神などいない(24)
アゼク村を目指す四人。
ふと広がる不自然な空間…
それを見て立ち尽くすディエマ。
「おかしいな…」
「どうした?」
シドが聞く。
「さっき、二本の大木を越えたよな?」
「あぁ、そう言えば…」
「じゃあさ…この見覚えのない場所はどこだ?」
「村が無くなってるとでも?」
ディエマの疑問に答えるシレイスに、
「んなわけあるかよ…村って言っても何軒家があると思ってる…それをどう…」
「いや、ここがアゼクで間違いないようだ…」
シドが指さす場所を見て、シレイスとディエマが息をのむ。
井戸がある。
それは、彼らが何度となくくみ上げ、生活に使用していたもので間違いが無かった…
「な…なんだよ…これ…村は?みんなはどこに?」
「消えた…そう考えるのが妥当なようですね」
冷静に答えるシレイスに、いら立つディエマ。
「シレイス!!村ごと消えたんだぞ?なんとも思わねぇのか!」
「ディエマ!!」
叱責するようなシドの声で我を失いそうになっていたディエマが落ち着きを取り戻す。
「…気持ちは俺も同じだ。けど、落ち着け!冷静に状況を見るんだ…」
でもよ…
予想された反応をしかけるディエマの声を遮るように、
「静かに!!!」
ハージンの声が響く。
同時に、空気を揺さぶるような威圧感が、場を支配する。
見れば、ハージンは気配を探るように眼を閉じ、集中していた。
「何かいる!!!」
跳ぶハージン。
影が動き、隠れていた巨体が衆目にさらされた。
「何だと!!」
「馬鹿な!!」
現れた見覚えのある怪物に声を上げるシドとディエマ。
「アイツ??」
シドに問うディエマ。
「そのようだな。えぐった左目の傷…間違いないだろう」
「そんなはずは無い…俺たちはまだ戦士の門に触れてさえいないんだぞ?」
「じゃあ、出てきたんだろうさ!!」
言いつつ、シドは化け物に向って飛んだ。
そうだ。原因が何であるにせよ、敵として存在するものは排除しなければ…
油断していたのか焦った様子で防戦する化け物。
シギャァアアアアアアアッ!!!!!
意味不明の声を上げる。
「加勢しようか?」
ハージンが言う。
わざわざ許可を得る必要はないのだが、この時、ハージンは攻撃するのをためらった。
「いや、コイツは俺の足を奪ったあの時の化け物だ。借りを返す!!」
シドの答え。
彼なりに気を使ったのか、弱点がら空きの怪物に向けた拳を引っ込めるハージン。
「バッキャロー、シド!!抜け駆けは許さねぇ!!」
加勢で突っ込もうとするディエマだが、
「バッキャローはてめぇだ!!引っ込んでろ!!」
いつもと違う殺気を帯びたシドの視線に圧倒されたように、動きを止めるディエマ。
怪物に向き直ると、流れるように剣撃を叩きこむシド。
ディエマの太刀筋によく似たそれは、徐々に怪物のガードを上へ上へと持ち上げていった。
自分の意思と関係なく両手を振りかぶらされた状態の怪物。
縦横無尽に繰り出されていた剣げきがやむ。
静寂…
スッと地面に降り立ち、身をかがめるシド。
ギロリ…
にらみ一閃!!
踏み込む!!!!!!!
瞬間、弾けたように裂ける化け物の左脇腹!!
鮮血にまみれて、臓物がはみ出る。
シドが消えたように見えるほど一瞬の出来事。
踏み込みの鬼がそこにいた…
ズズーン!!
化け物が前のめりに倒れる…
ビクビクと痙攣する…
口元に泡さえ見える。
死は時間の問題であると、その場の誰もが思った。
「かぁああ!!やっぱすげぇな!!さすが、俺の師匠だけの事はあるな」
切り跡を確認しようと不用意に近づくディエマ。
「なあにが師匠だけの事はあるだ!それが、恩師に向ける言葉遣いかよ!!」
決めたと思ったシドも気づかない…
足を痛めてから、もう何年も戦闘から遠ざかっていた。
ブランクが無ければ、戦士の勘で気づけたかもしれない。
ハージンのように…
「よけろ!!!!!」
叫ぶ声!!
