13.警察官?
今まで反体制運動に誘われたことも参加したこともない。いや別に水上さんだけ捕まえてくれって言ってるわけじゃなく、私には覚えがないと言いたいだけだ。
そうは言っても誰かが返事をしてくれるわけじゃないし、頭にはなにかすっぽりとかぶせられ前は見えないし、いくら声をあげても外へ聞こえている気配はない。
そのうちに移動しているような振動が伝わってきた。ということはどこかへ連れて行かれるのだろう。私は不安で怖くて仕方なかった。
だがなにか坂のような傾斜を感じた後、少しゴトゴトと音がしたくらいで移動してる感じはなく、荷物のように何かに載せられただけな気がする。
「私は荷物じゃなああーい!」
もう怖くてじっとしていられない。せめてもの抵抗として大声で叫びながら体をなるべく揺さぶってみた。でもどうあがいても逃げられそうにないし、こんな閉じ込められているような状況で誰が返事をするものか。
しかし――――
『乱暴にして申し訳ないが少しの間でいいから静かにしてもらえないか? こちらにも手順ってものがあるのでね』
「その声はさっきの警察みたいなカッコの人!? いったい誰なんですか!?」
『それもこの後説明するなら少しだけ待っていてくれ。ちなみに私は警察官だ』
「警察、かん? かんってなんですか? 警察とは違うんですか?」
会話ができたことで少しだけ不安は取り除かれたが、それでも自由がきかないのは変わらない。待っていろと言われても、こんなひどいことしてくる人の言うことを素直に聞くと思うのがおかしい。
私は引き続き体を揺さぶって暴れながら叫ぶ。しかしそれっきり返事はない。もしかしたらうるさいからと通話を切られてしまったのかも?
こうなるともう絶望感しかなく、とうとう私は涙をこぼし始めた。さすがに大声で泣いたりはしないが、しとしとと降り続く雨のように涙がほおを伝っていく。
とにかく今わかっているのは私を拘束しているのが警察だということだ。つまり犯罪者だと決めつけられこんな処遇を受けているということになる。
ただでさえ不安で怖くて悲しいのに、さらに悔しさややるせなさも湧きあがってきてどうすればいいのかわからない。こうなってから大した時間は経ってないはず。
だけど私は完全に諦めてしまいくたっと身体の力を抜いた。すると連動するように意識までもうろうとしてくる。それからほどなくして気を失ってしまった。
「―――― かい? ―― 大丈夫かい? どこか痛いところはあるかな?」
「―― えっ、あっ! きゃあ! 何するんですか!?」
いつの間にかソファへ寝かされていた私のすぐ目の前に、先ほどの警察、かん? と名乗った人がいて驚いて飛び起きた。しかし起き上がれるほど意識がしっかりしていなかったのか、足がもつれてて倒れ込んでしまう。
「おっと、急に立ち上がったら危ないだろうに。まったく大人しく待っていてくれればこんなに時間はかからなかったんだがなあ」
「そんなこと今言われても…… でもダイジョブですからつい、足がもつれちゃっただけなんで―― んんっ!?」
床に倒れるよりはマシだったが、こんな人の腕に抱かれてしまった恥ずかしさと悔しさが入り混じった気分になる。だから照れ隠しもあり慌てて相手を押しのけるように両手を突っ張ると、なんとも表現に困る感触が手に伝わってきた。
「おっと、コレが男にされたんだったら反射的にひっぱたいてしまったかもしれないよ? さすがに小さな少女にそんなことはしないがね」
警察の人は怖そうだけどおかしな表現をしながら私の背中へ腕を回す。それからやさしくソファへと座らせてくれた。
「たびたびすいません…… まさか女性だとは思わなくて。そんな怖そうな格好だしてっきり若いオジサンかなって」
「若いおじさんってのも独特の表現だね。それはお兄さんではないのかい? まあ私はお姉さんに分類されるはずだと自分では思っているがな」
「だってしゃべり方がオジサンみたいな感じで怖いじゃないですか。学校の人みたいだもん」
「規律正しい職に就いているとこうなってしまうものさ。それで体は何ともないかい? 決して乱暴に扱おうとしたわけじゃないんだが、あの場では拘束して連れてくるしかなかったので勘弁してもらいたい」
「後から言われてもどうにもなりません。文句があると言ったってどうせ受け入れられないんでしょ? 教育庁だっていつもそうでした」
「こりゃ参った。まさにその通りではある。だけど危害を加えるつもりがないのは本当さ。水上流星も向こうの部屋でくつろいでいる。まあ彼には事前に話をしていたから暴れられても困るんだがね」
「事前に? さっき捕まえに来たときに話したってことですかね? でもアトリエはめちゃくちゃになっちゃったじゃないですか。あんなのひどすぎます」
「ひどい? そんなことは無いさ。交換条件としてすべての罪を問わないと約束したのだから。でもいざとなったら興奮してしまったようだ」
「罪を問わないってことは無罪ですよね? じゃあなんで捕まえていくんですか? それに私はなんで一緒に捕まらないといけないんですか? 悪いことなんてなにもしてないのに」
「少し話がしたかったというのが一つ、もう一つは今回のことを説明するのに適任だと決められたからさ。ようはこの地域で一番話の分かる娘と認められたわけだ」
「警察に認められてもうれしくないです…… 話とかどうでもいいから早く解放してください!」
「それじゃ何も解決しないだろう? なぜ水上が拘束されたのかをこれから説明するから聞いてくれないかな? もちろんそのあと彼にも会わせるよ」
「いえ、別に特別仲がいいわけでもないのでどうでもいいです。絵は素敵ですけど、陰謀論? ってのにはとても賛同できませんからねえ」
その答えが意外だったのか、警察の人はケラケラと大きな声で笑い出した。
もちろん私は納得がいかず、頬を膨らませながら抗議の態度を示したのだった。




