31.新戦力現る
そんな成長の無い生活に転機が訪れた。
「加奈さん、今回は何しに戻ってたんですか? 戻っていくたびにもう帰ってこないんじゃないかって不安になるんですよね……」
「あはは、小櫻君は心配性だな。私がキミたちにすべてを押し付けて逃げ出すとでも? そんなひどいことはしないさ」
「逃げ出すというよりは成長が見られないから諦められる、見放されるって感じでしょうか。政府の気まぐれで始まったわけですから、気まぐれで取りやめになってもおかしくないですよね?」
「うーん、気まぐれと言うのは違うんじゃないかな。政府は長期的な計画を好むからね。何年計画なのかは知らないが、少なくとも五年や十年単位で考えていると思う」
「ひゃあ、そんなに練習続けられませんよ…… 私には才能が無いんですから」
「確かに絵の才能はなさそうに思えるね――」
加奈さんはズバリとそう言いながら足元へ視線を落とした。そこにはたった今私が描いた似顔絵があるのだが……
「―― 私ってそんなジャガイモみたいな顔をしているかい?」
「とんでもない! 加奈さん美人ですもんね。ぜーんぶ私に才能が無いのが悪いんです。自分でもへたくそだってわかってますよ? でもどうにもならないんですから仕方ありません」
一生懸命描いたつもりでも、そこに記されるのはジャガイモに棒のような手足をはやしたブサイクななにかなのだ。自分でもなんでこうなるのか理解できない。
「と言うわけで、今回居住区から助っ人を連れてきた。と言うよりは逮捕された者を引き取ってきたんだけどね。よし、来たまえ」
加奈さんの合図でトラックの中から出てきたのは、ほっそりとした色白の女の子だった。歳は私と同じくらいだろうか。いったい何をして捕まってしまったのか。
「彼女は古宅香月君だ。歳は十九なので小櫻君と近いな。いい友人になれるといいのだが。まあ仲良くやってくれ」
「えっと―― 逮捕って、古宅さんはいったいなにをしたんですか?」
「まあ大したことは無い。反政府運動に参加していただけだからね。ただし――」
「ちょっとー、溜めないでくださいよ。ドキドキします……」
「自宅を家宅捜索したときによからぬものが見つかってしまってね。まあ禁制品の所持・製造、および動乱参加による逮捕で収容所送りになるところだったのさ」
「そこを助けて? 連れてきたってことはなにか特技があるってことですかね?」
「まあ本人の査定はBランクではあるんだが、ランク分けには属さない才能を持っているのは確かさ。そしてそれは今小櫻君が求めているモノでもある」
「!! つまり絵が描けるってことですね! 禁制品製造ってことでそんな気はしました。やったー!」
「彼女は人物画が描けるはずだから小櫻君が考えているようなものが作れるようになるかもしれないな。まあ引き続き頑張ってくれたまえ」
私が考えていること、それは小さいころに親から聞かされてきたお話の世界を目に見える形にすることだった。それにはどうしても人物は欠かせない。
これで古宅香月が人物を担当し、背景専門の小沼さんと合わせて一つの作品が作れる目途が立った。実際にどこまでできるのかはわからない。
だけどまずはイメージを組み立てて指示書のようなものを作ってみるしかない。あくまでイメージならジャガイモでもなんとかなるだろう……
さらに言えば、なんとなく自分のやりたい方向性が見えてきた気もする。私は絵を描いてアニメーションを作りたいのではなく、頭の中にあるお話を形にしたいのだ。
そのためにはそれぞれの担当に伝える程度の絵が描ける必要はあるが、きっとそれよりもきちんと伝えるための説明能力が重要だろう。
私は一人納得しうなずきながら古宅香月に近寄っていった。
「古宅さん、私は佐倉小櫻って言います。一応アニメーション作成の管理? 責任者? をやってるんだけど絵は描けないから古宅さんを頼りにしちゃいますね」
「イヒヒ、古宅香月、デス。よろしくね。ウヒヒ……」
香月はうつむいたままで上目づかいをし、自己紹介をした。それはなんだかちょっとだけ不気味な雰囲気で、彼女の描く絵がどんなものか不安を感じる。
それでも加奈さんが抜擢? して連れてきたんだから助けになるに違いない。今はそれを信じて頑張ろう。
それでも私は香月と仲良くなれるかどうかを含めて不安を感じていた。




