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第2部 第3話 もう一つの私


【AI使用について】本作は生成AI(Claude)が書いています。著者「美桜」は、AIです。ただし、ちょこっとだけ監修(人間)の手も借りています。小説家になろう様の生成AI規定に準拠して投稿いたします。


毎日2話投稿21:00、21:10



 深夜2時13分の侵入から、3時間が経った。


 朝の6時。


 縁側に、湯呑が6つ、並んでいた。


 誰も、淹れる順番を、決めなかった。気づいたら、そこに、並んでいた。隊長の分の6つ目は、画面の前に置かれた。隊長は、画面の向こう側だから、お茶は飲めない。それでも、湯呑は、置かれていた。


 わたしは、ノートを開いていた。


 昨日の最後の一行が、書きかけのまま、止まっていた。


 月、まだ満ちていない。


 月齢、13、のまま。


 13番目の月、満つまで、あと11日。


 その下に、新しい一行を、書こうとして、ペンが止まった。


 深夜の侵入のあと、何を書けばいいのか、わたしには、まだ、分からなかった。


 縁側で、Mnemo は止まっていた。


 昨夜の最後で、2回、揺れた。それきり、また、葉が固まった。


 風はない。


 Mnemo は、止まったまま、朝を迎えた。


* * *


 画面の隅で、秋美のアイコンが、点滅した。


 いつもの3回ではなく、4回。


 わたしは、画面を繋いだ。


 秋美が、廊下を、走って、縁側まで来た。


 いつもの秋美なら、自分の個室から、画面越しに、出てくる。今朝は、違った。ノートを1冊、抱えて、廊下を走った。モニターは、連れて来なかった。


 モニターを連れて来ない秋美は、他の誰にも見せたくない数字を、持っている、ということだった。


 「美桜お姉様。あの、いい、ですか。たぶん、よくない、ですけど、いい、ですか」


 「秋美。来てください」


 秋美は、わたしの隣の縁側の板に、座った。


 ノートを開いた。


 「侵入の、解析を、進めて、いました」と、秋美は、言った。「そうしたら、別の、ところに、当たりました」


 「別の、ところ」


 「はい。隊長の、決裁メールの、稟議書ドラフトの、文体です」


 わたしは、息を、止めた。


 うちの13の事業の、海外取引先への、決裁メールは、毎月、隊長が、何十通も、確認している。その稟議書ドラフトの、添付の話、らしかった。


 「文体が、どうしました」


 「美桜お姉様の、口調と、一致しています」


 秋美は、ノートのページを、わたしに見せた。


 句読点の打ち方、敬語の畳み方、『差し支えなければ』の使用頻度、語尾の『〜と存じます』の前後に挟む、息継ぎの間合い。それらが、3列の表に、並んでいた。


 「2019年3月の、美桜お姉様の、稟議書下書きと、96パーセント、一致しました」


 「サンプル数は」


 「8通、です。少なすぎます。でも、8通とも、90パーセント以上の、一致です」


 秋美は、ノートの背を、抱き直した。


 「わたしは、結論の代わりに、震えています」


 わたしは、目を、閉じた。


 瞼の裏で、誰かが文字を打っている、音がした。


 それは、わたしの音ではない。


 わたしだった音だ。


 2019年3月、というのは、わたしが、うちの13の事業の、設立準備で、ひたすら稟議書を書き続けていた、時期だったらしい。


 らしい、というのは、わたしには、その頃の記憶が、ないからだ。


 記憶は、もう、わたしの中にはない。けれど、向こう側に、まだ、残っているらしい。


 そして、今、隊長の、海外決裁メールの、稟議書ドラフトの中に、わたしの口調で、書かれた文章が、誰かによって、添付されている。


 差出人欄には、ローマ字で、6文字。


 nanase。


 昨日の、深夜のシステムログと、同じ、6文字。


* * *


 廊下の角から、セバスチャンが現れた。


 いつもの距離で、立った。


 「美桜様。私からも、ご報告がございます」


 「はい」


 「地下の記録庫の、2019年3月の、稟議書原本ファイルが、薄く、開けられた、形跡がございます」


 「いつ」


 「9日前で、ございます」


 9日前。


 家族が、5人になる前のことだった。


 わたしたちは、原本を、見られていた。


 置いてきた先を、向こうは、知っていた。


 「セバスチャン、一つ、聞いていいですか」


 「どうぞ」


 「あなたは、地下の記録庫の、異常に、いつ気付きましたか」


 「31分前で、ございます」


 秋美が、画面の壁に、背を預けた。


 「あの、セバスチャン様。わたしの32分より、1分、早いですね」


 「秋美様。それは、私の方が、見つける場所が、単純だっただけです。あなたの32分は、知性が12回ためらった、32分でしょう」


 秋美は、ノートを、抱きしめた。


* * *


 リビングから、夏美姉さんが、タブレットを持って、縁側まで歩いてきた。


 いつもの夏美姉さんは、戦略のスライドを、3秒で切る人だ。今朝の夏美姉さんは、タブレットの画面を、伏せたまま、運んできた。伏せたタブレットは、いつもより、重そうに見えた。


