21.謎の男性
こちらへ向かってきている男性の姿は相変わらず小さく、米粒が豆粒になった程度でしかない。だけど私は警戒心を緩めることなく廃墟の陰へと身を潜めた。
『ねえマトロン、隠れるんじゃなくて逃げちゃったほうがいいと思う? なんだか嫌な予感しかしないのよねえ』
『マトロンに判断させて小櫻は素直に言うことを聞くノ? きっと逆の行動をとろうとするんじゃナイ?』
『そんなつもりはないけど声が大きいってば。もっとひそひそしゃべれないわけ?』
『ボリュームは小櫻が設定した通りになっているんダヨ? マトロンのせいじゃないんだカラ?』
そう言われると確かにそうかもしれない。けどまだまだ遠いので聞こえることは無いだろう。私だけひそひそと小声で話していたのがバカみたいである。
だがいつまでこうしていればいいのだろう。いい加減向かわないと農場へつくのが遅くなってしまう。
別に仕事に行く必要はないと言われててもなにもすることが無い。いい加減暇を持て余し過ぎて、仕方なく仕事でもしてみるかと午後一番に農場へ向かっている途中だったのだ。
それにしても待てど暮らせど謎の男性は大きくならない。なんて足の遅い人なんだろうと怒りすらこみあげてくる。
もしかしたら適当に歩いてるだけでこちらに向かってないのでは? 気のせいか先ほどより姿が小さく見える気もしてきた。
『小櫻? あの男性、歩くのをやめたみたいダヨ?』
「ええっ!? なんでそんなことになるわけ? こっちが待ってるだけなんてバカみたいじゃないの!」
『マトロンに文句を言われてもネエ? それよりこれからどうするのか早く決めないと暗くなってきちゃうヨ?』
「またそうやって大げさに脅すんだから。まだお昼ちょっとなんだから暗くなるはずないでしょ。それともこんないい天気なのに雨でも降るって言うの?」
『なんだ、ちゃんとわかってるならいいんダヨ? 気象センターのAIは約一時間後に当地方での積乱雲発生を予想しているヨ? 降水量予想は23ミリ毎時だカラ? 結構強い雨の予報みたいダネ?』
「えーっ! じゃあ農場いかないで帰ろうかな。そしたらあの人にも会わずにやり過ごせるもんね。足も遅いから追いつかれそうにないしさ」
『そうダネ? 当該の男性は路上で寝ているから追いかけては来ないし、追いつくこともないと予想するヨ?』
「寝てる!? なんでそんなことになってるわけ?」
『それは本人に聞かないとわからないカナ? マトロンにわかるのはあの男性の心拍数が高めなことと表面温度が急上昇して体内水分量が不足していることくらいだカラ?』
「それってもしかして病気?」
『人間の症例に当てはめるなら熱中症が一番近いカモ? もしくは脱水症状カナ?』
「なんでそう言うことを早く言わないのよ! このバカ! 薄情者!」
私はあわてて走り出した。手に持っている水筒にはまだたっぷりと水が入っているから大丈夫だと思いたい。
そんな緊迫した状況にもかかわらずマトロンはのんきに返事をよこしていた。
『薄情者と言われてもマトロンは者じゃなくてモノだカラ? もしかしてコレが人間の得意なダジャレ?』
「違うわよ、このおバカッ!」
今すぐスマートロンを外して叩きつけたい気持ちだがそんなことをしても意味がない。それに確かにマトロンは機械だから人間味を持てと言っても無理がある。
それもこれもあの謎の男性のせいじゃないか。私はそんなことを考えると早くあそこへたどり着いて、頭から水をぶっかけてやりたくなっていた。




