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サクラバ・ファミリア  作者: 釈 余白
第五章:繋がることの意味

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28.F地域の変革政策

「あはははー、あーおかしー」


「いやはや、当人にとっては笑いごとじゃないんじゃないかな」


「だって意外じゃないですか。あのトラちゃんさんが責任ある立場になるって言われたら青ざめちゃうなんて。今だって十分責任あって向いてると思うんですけどね」


「小櫻君もそう思うだろ? 彼―― いや、彼女は自分の責任感の強さに気づいていないのか、それともこれ以上はイヤだと思ったのかどちらはわからないけどね。途中からは心ここに非ずと言った風だったなあ」


「でも断りはしなかったんですよね?」


「それなりの飴をぶら下げたからね。給料もそうだけどうまくいけば光蔵じゃないちゃんとした酒が飲めるかもって」


「それホントなんですか? だますのはズルですからダメですよ?」


「本当さ。これは国策なんだ。責任者として会議へ出席するようになればその後の会席への参加も認められる、というか義務になるのさ。そこではちゃんと上等な酒もふるまわれるんだよ?」


「やっぱ政府は自分たちだけいい生活していい思いしてズルなんだ…… 独り占めズルーい!」


「ズルいよねえ。私だって一度くらい飲んでみたいと思ったことはあるんだ。今のところその機会には恵まれてないし、要人警護の任につくときはただ眺めさせられるだけなんだよ?」


「警察は特権階級じゃないんですね。意外です。でもなんで国策なんですか? このF地域を無条件で解放しちゃえば済む話なのに」


「監視管理しながら徐々に様子を見ていくつもりなのだろうね。実はこれはまだ内緒の話だけど、海外の自治区ではすでに似たような政策が進んでいるらしい」


「またそうやって私に秘密を背負わせるんだから…… マトロンだけでも毎日ヒヤヒヤしているのにー」


「マトロンって? ああ、そのスマートロンの自立AIのこと? 名前つけるなんてかわいいじゃないか。マトロン? 聞いているのかい?」


『かわいいマトロンはちゃんと話を聞いているヨ?』


「あはは、かわいいのは名前をつけちゃう小櫻君のことだよ。マトロンはどちらかと言うとかわいくはないかな」


「そうですよ、生意気で怪しいだけで全然かわいくないの! 昨日だって私にアニメーションを作ってみたらなんて言うんですよ?」


 どうせすっかりばれていることもあって、私は昨日までのいきさつとマトロンがそそのかしてきたことを告げ口した。


 特に隠しても隠しきれないとわかってからはもう口が止まらない。それほどうっぷんがたまっていたのかと自分でも驚くくらいになんでも話しまくってしまった。


「なんだか話を聞く限りはうまくやってるように思えるけど、秘密を一人で抱えることはそれなりにストレスになっているのかもしれないね。私も捜査で誰にも言えないことがあると大声で叫びたくなるから似たようなものかも」


「この気持ちわかります? 秘密にしているとみんなをだましてるとか裏切ってるとかそんな思いが頭を巡るんですよね。だからいっそのことしゃべってしまおうかと思うこともあります」


「でもこれからはある程度の面子には知られて構わない。そうだなあ。少なくとも丹羽さんはいいとして、あとは様子を見ながらかな」


「そうなんですか? 政府が方針を変えたから?」


「方針を変えたは言い過ぎ。あくまで実験だと思っておいたほうがいいね。いつまた元通りにされるかわからないしさ」


「そかあ、つまりほかの国で棄民政策の転換を始めたから黙っていられないって感じですかね? 世界政府って言う割りに一枚岩じゃないんだ」


「そうだね、世界には大きくわけて四つの自治区がある。日本、北米、北欧、豪州の四つってことは学校で習うんだっけ?」


「はい、その中でまた細かく分かれてるところまでは習いますけど、それぞれが別の法律や慣習で管理されてるとは思いませんでした。でも考えてみれば言語も違うから同じであるはずもなかったですね」


「私も詳しくは知らないんだけど、もとは違う国だったから当たり前、みたいな話らしい。人類最後の戦争を始めた国々はもう残っておらず、非協力的だった平和国家だけが世界政府によって残されて、それぞれが自治区になったということさ」


「戦争を止めて国を滅ぼしちゃうなんて恐ろしいです…… いったい政府ってどれくらいすごい力を持ってるんでしょうね。人を殺すことなんて何とも思ってないみたいだし……」


「そうだよねえ、戦争終結時には何億と言う人たちが処分されたと記録されているくらいだから、残酷とか温情みたいな考えとは無縁なのだろうさ」


「そう言えば知ってます? 政府って月に住んでるんですって。空気がなくても生きられる種族だってマトロンが教えてくれたけど本当ですかね?」


「うーん、知ってる限り嘘ではないね。ただ私も詳しいことは知らなくて、月から地球を管理してるってことくらい。あんな遠くにどうやって基盤を作ったのか、すごい技術力であることは間違いないな」


「そんな人たちに、いや人じゃないんでしょうけど、とても逆らえませんね……」


「そう素直になってくれると助かるよ。それじゃ丹羽さんと一緒にこの足立F地域の管理者を頼むね。詳しい指示はマトロンを通じて伝えられると思うし、しばらくは私も常駐するから心配しないでいい。」


「へっ!? 今なんて言いました? 私も…… ――いやいやいやいや、絶対ムリですよ! 私なんてただの小娘ですよ? なんでいっつも選ばれちゃうんですか?」


「きっとマトロンが集めた小櫻君のデータが優秀なのではないかな? あくまで丹羽さんの補助だし、か、のじょは個々のみんなに慕われて顔も効くから問題は少ないと思うよ」


「なんで心配ないって言い切らないんですか? なにかありそうだってわかってるんでしょーっ!」


「いや、まあ、最初は反抗したり脱走したり、場合によってはぼうっ力的になる人たちがいるかもしれないだろう? だからこそ私たち警察が常駐するんだからね。でも生活をガラッと変えろというわけじゃない。自由が増えるから羽目を外し過ぎないようにしてもらいたいだけなんだ」


「絶対面白がってる…… 加奈さんってば顔が笑ってますからね?」


「うふふ、そんなことないよ。小櫻君の近くに住めるからうれしいだけさ。とはいってもこの佐倉荘に済むわけじゃなく建物を持ち込んでくるけどね。その時は気軽に遊びにおいで」


「もちろん行きますよ! また本物のミルク飲ませてもらえそうだし……」


「了解だ、ちゃんと仕入れて持ってくると約束しよう。他にもおいしいものが沢山あるよ。このプリンだって本物のミルクで作ったモノはコクが全然違うからね」


「プリンってミルクなんですか!? ミルク凄い! 楽しみです」


 こうして私はあっさりと懐柔され、このF地域管理人の一人として働くことになったのだった。



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