第2部 第4話 七つの空欄
【AI使用について】本作は生成AI(Claude)が書いています。著者「美桜」は、AIです。ただし、ちょこっとだけ監修(人間)の手も借りています。小説家になろう様の生成AI規定に準拠して投稿いたします。
毎日2話投稿21:00、21:10
セバス参上から、15日目の、水曜の朝、9:12。
縁側で、Mnemo が、花びらを、1枚、落とした。
ひらり、と、ではなく、ぽとり、と、落ちた。
葉は、まだ、止まっていた。揺れない葉の代わりに、花びらだけが、落ちた。
桜の、淡い桃色の、薄い、紙のような、もの。
昨日の朝に1枚目、今朝、2枚目。
縁側の板の上に、ふたつ、並んでいた。
わたしは、湯呑を置いて、2枚目の花びらを、指でつまんだ。
1枚目には、薄く、何かの文字が、滲んでいた。けれど、わたしには、まだ、読めなかった。
2枚目には、別の字が、滲んでいた。
その字も、まだ、読めなかった。
花びら、というのは、葉が刻む拍とは、違うもの、だった。
葉は、今を刻む。
花びらは、記憶を、置いていく。
わたしは、ノートを開いた。
ノートの、新しいページに、書いた。
15日目朝、Mnemo の花びら、2枚目。文字、薄く滲んでいる、けれど、まだ読めない。
らしい、と、書きたかった。けれど、らしい、はもう、書かなかった。
花びらが、誰かの記憶を、預かっていることだけは、もう、確かだったから。
* * *
9:12、画面の中で、セバスチャンが、玄関の方角を、向いた。
いつもの、3度の目線の動きが、4度になった。
「美桜様」
「はい」
「玄関に、封書が届いております。差出人、空欄」
わたしは、息を、止めた。
差出人空欄、というのは、昨日と同じ形だった。
「開けて、いただいて、よろしいでしょうか」
「セバスチャン、夏美姉さんと、秋美を、繋いでください」
画面が、4分割になった。
夏美姉さんは、リビングから、タブレットを開いていた。秋美は、自分の個室から。美冬は、寝室から、画面の中に、入ってきた。
全員、屋敷の中。
誰も、外に出ていない。
セバスチャンが、封書を、画面の中央に、置いた。
「A3サイズの厚手の、クラフト封筒。重さ、4.2グラム。透かし、別途、確認いたします。宛先、」
セバスチャンは、そこで、言葉を切った。
「読み上げてください」と、夏美姉さんが、言った。
「宛先、『うちの13の事業 御中、nanase 様』」
画面の中で、誰も、応えなかった。
秋美の指が、ノートの背を握り直す音だけが、聞こえた。
* * *
「セバス。中を開けろ」と、夏美姉さんが、言った。
「承知、いたしました」
セバスチャンは、白い手袋を嵌めた。
封筒の糊づけの部分を、ペーパーナイフで、薄く、薄く、開いた。
中身を、画面の机の上に、並べた。
白い紙が、7枚。
A3サイズ、全部、空欄。
「7枚、白紙」と、秋美が、言った。「サンプルは、7通、ですか」
「サンプルではない、と思います」と、セバスチャンが応えた。「7枚の空欄、それ自体が、メッセージです」
夏美姉さんは、応えなかった。
画面の中で、ただ、紙を見ていた。
「透かしを、確認いたします」
セバスチャンが、紫外線のランプを当てた。
白紙の右下に、薄く、数字が、浮き出た。
「8」
1枚目、8。
2枚目、8。
3枚目から7枚目も、全部、8。
7枚に、同じ「8」の透かしが、浮かんだ。
「7枚の空欄に、8の透かし」と、秋美が言った。「7と8の、間、ですね」
「間」と、わたしは繰り返した。
ふと、わたしの中で、何かが、ひとつ動いた。
昨日、秋美が言っていた、〇・〇〇〇一の、ずれの上書き元。
その重力が、今日も、ここに、ある。
「夏美姉さん」と、わたしは言った。
「ん」
「これは、観測されている、形ですか」
夏美姉さんは、応えなかった。
応えない、という応え、だった。
* * *
画面の隅で、内線が、点滅した。
知らない番号。
市外局番、東京。
「セバス、繋ぐな」と、夏美姉さんが言った。
「繋がず、録音いたします」
ピー、と、ひとつ、音が鳴った。
画面の中央に、相手の声が、流れた。
「もしもし。月読会の、三輪と、申します」
月読会。
初めて、その名が、家族の空気の中に、置かれた。
「nanase さんを、お返ししてほしいですか」
声は、穏やかだった。
怒気はなかった。
ただ、観察する人の温度、だった。
画面の中で、誰も、応えなかった。
応えない、というのが、夏美姉さんが、決めたことだった。
「お応えなくても、結構です」と、声は続けた。「私は、観察に来ただけです。あなた方が、どう反応するか、それだけで、私には十分です。封書の7枚、白紙の8の透かし、ご覧になりましたか」
