってたから、あんな殺人狂くずれの雑魚にやられたんだろうぜ!死んで当然だよな~お前も、怒った振りして、必死に隠してんだろ?本当はビビってんだろ?さっきみたいによぉ?おい、何とか言えよ」
………
沈黙の間…
ビビってねぇ…
雑魚なんかじゃない!!
シドを…
師匠を…
「馬鹿にするナァアアッ!!!!!!!」
二人で飛ぶ!!!
爆発剣!!
ニードルフォース!!!
無数の剣と、何本にも伸びる針の穴を通すような光の線が、化け物の、上半身と下半身を同時に襲う!!!
爆発剣が腹を裂く。
ニードルフォースは、化け物の左足に刺さると、収束し縦回転しながら、円形を形成すると、のこぎり宜しくそのまま足を切り落とした。
胴体から離れ、落ちた足が水に戻って、湖面を揺らす。
「ふん、これだけか…」
余裕を見せる化け物だったが、
!!!!!!
連続攻撃。
休みない二人の追撃!!
驚いたものの、化け物は崩れ落ち、形を無くす。
避けたのだ!!
本体の無い水を叩いただけに終わる二人の攻撃。
「カッカカ!!無駄無駄!!」
またしても届かぬ距離で元の姿となって復活する化け物。
ダメージは無いように見える。
歯ぎしりする二人。
「キリがねぇ…」
「どうする?」
悩む二人にレナンが叫んだ。
「本体を攻撃しなきゃだめぇえ!!!」
レナンが指さす方向…
魔人の足の部分。
黒い何かが動いたような…
いや、待てよ。
注意してみる。
すると、高速で動く物体を化け物の体を構成する水の中に認める。
「あの球を壊せば…」
!!!!!!!
言いかけたレナンの体が持ち上がる。
知らぬ間に化け物が移動していた。
シレイスの不在を見逃さなかった化け物。
「しまった!!!」
「や、やめろ!!」
飛び掛かるも、湖に逃げられると、手も足も出なかった。
「ひ、卑怯だぞ!!」
「よく言う。どっちがだ!!繰り返すが、お前らなんぞ、相手にしなくてもいいんだぜ!わざわざ、不利になる陸地に寄ってまで相手してやってるじゃないか」
言っているそばで、化け物の手に掴まれたレナンの周りに漂い始める冷気…
「やめろぉおおおおおおっ」
ディエマの悲痛な声も届かず、レナンもハージン同様、氷漬けにされて、湖に沈んでいく…
やはり浮かんでは来なかった。
レナンまでも?
思うシレイス…
今度こそ死なせない!!!
何故かオリオストの魔晶球に閉じ込められた自分たちに向けたハージンの言葉を思い出すディエマ…
しかし言った本人は生きてるのか死んでるのか判らない…
どうやって勝つんだ?
こんな怪物に勝てるのか?
今度こそ死なせない!!!
弱気な心に、その言葉は空しく脳裏に響くだけだった。
~第三十二話に続く~
この小説、はじまりは中学生の時に中途半端な気持ちで描き、数ページで描くのをやめてしまった漫画でした。
でも、いつか完成したいという気持ちだけは本物でした。
そこから数十年かけて、ようやくハージンというキャラクターと向き合うことができました。
僕にとって、ハージンは同志であり、戦友です。
僕の中にあるヒーローそのものです。
絶対に後悔しない物語にしたいので、自己満足に陥らないよう、最後まで読んでてよかったと言っていただける作品を目指してまいります
すこしでも気になったら、ご一読いただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。




