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サクラバ・ファミリア  作者: 釈 余白
第一章:桜舞う季節に
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2.庭の桜

 私は困惑していた。いや、狼狽と言ってもいいだろう。だがいつまでも黙っているわけにはいかない。


「えっと、改めまして…… 佐倉小櫻と申します。これからお世話になります」


「いらっしゃい、佐倉荘へようこそ。歓迎するわよ? それにしても写真で見たよりもずっと幼いわね。ホームシックで泣きだしたりしないか心配だわ」


「そんなことありません! こう見えても私ってしっかり者なんですから。確かに背が低くて童顔なので幼く見られがちですけど……」


「あら、気分を害したのならごめんなさい? 童顔だったら歳を重ねても若く見られるから得じゃないの。長所よ、長所」


 じゃあなんで泣きだすかもなんていうわけ? と喉まで出かかったけどグッとこらえる。さらに頭の中で『口は災いの元』と二度ほど繰り返してから再び見上げながらオーナーへ話しかけた。


「ここってアパートメントなんですよね? 他にも住まわれてる方がいらっしゃるならご挨拶とか? それと共同施設の注意点とか教えていただけると助かります。それに―― オーナーのお名前もできれば……」


「うんうん、確かにしっかりものかもしれないわね。ま、注意点だとか他の住人についてはおいおいでダイジョブよ? それとアタシはオーナーじゃなくて管理人、父親が持ち主だから覚えておいて」


 なるほど、この人は管理人だったのか。でもそんなことは私にとって大した問題じゃなくどうでもいいことだ。そう思った矢先、頭の上から続けて声が振ってきた。


「あたしの名前は丹羽寅治郎、みんなからはトラちゃんって呼ばれてるからアナタもそう呼んでね。ここには女の子が少ないし、仲良くやっていきましょうね」


「はあ…… トラちゃん、ですか…… なんか私がそんな風にお呼びしたら失礼じゃないですかね? 管理人さんって呼んだほうがいいような気がします……」


「あら遠慮なんていいのよ? アタシがそう呼んでほしいんだから気にしないでちょうだい? こちらからは小櫻ちゃんって呼んで構わないかしら?」


「えっ、あっ、はいっ、大丈夫です! サクサク以外ならなんでも……」


「うふふ、サクサクもかわいらしいけどアタシは小櫻ちゃんって呼びたいかな。それじゃ部屋を案内するわね。必要なものはすべて揃ってるから心配いらないわよ? こう見えても設備はそれほど古くないんだから」


 どうやら第一印象での軽口を根に持っているような気がする。まあ聞かれてしまったことは消せない。これ以上変なことを言わないようにすればいいだけだ。


 玄関ホールでのあいさつを済ませた私は、促されるまま『トラちゃん』の後へと続いて歩き出した。さらにその後ろからはスーツケースがついてくる。


「えっとね、この佐倉荘は三階建てで全部で八部屋あるの。アタシの部屋も入れてだけどね。ちょうど一部屋空いていたからちょうど良かったわ」


「それだけですか!? 結構大きな建物に見えたので少なく感じますね。それに木造なんて珍しすぎてビックリしました」


「風情があっていいでしょ? そのかわり物音は響きがちだから注意してね。というかガマンするほうが多いかもしれないわね。隣の部屋からは気にならないかもしれないけど、上の階の足音は響くかも」


「それって上の階の方は騒がしいとか……?」


「ううん、そんなことないわよ? でも夜型だから小櫻ちゃんが寝る時間次第では気になるかもしれない。もちろんこんな『F地域』にいるくらいだから立派な『はみだし者』よ?」


「はみ出し者って…… もしかして私も含まれてます?」


「むしろ違うと思ってるならそっちのほうが驚きだわよ。人間居住区を出るってことはそういうこと。その代りに自由を手にするってわけ。戻りたいなら早いほうがいいわよ?」


「いえいえ、そんなことないです。そういう分類があるのかって思っただけで。ってことはえっと、かん―― トラちゃんさんもそうなんですか?」


「さすが、ズバッと聞くのねえ。まあいいわ。部屋の説明ついでにお話ししてあげる。だけどほかの住民にはあまり聞かないほうがいいかもしれないわね」


「あ、スイマセン…… やっぱり失礼でしたかね? 無理に聞き出そうとは思っていないので……」


「違うのよ、誰もがそうとは限らないけど、理解してもらえる人がいるなら聞いてほしいものじゃない? だから話が長くなりがちって意味よ?」


「な、なるほど、そんなもんですかね。私は積極的に話したくはなりませんけど」


「今はまだ来たばかりだしね。年月が経てばどうなるかわからないわよ? さ、ここが小櫻ちゃんの部屋ね」


「ここ、ですか? 『日曜』って書いてありますけどどういう意味ですか?」


「どういう意味も何も部屋の名前ってだけ。日曜から土曜までの七部屋と管理人室で八部屋あるの。ここが一番いい部屋だからラッキーね」


 部屋へ入っていくと中はかなり広かった。一人暮らしには十分どころか持て余すだろう。玄関だけでも両手を広げても届かないくらいだ。


 入って右手にはトイレ、お風呂場が並んでいて、左手には窓がない部屋がありウォークインクローゼットにするのがおススメと聞かされる。とはいえそんなに衣類を持っていないのでがらんどうのままになりそう。


 さらに奥へ行くと扉が二つ。片方がリビングでもう片方が寝室として作られているらしい。トラちゃんさんの説明を聞きながら、建物の端側を寝室にしたほうが隣を気にしなくていいから快適かなと考えていた。


「この部屋が一番いい部屋って言うのは特に今の季節だからこそなのよ?」


 二階の角部屋にあたる『日曜』は南側だから陽当たりがいい、その程度に考えていた私だったが、その考えが浅はかだったことを思い知る。


「わあああ! すっごい!」


 今まで見えなくて気づけなかったが、建物裏手には桜の木があったのだ。しかもそれは一本や二本じゃなく、先へ先へと向かってずらっと並んでおりまさに壮観と言うほかない。


 季節は春、満開に近い桜の薄桃色(うすももいろ)は、まるで私『小櫻』が佐倉荘へやってきたことを歓迎してくれているように思える。


 すると抱えていた不安がすっと晴れていくような気がした。



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