22.謎が謎を
どうやら心配し過ぎだったようだ。謎の男性の症状はごく軽く、水をかけて目を覚ましたらすぐに元気になっていた。
もちろんそのまま水筒を渡し水分補給もしてもらったのだが、おかげで私の水筒はすっからかんである。
「申し訳ありません、貴重な水を使わせてしまいましてぇ……」
「別に貴重でもないからいいんですけど、いい大人が行き倒れみたいになってみっともないですよ? なんで水くらい持ち歩かないのかなあ。まだ早いけどほぼ夏ですから気を付けないとダメじゃないですか」
「いやはやまさにその通り、持って出たはずなんですがふと見たら荷物がついてきてなくてですねぇ…… どこかではぐれてしまったのか故障でもしたのか、とにかく助かりましたぁ……」
どうやら居住区からやってきたのは間違いなさそうだ。スーツケースがついてこないのはスマートロンとの連携がうまくできてないと起こることで普通は考えられない。
でもこのF地域に限っては常識でもあった。もしかして知らなかったのかうっかりなのか、どちらにしても無くなったスーツケースを探すなら来た道をずっと戻っていく必要がある。
「もしかして居住区を出てから再連携設定してなかったんですか? なんか違うらしいですよ? 外に出るとあれが―― なんか繋がるやつ?」
「ああそうだったぁ…… ネットワークが違うから一度切り替えないといけなかったんでしたねぇ…… これはとんだケアレスミスをしてしまいましたねぇ……」
「また居住区へ戻るときに探せばいいんじゃないですか?まっすぐ来たなら途中に農場がありましたよね? そこでお水を分けてもらうといいですよ。元気になったみたいだし、それじゃ私はこれで――」
「あ、あぁ…… あのぅ…… 実は僕は居住区のとある施設で働いておりまして、そこの上司に依頼されやってきたのですぅ……」
「とある? なんですかそれ。私には関係ないことですよね?」
「確かに業務内容とは関係有りませんがぁ…… 上司の水上はご存知ですよねぇ?」
なるほど、水上さんが絡んでいるなら私を探していても納得だ。それに危険性も少なそうな気がする。私はほんの少しだけ警戒心を解いた。
「今回ここまでやってきたのは、佐倉さんと丹羽さんに伝えることがありましてぇ…… 政府の目を盗んで来るのは大変でしたぁ……」
「そりゃ大変でしたでしょうけどどっちみちばれてるんじゃないですか? 帰ったら処分が待っているかもしれませんよ? そこまでして水上さんの命令に従うなんてちょっとおかしくないですかね」
「水上さんはその機関のトップですから命令は絶対なんですぅ…… いやまあそれがなくても僕はもうじき処分されるんですけどねぇ…… ちょっと不始末を起こしてしまいましてぇ…… おっと、それは今回やってきたのと関係ありませんがぁ……」
「結局何が言いたいんです? 水上さんが渡井へ伝えたいことがあるなんて想像もつきません」
そうは言ってみたものの、おそらくは部屋に残されていた板の絵についてだろう。それ以外には本当に何も思い浮かばない。
でもうまくすればあの絵に何か秘密でもあるのかがわかるかもしれない。今はただ壁紙の代わりに変わったデザインとなって飾られているだけである。
だけどここで話に食いついたそぶりを見せてはいけない。この人の言っていることが本当とは限らないし、水上さんの話に興味があると思われるのも癪だからだ。
「実は彼がこの地域にいた際に手に入れたもの集めたもの、そして自ら生み出したものはすべて処分されたはずでした。しかし実際にはその手を逃れたものがあったのです」
「そんなはずありません。私たちは目の前で全部燃やされるのを見てましたし、部屋は完全に空っぽにされてたんですよ?」
「その空の部屋に自分で描いた絵を置いて行ったらしいのですぅ…… そしてその絵にはある秘密を仕込んでおいたと言っていましたぁ……」
「秘密? それは気になりますけどわざわざ危険を承知であなたをつかわすほどのことですか? それにあなたもなんで水上さんの言うことを聞くんですか?」
「先ほど少し触れましたが、私は間もなく処分されますぅ…… そうなったら居住区からは脱走してこちらにお世話になろうかとぉ…… そのために繋ぎをつけておいたらどうかと助言いただいたのですぅ……」
どうにも都合のいい話ではあるけど、つじつまはあっている。それにあの絵に秘密があるなら知りたい。でもただの海の絵がいっぱいあるだけなのに秘密なんてあるんだろうか。
だがここで立ち話をしていても仕方ない。不本意だけどもうすこしお付き合いするしかないだろう。
私はこの名前もしらない水上さんのつかいと一緒に、しぶしぶと農場へ向かうことにした。




