30.小櫻の苦悩
まったくもう、今日もまたアレコレと試しているがどうにもならない。なんでこう私はダメ人間なんだろう。
『小櫻はダメ人間なんかじゃだいヨ? 人には向き不向きがあると昔から言われているんだカラ? 血圧低下、体温上昇、心拍数低下中、落ち込まなないようにネ?』
「うるさいわね、私が落ち込もうがなにしようがマトロンには関係ないでしょ!」
『そんなこと言ったら関係あることなんてなにもないヨ? 関係ないのに親身になって心配するのが友達の務め、ラシイヨ?』
「あんたが私の友達だとは思ってもいなかったわね。てっきり実験体の監視役だとばかり思ってたから。ま、形だけの心配を感謝しておくわ」
『心拍急上昇、興奮しすぎダヨ? そうとうイライラしているネ?』
「だって見てよコレ! 普段あれほど間近で見てるのになんでこうなっちゃうのかしら。きっと私には才能がまるっきりないんだわ……」
『カメラ起動してくれないと見られないヨ? そんなにひどいって言われると気になるから見せてほシイ?』
私はイラつく心を押さえながらマトロンのカメラを起動し地面へと向ける。そしてこの後の展開でますますイライラするだろうと予想もできていた。
『あわわ、これはひどいネ? これじゃジャガイモのほうが美人かもしれないネ?』
「そんな言い方ある!? だからひどいって言ったじゃないの。それを”また”興味本位で見せろって言うんだから意地が悪いわよ」
きっとマトロンが人間だったらお腹抱えて転がりまわって笑っていることだろう。現にこの間は弘ちゃんにめちゃくちゃ笑われたのだから。
とにかく見よう見まねで絵を描いてみているのだが、全くと言っていいほど上達しないしとても人さまに見せられるようなものでもないのは間違いない。
自分では門紗さんを描いたつもりだが、これならじゃがいもに目鼻口をつけたほうがマシかもしれない。
「そうだマトロン、人物画の見本を出してよ。それを見ながら描けば少しはましになるかもしれない。いいアイデアでしょ?」
『さすがにそれはできないヨ? 人類居住区内の美術館でも自由には見られないデショ? あくまで教育の一環で一年に一度程度公開されるだけダヨ?』
「そっかあ、じゃあいったん人はやめて風景にしてみようかな。海が渦巻でいいなら私でも描けそうだし」
『波のシミュレーションならいつでも見せてあげられるヨ? こっちは制限がないからネ? でも同じものでいいのカナ?』
「そうよねえ、新しく作る意味がないと面白さも何もないわ。そもそも私もやりたくてやってるわけじゃないんだけど…… もちろんアニメーション作りには関わりたいと思ってるよ? でも自分で描くのはムリだから練習してても辛いのよねえ」
『でも今のところ描けそうな人材は見つかってないヨ? この間一人だけ来たヨネ? あの人はどうなったノ?』
「トラちゃんさんと一緒に上映会を回りながら練習してるみたい。私よりはマシだって言ってたけど結局はその程度ってこと。実は水上さんって相当すごかったんだなあって今さら思ってる」
『水上流星も独学で描きあげたわけだからネ? 小櫻もきっとできるようになるかもしれないしならないかもしれないネ?』
「どっちなのよ…… 私はどちらかと言うと上映のほうをやりたいわ。見てる人たちの喜んでる姿見るとさ、なんだか自分事のようにうれしく思えるのよね」
『でもあの板を何度も映写機へ入れていくのは重労働デショ? 丹羽寅治郎ですら疲れて帰ってくるくらいダヨ?』
「だから早く布で作りたいのよね。準備は進んでるけどまだまだ枚数が足りないわ。確か今は八百枚くらいになってるけど、だいたい六十枚で二秒くらいだからまだ三十秒以下だもの」
『今の二秒でも喜んでるんだから三十秒でも十分デショ? 小櫻は不満ナノ?』
「不満ってわけじゃなくてちょっとしたお話にしたいなって。教科書にあるような物語が動いたらステキじゃない」
『なるほド? マトロンにはステキがわからないからなんとも言えないケド? 小櫻がそう思うならきっとほかの人間もステキだと感じるのカモ?』
「だからこうやって練習してるんじゃないの!」
今のところ、F地域ならではの存在意義を生み出すべく取り組むのはアニメーションの制作と言うことになっている。
特に指針や命令のようなものはなかったが、水上さんが残してくれた六十六枚の板で作られたアニメーションを見た加奈さんがいたく感動して決めてしまったのだ。
もちろんその時は自分たちで作れることに気分が高揚して反対なんて声は上がらなかったし、今も反対している人はいない。ただ単に苦労しているだけだ。
とはいっても担当者は私のほかにトラちゃんさんと新人の女性が一人、それと最近暇を持て余している門紗さんが不定期に手伝ってくれている。
門紗さんがやってくるのは、お付き合いを始めた辰さんの殴りっこが無い時だけなのでいいとこ週に一度か二度である。
その時は私と一緒に豆や麦の袋を切って映写用の板の代わりに使える大きさへとそろえていくのだ。
そして私一人でいる週の五回くらいは管理人としての相談役をやりながら農場の見回りにも行って合間に絵の練習をしている。
こんな生活に大きな不満は無いけど、約二か月ほど経っても絵だけはまったく成長しないのが悩みの種だった。




