15.政府と機関と三角錐
矢継ぎ早に言葉を発していたのでのどが渇いて仕方がない。なんと言っても最初は恐る恐る飲んでいたミルクを一気に飲み干してしまうほどだ。
「お代わりを出してあげよう。めったに飲むことができないからよく味を覚えておくといいよ」
「まあ庶民には無縁の高級品ですもんね。きっと政府や警察はいい暮らししてるんでしょうね。警察官? も上のほうの人ですか?」
「なんでキミはいちいち疑問形なのさ。警察で働いてる人間を警察官と呼ぶだけの話だよ? 教育庁からも人が来て対応してただろう?」
「いいえ、そんな人いませんでした。教育庁は―― そうですねえ、色違いの警察みたいのでしたよ?」
「もしかして、だけど、キミが教育庁とか警察と呼んでいるのは例の三角錐のボットのこと? 政府はどんなイメージ?」
「警察も教育庁もそうですけど? 警察は知りませんけど教育庁は最初に来たとき身分証みたいなのが提示されてスマートロンで読み取らされましたし。政府は見たことないのでどんなのか知りませんけど、きっと似たような感じじゃないですかね。それとももっと偉いから大きいとか?」
「あははは―――― ああ、ごめんごめん、あまりに面白かったからつい。警察とか教育庁ってのはボットの名前じゃなくて役所、つまり政府が設置している機関のことだよ。そして政府と言うのはそれらを統括して管理運営しているモノたちのことね」
「えーそうなんですか? と言うことは水上さんもそんな偉い人だったってことですか。ちょっと驚きですね」
「偉い、ね。まあ仮に偉いとしておくけど、水上は政府機関の一つである環境庁で資源調査部門にいたらしいね。詳しくは私も知らないんだが」
「私、てっきり政府って一人で世界を支配しているのかと思ってました。なんでも一人で決めてずいぶん賢い人なんだなあって。でも何人もいるのか。そりゃそうですよね。世界政府なんていうくらいだもん」
「もしかして興味を持ったかい? 良ければ政府関連機関で働けるよう進言してみようか? きっと興味深いことがいろいろわかってくると思うよ?」
「いいえ、私は政府に逆らってますし、きっと意見がぶつかって首になっちゃいますよ。それでF施設送りになんてなったりしたら困るからやめときます」
「あはは、キミは本当に面白いね。たまに遊びにこようかな」
なんとなくバカにされているように思えなくもないが、悪気はなさそうに見えるのは人当たりの良さゆえかもしれない。それになんでも答えてくれるところが、こちらを尊重しているように感じていた。
教育庁とかは自分の言いたいことを押し付けてくるだけでこちらの話は何一つ聞いてくれない。学校でも相談相手になってくれるのは職員の人たちくらいで、教師は勉強を一方的に流し込むだけの存在である。
「そう言えば! 私はキミじゃなくて佐倉小櫻ですからね? 警察官さんも名前があるんですよね?」
「もちろんあるさ。私の名は小比類巻加奈だ。佐倉君、あらためてよろしく」
「小比類巻さんですね。よろしくお願いします。って、なにを?」
「ふふっ、これから説明することは他人へ話すことができないことも含まれる。それでも説明をさせてもらっていいかな? ある程度は話してもいいが、それは水上は逮捕されたのではなく政府で働くために自ら進んで戻るのだと言うことだけだ」
「それはおかしいです。あんなひどいことしておいて自分から戻るといったなんて誰が信じるんですか?」
「そこは何とか納得してもらえるよう頑張ってくれたまえよ。事実だからそれ以上私から言えることは無い。彼の私物に関しては全て処分すると言うのが条件で、それを飲んだから焼却処分したに過ぎない」
「ホントですかね…… あとで本人に確認できますか?」
「もちろんできるよ。二度と会うことは無いかもしれないし、ちゃんとお別れをさせてあげるさ。って、別に仲良くはなかったんだっけね」
「はい、会えなくなることは私個人どうでもいいですが、トラちゃんさんたちはさみしがるかもしれないですね。ずっと佐倉荘に住んでいたんですよね?」
「かれこれ十五年ほどだから愛着はあっただろうな。丹羽寅治郎はさみしがるような男なのかは知らないけど、関係者全員へ説明に回るわけにもいかない」
「トラちゃんさんは女性です! まあそれはいいとして―― 誰にも話せないことなのに私には話さなきゃいけないことがあるんですか?」
「その前にまず水上の処遇について話しておこうか。彼は今後、政府関連機関の一つである文化庁で働くことになる。文化庁が管理している中にどうしても人の手が必要なものがあって、その業務に彼が最適だとはじき出されたんだ」
「はじき出すって…… まるで飛び出してきたみたいな言い方。つまり任命されたってことですね。いわゆる進路指示的なヤツ……」
「まあそうだね。それで内容を軽く話したところ、水上は快諾してぜひやらせてくれと言ってきたのさ。だからこそ私物の処分にも同意したんだけどなあ」
「めちゃくちゃわめいていましたけどね…… どう見ても同意しているようには思えません。まあこれは後でわかるから今はいいですけど」
「丹羽氏やその他の人たちには前の仕事へ戻ったとでも言っておいてくれ。機密扱いの業務だからこのくらいしか言えないし、どちらにせよわからないことだらけだろう?」
「あまり興味がないので構いません。文化庁っていうのも三角錐のやつってわけじゃないってことくらいはわかりますけど」
「うんうん、一つ賢くなったじゃないか。ちなみにそこらじゅうを飛んでる監視ボットは生態管理庁という機関の管轄で、人口や生態系の調査、監視管理をしている」
「政府は監視管理が好きですねえ。そこまでしてなにがしたいんでしょう。自由は自分たちにだけあればいいなんて考えなら、私、とても納得できません」
「そうだなあ。政府に自由があるかと言えばないんじゃないかな。世界中と協調してすべての人間の生活を成り立たせ、かつ争いをさせないよう二十四時間監視管理しながら働き続けているんだから。それに職場から一歩も動かないんだよ?」
「まさかー、飲まず食わずで働き続けるとかムリに決まってます。小比類巻さんってば大げさですよー」
そう言うと、彼女は苦笑いでごまかした。きっとそろそろ私を適当にあしらうことができなくなってきたと困っているのかもしれない。
私は思わずしてやったりと言った気持ちでにやりと笑い返してやった。




