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神などいない(25)

「ディエマ!!!」

血だまりの中のディエマのもとへ、跳躍で瞬時に駆け付けるシレイス。

「………!!」


弱々しいが、息をしている…

意識はあるようだ。


「よかった!!」

シドに合図を送る。


そんな場合か!!とでもいうように手を振るシドだったが、顔を見れたなら、安堵した様子がうかがえただろう。


「塞ぐだけでは駄目だ…溜まった血を抜かなくては…」

言いながら、慣れた手つきで腹の方を押すシレイス。


「グボッ…」

肺というポンプを失った口から吐き出される鮮血。

普通に考えれば、余計に呼吸困難、あるいは出血多量で重篤な状態に陥りそうな方法だが、シレイスが持つ知識は、これが正しいと教えていた。


口元に耳を持っていき、はっきりとした息の行き来があるのを確認すると、今度は傷に手を当てる。

光る手は、魔力を帯び、少しずつだが、穴を塞いでいく。


「頼んだぞシレイス!!」

声はハージン。


この時、注意を化け物に向けていたなら、その口元が歪むのを確認できたに違いない。


笑っていた…


蹴り!蹴り!!蹴りぃいいいいいい!!!!!

防戦一方の怪物。

しかし、蹴っても蹴っても倒れない怪物。


(くそっ急所はどこだ!!)

ディエマとの一戦において、木の枝を真っ二つに裂いたハージンの蹴りである。


しかし、どこを蹴ろうと、まるで通じない。

臓物をはみ出させた箇所にも当たっているはずなのだが、まるで気にする様子のない怪物。


その装甲を切り裂いたシドの一撃が、いかに凄まじい威力だったかと思い知らされる。

まるでゴムでも蹴っているような固い中に弾力的反動を感じるハージン。


(早くしなければ…)

攻撃する視界の隅にある見逃せない状況にハージンが気づいた。


(シド…死ぬな…)

力落ち、生気が感じられないシドの表情。


吐血したか、口元が赤い。

顔は白く、血の気が失せている…


シレイス、まだか…

見やる。


シレイスの精神を削る揺らぎを感じる。

凄まじい集中力での魔法行使だが、ディエマの傷は、まだ治っていないようだ。

やはり、シレイスの治癒魔法は、まだ実戦で使える様なレベルではない…


「くそったれ!!!」

いら立ち、大きく振った蹴りは、軌道を読まれ、よけられてしまう。


「しまった!!!」

シドの方へ飛ぶ化け物…


「くっ!!!」

グッと力を入れるハージンの手に、宝剣が出現していた。

無意識に呼んでいた。


「そうか!」

やっと気づくハージン。

焦って勢い任せに蹴りを放っていたが、崩せないなら、その装甲ごと切り裂いてしまえばよかったのだ。


現に、シドの剣に切られた化け物の腹は、開いたままだった。


「よぉっし!」

シドを助ける為、止まり、力をためる…

化け物目掛け一気に地面を蹴り跳躍するハージン。


しかし、


「なんだと!!」

化け物の狙いはシドでは無かった。

待ってましたとばかり、ハージンと逆に飛ぶ化け物。


「くそっ!!」


怪物の目指す先には、いまだ回復しないディエマに治癒魔法を行使する無防備のシレイスがいた。

化け物の狙いは彼らだったのだ。


「逃げろォオオオオオッ!!シレ…」

ハージンを信じて集中していたシレイスに声は届かなかった。


化け物の体当たりが、まともにディエマごと吹っ飛ばした。

見た目通りの体重であろう巨体は、まるで大岩が降ってきたのを受け止めるがごとく、二人から一気に生気を奪い去った。


化け物が切られた時同様、ビクビクと痙攣するシレイスとディエマ。

演技ではない瀕死の二人。


特にディエマがひどい。

痙攣が弱々しいのだ。


(ディエマ!!!!)

手を伸ばすシド…


もはや、かすれたような声ならぬ声。

口元が紫に変色して息も粗い。


キャアッキャッキャ♪♪

あざ笑うようにステップを踏む化け物…


と、その動きが止まった。


!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

怒気!!


凄まじいまでの怒気を感じ、化け物の表情が歪む。

膨れ上がる感情を表すように、赤く発光するハージン!!


「キィ・サァ・マァアアアア────ッ!!!!」


ズアッ!!!

聞いたことが無い音が走る。


音?空気?

とにかく凄まじい、表現しきれないような現象を起こしながら消えたハージン。


現れたのは、化け物の前。

膝をつき、宝剣で空間を切り裂くように構えるハージンから伸びる光の刀身が化け物の裂けた内部まで続く。


まさに瞬間の出来事…

絶命の断末魔を上げる暇すらなく、真っ二つに裂けた怪物が崩れると、黒い気幕のように消えていった。


(一瞬で、あの装甲を…なんて、力…)

視界がぼやけるのを感じるシドの心の声。


「シレイス!!シレイス!!」

半狂乱のハージン。


(落ち着け…治せる…君なら)

響く声はシド…


シドの思いの強さなのか、念で会話が成立していた。

逆に言えば、そうしないと喋ることが出来ないほどの重篤な状態…


!!!!!

シドとつながった瞬間、ハージンは悟った。

命の火が風前の灯を想起させるくらい、小さく感じられる…


「シド!!!!!」

振り向くハージン。


(バカヤロー…俺より先に二人だ…)


「し、しかし…」


(頼む…ディエマ…シレイスを…)

明らかに先に落ちそうな命の灯…


しかし、ディエマ達も…同じだ。


神速をもってすれば、訳のない距離。

だが、行き来するには時間が足りない。

それほど事態はひっ迫している。


命の選択が必要だった…


一人か…

二人か…


逡巡するハージン。


(迷ってる場合か…俺は大丈夫)

虚勢を張るシド…

その言葉と裏腹に、地面にくずおれ、視線が定まらなくなってきていた。


急げ…

急ぐんだ。


想いがハージンを動かす。

まず、ディエマ…

いや、間に合わない!!


二つの手から練りだされる奇跡の光。

大きくなり、二人とハージンを覆った…


シドが近くにいたなら、恩恵を受けられていたのかもしれない…

見えない光に癒しを感じるシド…


しかし、無情にもシドへと癒しの能力が届くことはなかった。

視線は向いているが、もはや認識できないほど思考が落ちていく。


そんな中、何とか二人の命の火がつながったのを確認すると、シドの目から光が消えた…


                ~第二十六話に続く~



この小説、はじまりは中学生の時に中途半端な気持ちで描き、数ページで描くのをやめてしまった漫画でした。

でも、いつか完成したいという気持ちだけは本物でした。


そこから数十年かけて、ようやくハージンというキャラクターと向き合うことができました。


僕にとって、ハージンは同志であり、戦友です。

僕の中にあるヒーローそのものです。


絶対に後悔しない物語にしたいので、自己満足に陥らないよう、最後まで読んでてよかったと言っていただける作品を目指してまいります


すこしでも気になったら、ご一読いただければ幸いです。

よろしくお願いいたします。

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