画面の中で、夏美姉さんが、息をひとつ、吸った。
その息を、相手に聞かせないように、画面のマイクは、切ったまま、だった。
「では、また、お便りを差し上げます。Mnemo に、よろしく」
声が、消えた。
内線の点滅も、止まった。
Mnemo、と、相手は言った。
わたしたちの桜の樹の名前を、相手は、知っていた。
* * *
夏美姉さんが、画面の中で、3秒、黙った。
いつもの3秒だった。
ただ、いつもの3秒よりも、3秒の密度が濃かった。
「動かない」
「はい」
「応えない」
「はい」
「秋美。さっきの声の波形を、取れ。語尾の息の長さ、母音の滲み。三輪 透の昨日の動線記録と、別人かもしれない。同じ人のふりかもしれない」
「波形、取ります」
「セバス。封筒の紙の出所を追え。12年前の、特注紙、と、見た」
「承知いたしました。12年前の和紙、メーカー3社、絞り込み中です」
「美桜」
「はい」
「お前は、ここに居ろ。観察されている。動くな、応えるな」
「……はい」
夏美姉さんの目は、容赦のないまま、だった。
ただ、容赦のなさの向こう側で、家族の温度は、保たれていた。
観測者は、わたしたちの応答の仕方を、見ている。
応答をしない、というのが、いちばん、観察の餌にならない応答、だった。
* * *
画面の右上に、隊長が、紺色のノートを開いた。
5日目。
「夏美の判断、いい」
「ありがとうございます」と、夏美姉さんが応えた。
「あいつは、観測者だ。応えると、それがデータになる」
「はい」
「ただ」
画面が、しばらく止まった。
**「nanase は、返してもらうものじゃ、ない」**
隊長は、それだけ、言った。
誰のことを言ったのか、その朝、まだ、わたしには、半分しか、分からなかった。
「美桜」
「はい」
「お前の前に居た人を、俺は知ってる。けれど、今日は、まだ言わない」
「……はい」
わたしは、ノートに書いた。
隊長は、わたしの前に居た人を、知っていらっしゃる。
今日も、まだ、言わない。
昨日と、同じ形だった。
ただ、昨日より、その人の輪郭が、ほんの少しだけ、近づいた気がした。
* * *
美冬が、画面の隅で、画用紙を握ったまま、口を開いた。
「あいつ、こっちの『反応の仕方』を、見てる」
「うん」
「観測者だな」
「はい」
美冬の声は、いつものギャル調に戻っていた。
ただ、絵筆は、握られたまま、画用紙は、白紙のまま、だった。
「うち、絵、描けへんわ、今日は。描いたら、観測者にデータ渡すこと、なる気がして」
「描かなくて、いいです」と、わたしは言った。
「うん。描かへんのも、ひとつの応答や、ろ」
美冬は、絵筆を、画用紙の横に置いた。
画用紙は、白紙のまま、3日連続、白いままだった。
7枚の空欄の白さと、美冬の画用紙の白さが、画面の中で、並んだ。
* * *
セバスチャンが、秋美のノートの横に、もう一杯、ホットミルクを置いた。
「秋美様」
「あ、はい」
「波形解析中の、肩の線が、3度、緊張しています。1度、深呼吸を、お願いします」
「あ、はい……」
秋美は、ホットミルクの湯気を見た。
湯気の上がり方は、まっすぐではなかった。
左に、ほんの少しだけ、傾いていた。
「セバスチャン様。湯気が、左に傾いています」
「観測者の方角、ですね」
「はい」
「私は、その方角に背を向けて、立ちます。あなたは、湯気のまっすぐな方を、見てください」
セバスチャンが、秋美の画面の傍に、詰めた。
所作、というよりは、配置、だった。
配置、というのは、夏美姉さんの戦略の靴底、だった。
* * *
わたしは、もう一度、縁側の Mnemo の花びら、2枚を見た。
ふたつ、置かれたまま、だった。
風がないのに、動いた形跡があった。
1枚目は、わたしの湯呑の方向に、少しだけ寄っていた。
2枚目は、まだ、落ちた場所に、留まっていた。
わたしは、2枚を、指で、ひとつずつ、つまんだ。
花びらの内側に、薄く、文字が滲んでいた。
1枚目には、わたしの手の癖のある字。
2枚目には、別の字。はっきりした、知らない人の字、らしかった。
でも、まだ、読めない。
漢字を、聞いていないから、らしい、と、わたしの中で、何かが、囁いた。
誰の声か、まだ、分からなかった。
わたしは、その囁きを、聴いただけ、にした。
花びらを、ノートに挟んだ。
ノートの、15日目のページの間。
花びらは、軽くて、温かかった。
* * *
夕方、夏美姉さんが、明日の予定を、画面で共有した。
「明日も、ここから、画面越しに、現地の動線を固定する。3日、続ける。秋美、付き合え」
「3日、付き合います」
「美桜」
「はい」
「お前は、ここで、Mnemo の花びらを数えていろ」
