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サクラバ・ファミリア  作者: 釈 余白
第三章:予期せぬ出来事

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14.考え方の違い

 目の前に白い飲み物が置かれた。まるで下ろしたてのシャツのように真っ白だ。


「これなんですか? まさか毒じゃないですよね?」


「まさか! これから話をしようとしているのに毒を飲ませてどうするのさ。これは牛乳だよ。分かりやすく言えばミルクだから安心して飲むといい」


「これがミルク!? 真っ白じゃないですか。ミルクと言ったらもっと黄みがかってて透明っぽい感じですよ?」


「そうだねえ。普通のマーケットに出回っているのは粉末加工乳だからね。これは牛から搾ったままのミルクだから味が全然違う。透明感が無いのは水で薄めていないからさ」


「カートリッジのミルクとは違うんですか? ホントでしょうね……」


 疑いながらも叫び過ぎでのどが渇いていた私は恐る恐る口にした。すると確かに味はミルク、ではあったけど、今まで飲んでいたミルクとは味の濃さが全く違う。口の中に独特の香りが残るほど濃厚で甘みも強い。


「これが、ミルク!? 全然違うじゃないですか。確かに味は似てるけど……」


「と言うよりもこれが本物で、マーケットに出回っているのは日持ちするように粉末へ加工されているんだよ。そうすれば常温保管ができてキッチンシステムで使いやすいからね」


「そっかあ、政府はこういうのを独り占めして贅沢してるんですね。ホント権力者ってずるなんだから!」


「ははは、政府の連中はミルクなんて飲まないよ。やつらはもっぱら水ばかりだね。水がすべてと言うわけじゃないけどとても大切な必需品さ」


「だから海とか川を独占してるんですか? 汚染なんて嘘なんでしょ?」


「いや、水源の汚染は本当だよ。もし人間が飲んだら、即死ではないにせよ命にかかわるらしい。私も興味本位で飲もうとは思わないから聞いた話でしたないがね」


「なーんか嘘くさいですねえ。なんでそんな何でも答えてくれるんですか? 帰ってからみんなに話しまくるかもしれませんよ?」


「別に問題はないよ。ここまでの話の中で秘密にしていることなんてないからね。ただ学校で教えていないだけってこともある。本物のミルクもちゃんと流通はしているんだから。生産はごく少量だから非常に高価でね。SSランクくらいの家庭じゃないと手を出しづらいだろう」


「そっか、庶民には無関係ってことかあ。じゃあもう一つ聞いてもいいですか? いや聞いちゃいますけど、F地域は政府管轄外のはずなのに、なんでわざわざ取り締まり? に来たんですか? ほっといてくれればいいのに」


「そこはほとんどの人が勘違いをしているのだけどねえ。政府管轄外なんてことはないよ。管理がゆるめなのは確かだし、治安維持に努めるようなこともしていないけど、何が行われているかとか、どれくらいの人が住んでいるかは把握している」


「そうなんですか!? でも犯罪者が逃げ込んだりすることもあるらしいって聞きましたけど? それは被害が出てもF住民だから放置ですか?」


「まず前提として重犯罪者が逃げおおせるのは不可能だよ。逃げてきたと言っている人たちがいるのは把握しているけど、全員が軽犯罪にも満たないか思想犯だね。水上も分類すると思想犯だけど、元政府関係者と言うのが特殊ではあるかな」


「えっ!? 水上さんって政府だったんですか? それが何でF地域なんかに来ちゃったんだろう。きっといい生活してただろうになあ」


「彼は名前のせいなのか水に対して非常に強い執着があるんだ。それがもとで立ち入り禁止地区になっている海へと侵入して逮捕された。ただ見たかっただけだから軽い罪と厳重注意で終わるはずだったのに、しばらくしてから再犯してしまったんだ」


「だから追放されたんですか? 収容されなかったのはなぜです?」


「いいや、追放も収容もしていないよ。ただ職場を山のほうへ変えられただけさ。そして逃げたと。これが十五年くらい前のことで、それからずっと監視されているわけ」


「じゃあ本人もわかってて反体制運動とかやってたんですか? 肝が据わってますねえ。ただの変わり者じゃなかったんだ」


「いやあ変わり者には違いないさ。普通の人は仕事や立場を考えて欲求を押さえるだろうし、そもそも立ち入り禁止区域に興味を持つことが無い。でも彼は違うしキミも違うよね?」


「いいえ、私は常識人だから海を見に行ったりしませんよ。もしかしてなんかおかしい人みたいに思われてます?」


「そういう意味じゃなくて、言われた通りのことだけを受け入れずに留学から逃げただろう? しかも結局親元を離れてるんだから留学しても同じだったと思わない?」


「思いませんね。私は自分の人生を自分で決めたいんです。そんな何十年先までのこと政府に決められても困りますよ」


「でも両親はそうやって生きて来たじゃない? なんで自分は反抗したのかって不思議ではないかな?」


「うーん、人ってそれぞれ考え方が違ったり生きる理想が違ったりするもんじゃないですか。今までは自分でもあんまりよくわかってなかったけど、トラちゃんさんたちと過ごしてそれがわかってきました」


「そこだよ。自分で決めて生きていくなんて人間はほとんどいない。もちろん私も違うからこんな仕事についているのだけれどね」


「どういうことです? 私だけじゃなくみんなそうやって生活してますよ? 当たり前じゃないですか」


「F地域住民の当たり前、だろ? 箱根の居住区にいたころは今のような感覚はなかったんじゃないかな?」


「言われてみれば確かにそうですけど、きっとみんな自由がなくて考える余裕がなかったんだと思います。今はみんな好き勝手ってほどじゃないけどとっても自由だから自然と考え方も変わってきてるんだと思いますよ」


「それは違うなあ。政府から言われたことを素直に受け入れられない者たちが、能力値にかかわらずF地域へ出てしまうのさ。政府としてもそう言った異分子を居住区へ留めておくことはリスクだから脱走をなかば容認しているわけ」


「じゃあなんて水上さんを捕まえたんですか? 政府で働いてたならなにかしら優秀だったはず。それでも逃がしておいたのに何年もたってから捕まえて、いったいどうするつもりですか?」


「それは私にはわからないよ。上が決めることなんでね。それに捕まえたわけじゃなく業務に戻ってもらうために連れ帰るんだからね?」


「なんだかごまかしっぽいなあ。政府がどんな仕事させていたのか知りませんし、これから何をさせるのかわかりませんけど、ひどいことはしないでくださいね?」


「一応伝えておくよ。それではそろそろ本題へ入ってもいいかな?」


 どうやら私との自由な? 会話はもう十分らしい。つまりもう一つの目的である『今回の出来事を説明』する段になったということだ。


 しかしそれを私に説明してどうするのか、何の意味があるのかは全く想像もつかないままだった。



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