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サクラバ・ファミリア  作者: 釈 余白
第三章:予期せぬ出来事

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16.実験台

 少しだけ心を開いた私がバカだったのか、それともただ子供だっただけなのかはわからない。だけど結局小比類巻さんも政府の? 関係者であって簡単に信頼してはいけなかったのかもしれない。


 そうは言っても決めたのは政府らしいし、彼女のせいにするのは考えが浅いとも言える。それでもだまし討ちみたいな真似をされた私は明らかに不機嫌になっていた。


「そう怒らないでくれたまえ。私の一存ではどうすることもできないし、すでに決まったことだから受け入れてもらうしかないんだよ」


「わかってます。分かってますけど納得いきません。よりによってなんで私が実験体なんですか!?」


「実験体じゃなくて被験者ね。佐倉君の考えや行動を制限するわけではないし、なにか指示を与えるわけでもないからそう悲観するものでもない。給料も出るし」


「お小遣いやるから四六時中監視されてろってことですよね? まさかお風呂とかも……」


「いやいや、言っておくけどカメラは無いから映像は記録されないよ。あくまで身体データの測定だからね? 脈拍とか脳波や心電図とかそういう健康診断でやるようなものに少し足した程度さ」


 そんなこと信用できるものか。政府が私を選んだってだけでも疑わしいのに、四六時中記録を取ると言われたら構えてしまうに決まっている。


 だいたいカメラがついていないという割りにこれはいったい……――


『大丈夫ですヨ? 本当に見えてナイ見えてないですヨ?』」


「ちょっと小比類巻さん? これホントに見えてないと思います? 私にはとてもそう思えないんですけど?」


「そうだねえ、私もそこはちょっと疑わしく感じたかな。でもスマートロンのカメラは格納式だから起動していればひと目でわかるだろ?」


「かもしれませんけど…… なんでこんな風にしゃべらせる必要があるのかわかりません。まさか政府の人が繋げてきて喋ってるとか?」


「いやいや、これは自立型AIのはずだよ。一部の研究職に支給されているスマートロンには導入されているけど、私たちもめったに見ないレア物だから喜んでいい、んじゃないかな」


「絶対他人事だと思って楽しんでますよね? 自立? ってのがよくわかりませんが、こんなのに監視されてるなんて思ったら落ち着ける時間が全くなくなっちゃいますよー」


 どうしてこうなったのかわからないままに、私の腕にはめていたスマートロンが突然しゃべりだしたのだ。


 普通は警察も教育庁のボットも喋ったりせずに画面越しに命令してくるだけなのだ。喋ると言ったら教師くらいなもので、それもほとんどは警告かテストの開始終了を告げる程度である。


 それが個人のスマートロンが言葉を発するなんて驚きを通り越して絶望しかない。


「自立型AIと言うのがなんだかわかりませんが、コレが私を監視しているってことですよね? どう考えても生活に支障も影響もありそうなんですけど……」


「無いとは言えそうにないが、便利なこともあると思うよ? 何か聞けばなんでもこたえてくれるはずだから。私よりもはるかに博学だから試してみるといい」


「そうですかねえ…… じゃあ―― 佐倉荘の裏にある桜並木は何のために誰が植えたんですか? どこまで続いているんですか?」


『―― 足立F地域、佐倉荘南側桜並木、についテ? 1945年に太平洋戦争が終わり日本は敗戦国となりまシタ? その鎮魂の想いをこめ地主だった佐倉留吉によって最初の一本が植樹されたと残されていマス? その後少しずつ増やされ、最大で百八本が植えられたようデス?』


「百八本!? そんないっぱいあるのか。ご先祖凄いなあ」


『しかし2221年に始まった第四次世界大戦時に起きた第六次日本列島空爆により大半が焼失しまシタ? 当該エリア一体も瓦礫の山と化しまシタ? 2249年に当時の地主である桜庭光宙にヨリ? 桜並木を再建したのが現在植えられている四十四本となりマス?』


「なーんだ、ご先祖様の植えた桜じゃなくなってたのかあ…… がっかり」


『桜庭光宙は佐倉家の分家で現在の丹羽家が直系に当たりマス? つまり佐倉小櫻と丹羽寅治郎は血縁者なのデス? ちなみに佐倉小櫻の家系も桜庭家とは別でもっと前に別れた分家の血統デスヨ?』