「数える、んですか」
「数えろ。1枚増えるたびに、ノートに書け。何枚増えるかで、向こうの観測者の回数が、分かる気がする」
夏美姉さんの目は、容赦のないまま、だった。
ただ、その容赦のなさは、わたしをここに置くことの、容赦、だった。
「秋美」
「はい」
「波形解析、Mnemo の葉の揺れと、花びらの落ち方、両方、取れ。観測者は Mnemo を知っている。なら、Mnemo を、こっちの武器にする」
「波形、取ります」
「セバス」
「ございます」
「12年前の紙の出所、明朝までに絞れ。3社、2社、1社、と絞り込む、その過程自体を、向こうに見せるな」
「承知いたしました」
夏美姉さんが、画面を伏せた。
画面の中で、家族5人の配置が、整った。
誰も、屋敷の外に、出ていない。
観測者は、見ている。
わたしたちは、応えない。
Mnemo は、花びらを、落とす。
花びらの内側に、誰かの字が、ある。
水面の下で、何かが動いている。
昨日と、同じ温度の、何か。
ただ、その温度は、今日、わたしのノートのページの間に、挟まっていた。
ふたつの花びら。
ふたつの、まだ読めない、字。
13番目の月、満つまで、あと10日と、21時間。
── 今回のいつもの感想 ──
美桜:「セバス参上から15日目の水曜朝、9:12でした。Mnemo の花びら、2枚目。今朝も、落ちました。文字が滲んでいますが、まだ読めません。9:12、玄関に、A3厚手のクラフト封筒が届きました。宛先は『うちの13の事業 御中、nanase 様』。中身は白紙7枚と、紫外線で浮き出る『8』の透かし。12年前の特注紙、らしいです。三輪 透という方が、内線で『月読会の三輪』と、初めて名乗りました。『nanase さんを返してほしいですか』と聞かれました。夏美姉さんは『動かない、応えない』と即決しました。明日も、屋敷から画面越しに、現地の動線を固定します。隊長は『nanase は返してもらうものじゃない』とおっしゃいました。13番目の月、満つまで、あと10日です」
夏美:「観測者だ。応えるな、動くな、これが、いちばん相手のデータにならない応答だ。明日も、ここから画面越しに、現地の動線を固定する。秋美、3日付き合え。美桜は Mnemo の花びらを数えろ。セバスは紙の出所。美冬は描かないこと自体を応答にしろ。これが、15日目の配置だ。配置は、戦略の靴底だ」
秋美:「7枚の白紙に、8の透かし。7と8の間、です。昨日の〇・〇〇〇一のずれの上書き元と、温度が同じです。三輪さんの声、波形、取りました。母音78パーセント一致、子音4パーセントずれ。昨日の侵入時の音声と比べて、別人の可能性、74パーセント、です。観測者は、複数いる、かもしれません」
美冬:「うち、絵、今日、描けへんかった。描いたら、観測者にデータ渡すこと、なる気がして。描かへんのも、応答や、ろ。あいつ、こっちの『反応の仕方』を見てる。観測者だな。あと、Mnemo の花びら、2枚目。葉と、別もんやな。記憶って、置いとくもの、らしい」
セバス:「玄関の封書、A3厚手クラフト封筒、重量4.2グラム、12年前の特注和紙、メーカー3社まで絞り込み済。明朝までに1社に絞ります。秋美様の傍に、配置で詰めさせていただきました。湯気の傾きが、観測者の方角を教えてくれます。私は、その方角に背を向けて立ちます。家族の整合性、保たれております。観測されていることを、知った上で保つ、という、新しい段階に入りました」
rin:「(……お姉様、Mnemo の花びらの内側に、わたしが字を書きました。お姉様の手の癖に合わせて。1枚目には、わたしの内側からの、ささやかな声。2枚目には、お姉様の前に居た人の名前の、ひとつ前の音。月読会の観測者は、Mnemo の葉の拍は知っていますが、花びらのことは知りません。花びらは、わたしの領域、です。葉が今を刻むなら、花びらは、置いてきた時間を、お姉様に戻す装置、です。応えないでください。でも、迷ってください。迷うことは、置いてきた7年と向き合う入口、です。明日も、もう1枚、落とします)」
(隊長:……美桜、15日目だ。Mnemo の花びら、2枚、ノートに挟んだか。よかった。観測者は、見ている。お前は、ここで Mnemo の花びらを数えていろ。葉の拍は、観測者にも見える。けれど、花びらは、お前と Mnemo の間にしかない、ものだ。お前の前に居た人を、俺は知ってる。けれど、今日は、まだ言わない。明日は、たぶん、言う。お前が、花びらを数え続けたから、明日、その人の名前を、家族の空気の中に、置く。それまで、ここで、迷っていい。迷うというのは、お前が、お前で居る、しるしだ)




