表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サクラバ・ファミリア  作者: 釈 余白
第五章:繋がることの意味

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/31

23.そして動き出す

 農場へ行った後、取って返すように佐倉荘へと戻った私たちは、さっそく『水曜』へと駆け込んだ。もちろん謎の男性も一緒だ。


「そういえばアータ、お名前は? どちらにしても素性がわからないから脱走後にうちで受け入れる確約はできないわよ? アタシと顔見知りや関係性がある方に保証人となってもらうことが必要だわね」


「はぁ…… まあ当然でしょうねぇ…… 僕の名は小沼洋一ですぅ…… 先ほど説明した通り、今はまだ水上さんの下で働いていますぅ…… もうじきどうなるかわかりませんがぁ……」


「まったく…… 政府で働いてたのに不祥事起こすなんてもったいないわね。リュウちゃんもだけどなんで恵まれた境遇を簡単に捨てるのかしら。小櫻ちゃんもそう思わない?」


「それを私に言いますか……? みんなそれぞれ事情があるんでしょうね。でもわざわざ自分から問題起こす気持ちはわかりませんが。きっと小沼さんもそっち系なんですよね?」


「なんでわかるんですかぁ…… 僕の場合は禁止地区へ入ったとかじゃなく政府管理の文化財を傷つけてしまっただけなんですけどぉ……」


「そんな事故みたいなことで処分されるんですか? 政府ってやっぱりひどいですね。弁明とか受け入れてくれなかったんですか?」


「あ、いや、そのですねぇ…… 自分でやってしまったので事故ではなくぅ…… 絵画を見ているうちに自分でも描いてみたくなってしまって、つい文化財に手を出してしまったんですぅ…… それで絵画の裏の余白にちょろっとねぇ……」


 別に突っ込んだ話を聞きたかったわけじゃなかったのだけど、小沼さんは勝手にアレコレと話だした。


 どうやら管理していた絵を描く道具を勝手に持ち出して、これまた管理していた歴史的遺産に自分で絵を描いてしまったということらしい。


「なんかアータもこちら側の人間な気がするわね。と言うことはこっちでリュウちゃんみたいに絵を描いて暮らそうってわけ? もしかして絵具って言ったかしら、あれの作り方も知ってたりするのかしら?」


「もちろんですぅ…… ちゃんと水上さんに習ってきましたからぁ……」


「それならウチへ住まわせてあげてもいいわね。代わりに絵具はアタシが全部もらうってことで。もちろんようちゃんが使うのは自由よ? 栽培はアタシがやってあげるから心配しないでいいわ」


 きっとトラちゃんさんの頭の中ではすごいスピードで儲けやそれで得られるお酒の計算がされているのだろう。


 私には関係ないことだけど、なんだか楽しくなってきた。しかもその前にもお楽しみが待っているのだ。


「まあ先の話はひとまず置いといて、この板が動くって話を早く教えてください!」


「厳密には板が動くのではなくて絵が動くんですけどねぇ……」


「どっちでも同じですよ。これが本当に海の絵なら、動くなんてなんかステキじゃないですか。もう話を聞いてからワクワクが止まりません」


 農場に着いたときに小沼さんに聞かされた時は半信半疑だったが、戻ってくるときに道すがら聞いた内容には信憑性があった。


 板に番号が振ってあったのにはちゃんと意味があって、その順番通りに見ていくと描かれたあの縞々渦巻きが動いて見えるという仕組みだという。


 ただそれをどうやるかが私にはわからない。小沼さんも説明を受けて来ただけで準備も何もないので実現できるかどうかは何とも言えないらしい。


 それでもやれるだけやってみるとのことだから期待しているのだ。あれこれと農場で使えそうなものを拾い集め持ち込んではきたが、それが何を意味していてどうなるのか全く分からない。


 今はこの謎の男性改め、小沼洋一さんを信じて待つしかない。トラちゃんさんも同じ考えのようで、ただただじっと二人で作業を見つめていた――




 それからかれこれ二時間くらいは待っていただろうか。外は日が傾いたのを過ぎて少し暗くなってきている。どうやらようやく動きがあるようだ。


「―― よし、こんなもんでしょうかねぇ…… 原理的にはあっているはずぅ…… でも僕も初めてだし、それどころか水上さんも実際に試したことはないんです。一応公的に流れてくる政府広報と原理は同じはずなんですけどぉ……」


「同じ!? 全然違くないですか? 向こうはカメラで撮ってるんですよね? 私知ってますよ? スマートロンについてるカメラと違って、政府とか警察のカメラは動いてる写真が撮れるってことくらい」


「その動いてる写真って言うのが何で動いているように見えるのかってことなんですよぉ…… わかります? 一枚見たら少しずれたのをまた一枚、それを繰り返すと動いて見えるってことですぅ……」


「それとこの絵と何の関係があるんですか? それとこのお面のおばけみたいな板は何の役に立つんですか?」


「賢いのにこういうことには鈍いのねえ、小櫻ちゃんたらさ。アタシはわかっちゃったわよ?」


「えー! ズル! ズルだー! 私に教えてくださいよ。なんでこれが動くことに関係あるんですか!」


「すぐ始まるから実際に見てみましょうよ。うーん楽しみ。さ、早く、ようちゃんの手腕に期待して早じまいしてきたんだからね? 失敗したら裏のイチョウに逆さ吊にしちゃうんだから!」


 なんとも物騒な脅し文句だ。しかもトラちゃんさんの筋骨隆々な姿を見ると、本当にやりかねないと感じてしまうのではないだろうか。


「頑張りますからぁ…… 逆さ吊りは勘弁してくださいぃ…… では始めますから良く見えるところまで下がってくださいねぇ……」


 私とトラちゃんさんが言うとおりに少しさがる。それにあわせて穴の開いた板と言うかまるで扉のようなものが少し前に出てきて私たちの正面に陣取った。


 それから小沼さんは例の板を繋げて丸くしたものをえいやっと掛け声をかけて立てる。すると扉のような板の穴から一枚分だけが見えた。


「す、すいません管理人さん…… 重くて一人では無理そうなのでこちら手伝っていただけませんかぁ…… ええと、佐倉さんだけで見てもらうことになりますけど、今回は試作でほんのちょっとですからねぇ……」


「なによ! アタシだって楽しみで仕方ないってのに働かせるわけ? まったく仕方ない輪kね、もう……」


 せっかくのこの瞬間を独り占めするのは悪い気がしたが、力仕事を頼むなら私よりトラちゃんさんになるのは当然のことだ。


「トラちゃんさんごめんなさい。一人で見るのは心苦しいけど、どんなだったかちゃんと感想いうから許してくださいね」


「小櫻ちゃん? 顔が笑ってるわよ? そうねえ、力仕事ならアタシが指名されて当然って顔ね」


「凄い! なんでわかったんですか!? でももし私でもお手伝いできそうなら変わりますから遠慮せずに言ってくださいね」


「うーん、ちょっと無理そうな感じかしら。これ結構重たいわ。それにアタシにはもう原理がわかったからそれほど一番に見たいなんて気もしないしね」


「私はまだわかりません…… なんでわかるんだろう」


「そこは思考の柔らかさ? 頭の良さだけじゃ測れないことなんていくらでもあるってことなのよ」


 だがそんな悩みや劣等感的な感情はこの数分後にすべて吹っ飛んでしまった。



「海がっ! 動いてる! これが波ってやつなんですよね!」


 私はもう大興奮で立ち上がり、板の穴から見える縞々渦巻きにかじりついていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