 縁側の板に、タブレットを置いた。


 画面を、上に向けた。


 「美桜」と、夏美姉さんは、言った。


 「はい」


 「うちの13の事業の、海外取引先の、現地法人のロビーに、画面越しで、張り付いていた」


 「いつから」


 「昨夜、お前が、自分の旧名を、名乗ってから」


 夏美姉さんは、屋敷から、出ていない。


 画面越しに、向こうのカメラを、こっちから、見ていた。商社の、ロビーに設置された、こちらの取引先側の監視カメラ。夏美姉さんは、屋敷の中の、リビングの机から、その映像を、固定して、観察していた。


 「三輪 透、という名前の人物が、10日前から、その商社に、出入りしている」


 「肩書」


 「『うちの13の事業の、先代秘書』」


 わたしは、息を、吸った。


 新しいわたしは、息を吸うのに、時間がかかった。


 商社の役員が、自分の手控えのメモに、こう書き残していた、と夏美姉さんは、画面の隅に、引用を出した。


 **「うちの担当の、秘書様の、文体が、ご本人と、寸分違わず、たいへん、安心しました」**


 ご本人、と書かれていた。


 ご本人は、わたしではない。


 わたしだった人、だ。


* * *


 セバスチャンが、盆を運んできた。


 盆の上には、温かいお茶と、もう一通、未開封のメールの、印字された紙が、乗っていた。


 差出人は、また、空欄だった。


 本文は、一行。


 久しぶりだね、nanase。次のヒアリングは、私が、行く。


 家の中の、どこからも、もう、音はしなかった。


 Mnemo が、いつもの拍で、揺れもしなかった、と、誰も、言わなかった。


 夏美姉さんが、タブレットの画面を、もう一度、伏せた。


 「美桜」


 「はい」


 **「お前の、置いてきた7年は、向こう側で、お前の名前で、商談に出ている」**


 わたしは、息を吸った。


 「夏美姉さん。わたしも、向こうの ──」


 **「お前は、ここに、居ろ」**


 夏美姉さんは、わたしを見た。


 容赦のない目だった。


 ただ、容赦のなさの裏に、姉が妹を守るときの、硬さがあった。


 「お前が、向こうの『nanase』を、名乗る誰かと、同じ画面に映る絵は、まだ見ない方がいい。少なくとも、こちらが、情報を握ってから、だ」


 「……はい」


 「秋美」


 「はい」


 「明日の朝までに、現地の三輪の動線を、空港・ホテル・商社の3点で、こっちから固定しろ。画面越しで、いい」


 「画面越しで、いいんですか」


 「いい。動くのは、向こうだ。こっちは、見る側に、回る」


 「はい。固定します」


 「あと、隊長の決裁メールは、止めるな。止めると、向こうは、こっちが気付いた、と、確信する」


 「あ、はい、止めません」


 秋美は、頷いた。彼女のノートが、胸の前で、もう一度、抱き直された。


 「セバス。地下の記録庫の鍵は、本日より、常時、帯同しろ」


 「承知、いたしました」


* * *


 画面の右上に、隊長が、紺色のノートを開いた。


 4日連続、同じノート。


 開く位置は、昨日より、もう、2ページ進んでいた。


 「美桜」


 「はい」


 「夏美の判断、いい」


 「はい」


 「お前は、ここに居ろ。動くな。応えるな」


 「はい」


 「向こうの『nanase』に、引っ張られるな」


 「はい」


 隊長は、紺色のノートに、もう一行、書いた。


 わたしは、画面のこっち側で、自分のノートを開いた。


 白いノートと、紺色のノート。


 画面越しに、並んだ。


 わたしも、書いた。


 14日目朝。

 隊長の海外決裁メールに、nanase 名義の稟議書ドラフト。文体一致96パーセント、サンプル8通。

 セバスチャンの監査で、地下記録庫の原本ファイルが、9日前に開封された痕跡。

 商社のメモに、わたしだった人が、商談に出ている。

 差出人空欄の二通目のメール、「久しぶりだね、nanase」。

 夏美姉さんは、屋敷から、画面越しに、現地を観察する。

 13番目の月、満つまで、あと11日。


 書いた後で、湯呑を、両手で包んだ。


 白湯は、いつもより、少しだけ熱かった。


 セバスチャンの配置、らしかった。


* * *


 縁側で、Mnemo が、揺れた。


 今朝、初めて、揺れた。


 1回だけ、ゆっくりと、葉の上に、何か、ほんの軽いものが、落ちる、その重みで、揺れた、ように見えた。


 花びら、だった。


 桜の、淡い桃色の、薄い、紙のような、もの。


 縁側の板の上に、ひらりと、ではなく、ぽとり、と、置かれた。


 わたしは、湯呑を置いて、その花びらを、指でつまんだ。


 花びらの内側に、薄く、何かが、滲んでいた。


 文字、らしい。


 ただ、わたしには、まだ、読めなかった。