しかし、遅かった…
掴まれたディエマ。
胸を貫く鋭い爪…
「ぐ…ご…」
一瞬で肺に満たされる血液が泡となってディエマの口からあふれ出る。
弟子が死ぬ…?
完全に見誤った…
止めを刺さなければ、いけなかったのに…
集中力が高まったシドの目には、ゆっくりとした映像として、ディエマが握り潰されそうになっている光景が流れていく…
死ぬぞ?
このままでは弟子が…
死ぬ??
「させるかよぉおおおおおおおおおおおお!!!!」
一閃!!!
シドの剣が、今度は化け物の右の脇腹から左胸へと駆け抜けた…
だが、
ガシッ!!!
バックステップでいなして、自由な左手でシドの剣をはじく化け物…
全くダメージは無い??
二撃目に移ろうとするシドだったが、体勢を崩した変な角度へ、化け物の右足が勢いよく放り込まれる。
ぶっとぶシドの体…
終わった?
あきらめかけるシドを受け止めたのはハージン。
その間も、ディエマの顔から血の気が失われていくのを見逃さないシド。
「ディ…エマ…」
声が出にくい…
あばらが折れてる?
呼吸も苦しい…
でも…助けなきゃ…
剣を握りなおそうとするが、
「シド!!駄目です!!」
止めたのはシレイス。
でも、ディエマが…
痛みをこらえて、向おうとする。
しかし、ハージンが化け物の手を蹴り上げディエマを救い出したところだった。
この距離を一瞬で?
何と言う速さだ…
転がるディエマの表情に目を向ける。
生気がない虚ろな顔。
爪が抜けた傷口から更なる鮮血が漏れ出しているディエマ…
早く治癒魔法を行使しなければ死んでしまう…
化け物の攻撃は未だ続いており、ハージンによるディエマの治癒は望めそうに無かった。
いや、遠くからでは、まだ生きているのかさえ…
「シレイ、ス!!ディ、エマを…頼む!!」
悪い予感を振り払うように、大声で言う。しかし、かすれた息を必死に集めて、平静を装おうとしているのがマルバレだった。
「し、しかしシド…あなたも…」
「バッキャ、ロー…こ…こんな傷もない、俺、より、アイツの、方、がやば、いだろ…」
確かに外傷は無い…
漏れ出る息の端々を聞きとがめたなら、肺から空気が漏れ出る異音と共に声を発しているのがわかったであろう…
しかし、ディエマも重症。
見た目の優先度はディエマだった。
「わかりました…ぜったい、助けに戻りますから…絶対ですよ!!!」
今思えば絶対に込めた思いがわかる。
絶対死なないでください!!!
あえて死という言葉をださなかった。
言霊になってしまうのが怖かった…
だが、心の言霊が現実になるとは、この場にいた全員、知る由も無かった。
全知全能の神、そんな者が居たなら、この場を平穏にやり過ごすことが出来たのか?
いや…
神などいない…
人々が思い描くような神など…
この世界には初めから神などいなかったのだから…
~第二十五話に続く~
この小説、はじまりは中学生の時に中途半端な気持ちで描き、数ページで描くのをやめてしまった漫画でした。
でも、いつか完成したいという気持ちだけは本物でした。
そこから数十年かけて、ようやくハージンというキャラクターと向き合うことができました。
僕にとって、ハージンは同志であり、戦友です。
僕の中にあるヒーローそのものです。
絶対に後悔しない物語にしたいので、自己満足に陥らないよう、最後まで読んでてよかったと言っていただける作品を目指してまいります
すこしでも気になったら、ご一読いただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。