「ちょっと難しくてわかんないけど、トラちゃんさんと親類だってのはお父さんから聞いてたのと同じだなあ。でも相当遠いってことなのね。わかった、もういいかな」


「これで信用できたかい? 学校へ通ってるころならテストで満点も可能だったろうに残念だね」


「テストでいい点とっても身についてなければ意味ないですけどね。それにもういいって言うのは、これ以上聞いてもホントかどうか判断できないからです。ウソだとしても信じるか信じないかだけじゃないですか」


「なるほど、そう言う考え方になるのか。うーん、興味深い」


「もう! 小比類巻さんまで私のことを観察するんですか? やめてくださいよー」


「これは悪かった。でも私は小櫻君と違って一般的な考え方しかできないからね。なるほどと思わされることが多々あるんだ。ああ、名前で呼んでも構わない?」


「はいもちろん、私も加奈さんってお呼びしますね。って待ってください? 私も一般的な常識人だと思いますけど?」


「いやいや、小櫻君は立派な変わり者で水上や丹羽寅治郎側の人間だと思うよ? 悪い意味ではなくて主体性を持っているってことさ」


「主体性、ですか? 加奈さんの話ってあんまり一般的じゃない言葉が多くて難しいですね。賢すぎるのも考え物ですよ?」


「そうか、学校では習わないだろうからねえ。つまり自分で考えて行動を自分で決めたり発言したりするってことかな。身の回りにはあまりいなかっただろう?」


「今はいっぱいいますから気になりませんね。佐倉荘へ来て良かったと思えることの一つです。門紗さんにはちょっと困りますけど……」


「ああ、彼女は要注意人物だからなあ。せめて農作業へきている一般人に手を出さないでくれるとありがたいんだけどね。あまり度が過ぎると警察としても動かないといけなくなるし…… まあこれはそのうち本人とも話してみよう」


「…… そうしてください…… 私には関係ないことですから……」


 顔が一気に紅潮していくのがわかる。門紗さんに聞かされた自由恋愛感は聞いているだけで恥ずかしくて逃げ出したくなるほどだったのだから。そりゃ摘発対象にもなろうというものだ。


 そんな恥かしめで締めとなり長話は終わった。あとは水上さんと会って真意を確認するのみだが、こちらはホント拍子抜けと言う感じだった。



「――――ああ、自分の意志で戻るんだよ。まったく僕の力が必要だというのだから断るわけにもいかないだろう? トラさんによろしく伝えてください。そうそう、佐倉さん? 反体制運動なんかに参加しないように。あんなことやっても無駄だから」


「はあ? 今まで散々周囲をあおっていた当人がそんなこと言うんですか? いざ自分が政府に認められたからって? ひどくないですか?」


「いやいややってる人たちはほとんどがわかっていることだよ。政府に逆らおうと何も変わらない。ただ自分たちのうっぷんをぶちまけたいだけなのさ」


「ホントさいてーですね! トラさんに会わなくてさびしくないんですか? せめて通話だけでも」


「いや、もう割り切ったからいいんだ。今まで世話になってきて急にいなくなるのはすまないとは思うが、いまさら未練を残したくはないからね」


「割り切りがいいんですね! 冷たいんだー! それじゃお元気でーっだ」


「そうだ、トラさんには部屋の片づけを押し付けちゃうなあ。せめて残った荷物でもあげられたらと言ってもすでに処分されてきっと『壁』しか残ってないだろうから気にしなくていいのかな」


 どうやら水上さんの予想は的中していることが加奈さんから示される。さすが元関係者? 政府の考えなんてお見通しと言うところなのかもしれない。


「もちろんすべて焼却処分済みだ。未練どころか痕跡すら残していない。さ、小櫻君、これで信用できただろう? 私とはまた会うことがあると思うからさびしがらなくていいよ?」


「ふーんだ、加奈さんもお元気で! 私はこの自立なんとかと仲良くやりますからご心配なく!」


「そう言ってもらえると肩の荷が下りるよ。私が押し付けたわけではないけど、やはり気にはなるもんだからね」


「イヤミですってば!」


「あははは、こわいこわい、それではまたね。あとはよろしく!」


 そう言い残して三角錐たちを載せたバスが走り去っていった。それを確認した後に走り込んできたトラちゃんさんを見ると、私はどうにも飛び込みたくなってしまうのだった。



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