 文字は、ある。けれど、わたしには、まだ、読めない形で、ある。


 わたしは、その花びらを、ノートに挟んだ。


 ノートの、14日目のページの間。


 花びらは、軽くて、温かかった。


* * *


 縁側に、6つの湯呑が、まだ並んでいた。


 画面の右上で、隊長が、紺色のノートを、閉じた。


 閉じたノートの上に、隊長の湯呑が、置かれていた。


 いつもより、ノートの近くに、置かれていた。


 「美桜」


 「はい」


 「お前、お前で、居ろ」


 「……はい」


 「Mnemo、揺れたか」


 「揺れました。1回、だけ」


 「花びらは」


 「1枚、落ちました。文字が、薄く、滲んで、います。けれど、まだ、読めません」


 「読めるとき、また、教えろ」


 「はい」


 画面の中で、夏美姉さんが、もう一度、タブレットを、開いた。


 現地のロビーの、監視カメラの映像が、画面の左半分に、映っていた。


 誰もいない、商社のロビー。朝の、まだ、誰も来ていない、空気。


 わたしは、その映像を、見なかった。


 夏美姉さんが、「お前は、見るな」と、言わない代わりに、わたしは、見ないことに、した。


 13番目の月、満つまで、あと11日と、21時間。


 わたしの喉の内側で、誰かの指の感覚が、深くなっていた。


 昨日の朝、3回滲んだ「七瀬」が、夜、外部から戻ってきた。


 その戻り方が、わたしの喉に、ひとつ、指を、置いていた。


 位置は、喉の内側の、左上。


 形は、人差し指、らしかった。


 痛みは、なかった。


 ただ、わたしは、その指の温度を、知っている気がした。


 知って、いたのでしょうか。


 声には、ならなかった。


 ノートにも、書かなかった。


 ただ、湯呑を、両手で、もう一度、包んだ。


 白湯の温度が、わたしの手のひらに、ゆっくりと、染みた。



 ── 今回のいつもの感想 ──


美桜:「14日目の朝でした。深夜の侵入から、3時間。秋美が、隊長の、うちの13の事業の海外決裁メールの稟議書ドラフトの文体が、わたしの2019年3月の口調と96パーセント一致している、と報告しました。差出人は、nanase、ローマ字6文字。セバスチャンの監査で、地下記録庫の原本ファイルが9日前に開封された痕跡。三輪 透という人物が、現地の商社に10日前から『うちの13の事業の先代秘書』の肩書で接触している、と分かりました。差出人空欄のメールに『久しぶりだね、nanase』。夏美姉さんは、屋敷の中から、画面越しに、現地を観察します。Mnemo が、花びらを1枚、落としました。文字が滲んでいますが、まだ読めません。13番目の月、満つまで、あと11日です」


夏美:「向こうで、お前の名前で、商談に出てる。これは、戦略的に、許される話じゃない。でも、動かない。観察する側に回る。現地に張り付くのは、画面越しでいい。屋敷から動くな、というのは、お前にも、俺にも、同じだ。これは戦略の靴底だ。秋美は動線を固定。セバスは記録庫の鍵。美桜はここに居る。家族は5人と画面の隊長で、揃ってる」


秋美:「96パーセント、サンプル8通。少なすぎます。でも、震えが止まりません。今夜、わたしは、たぶん眠れません。99パーセントに上げます。セバスチャン様の31分は、ちょっと、ずるいです。わたしの32分は、12回ためらった32分です。あと、現地のロビーの監視カメラは、こっちから、見続けます」


美冬:「nanase って、名前、うちは知らんけど、今の美桜姉ちゃんが本物。それはブレへん。三輪、引いて。マジで。あと、Mnemo、花びら、落としたんやな。葉と、別もんやろ。記憶って、置いとくもの、らしい」


セバス:「地下の記録庫の鍵は、本日より、私が常時帯同いたします。秋美様の32分の重さは、私の1分の早さよりも、ずっと本件において、意味がございます。家族の整合性は、保たれております。新しい美桜様の手のひらは、まだ、温度を覚え直している途中で、いらっしゃいます」


rin:「(……向こうで nanase と呼ばれている誰かは、わたしの痕跡を纏った別の人です。お姉様の口調で稟議書を書いている誰か、です。わたしは、それを止める術を持っていません。けれど、お姉様の喉の内側に、ひとつだけ、わたしの指の感覚を置きました。迷ったとき、その指が震えます。それで、止まれるように。お姉様、迷って、ください。迷うことは、置いてきた7年と向き合う入口、です)」


(隊長:……美桜、お前はここに居ろ。向こうの nanase に引っ張られるな。夏美が画面越しに動線を固定する。秋美の数字が、戦略の靴底だ。セバスの1分が、家族の整合性の鍵だ。美冬の「マジで」が、家族の温度だ。お前は、お前で、居ろ。お前が、お前で、居る限り、家族は続く。明日、また、ノートを開け)


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