表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪賦ナイル YA  作者: 城山古城


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

266/270

第十二話 姫神の大敗

 一


 新体制に移行し、翼志館は学戦において次々と勝ちを得ていた。それは各勢力にも影響を与えており、各勢力の属校から由美子の選挙公約に掲げた【学戦を終わらせる】に賛同する学校が出始めた。


 それには岐湊の松前浩平も頭を悩ませ、勢力内で会合を設けたものの、不調に終わった。そのあと、一部の属校は勢力を岐湊から翼志館へ移ることを申し出、真はそれをあっさりと了承した。遠山はその対応に不満だったが、真に次のように返され、怒るよりも真らしいと呆れてしまった。


「仕方ないよ」


 浩平は流石にこの言葉をすべて飲んだわけではないが、今の状況が神宮由美子の戦略によるものと思うと、自分の力の無さを痛感し、真のように受け入れるしかないと考えた。それにこれは無理矢理のものではない。由美子はあくまでも翼志館という勢力に乗り換えた方が速く学戦を終わるし、自分たちのやりたいことをやれると明示をしてのことだ。それ以上のメリットを出せない自分たちが悪いと考えていた。


「さすが神宮といったところか……」


「なによ! しっかりしなさいよ!」


 遠山は浩平に詰め寄る。


「遠山、経験の差だ。あんな大々的にやり、東郷に勝利する。まあ、そうなるわな」


 近藤は浩平を養護した。


「僕らの時代は終わった。最後に神宮にやられたのは悔しいけど、後は残ってくれた人たちのためにやれる事をやろう」


 真の言葉に浩平と近藤は頷くも、遠山だけは頬を膨らませていた。


 一方、東郷は由美子の公約と学戦への対応に追われていた。ここ二度学戦に敗け、東郷はひどく士気が低下していた。属校の中からは離反しようと画策する輩が出始めた。周藤は属校を全校集め、言い放つ。


「情けない。学校自治を認めればそれでいいのか? 学戦を速く終わらせるために翼志館に寝返るのか? ならば、俺達でそれを行えばいい。いいか、二戦負けただけで弱腰になるな! 神宮よりも、東郷こそが学戦を終わらせることができると知らしめろ!」


 その檄で喜ぶものも居たが、二戦負けていたのは事実で、その対策を(おろか)に問うものも居た。


「この二戦、野戦で負けてしまいました。今の翼志館には高橋兄弟、戸次さん、母里くんに、安藤さんと指揮を任せるだけ人材が豊富です。それに竹中さんと法西の戦術。あれは想像以上のものでした。どちらの作戦かまるで分からないくらい陣形が変幻自在。今の僕らでは負け越してしまうでしょう。だから、僕は天と地をまず制す」


「天と地?」


 周藤だけが笑うも、他のものは首を傾げる。


「天はすなわち時です。この一ヶ月、守りきれば三年生はいなくなります。翼志館の三年生が居なくなれば、恐らくこれまでのような野戦は仕掛けられない。彼女たちにとって一番痛いのは竹中さんが居なくなることです。陣形を変幻自在に動かせるのは竹中さんと法西の二人が居てできること。だから、必然的に野戦は少なくなっていく。もう一つ、やるべきことがあります。それはこちらから仕掛けることです。学戦を行うにしても、一ヶ月に三回が限度。なら、こちらでその時を十二月の中旬と指定すれば一月まで時間を稼げます」


 それには全員が頷く。


「それで魯、地とはなんだ?」


 黄倉が魯に尋ねる。


「それは場所です。野戦で戦うのは不利と分かっているなら入り組んだ地形を行えばいい。つまり、市街地戦です。ただ、市街地戦で戦うなら勝てはしない。良くて引き分けでしょう。なら、ここは徹底的に相手を貶めるような作戦を作りましょう。相手を罠にかけるんです」


 魯の笑みを見て、周藤は頼もしく思った。


 東郷から学戦の通告を受け取った由美子はご満悦のようだった。


「相手が仕掛けてきたわよ!」


 絹張も含めこれまでの勝ち戦により、気分が高揚しているようで、次も勝利して当然という顔になっていた。


 そんな中、法西は由美子から学戦の通告書を受け取り、物憂げに考えていた。


「どうしたのよ? そんな顔をして、もう少しやる気を出しなさい」


 由美子は法西に意気揚々と言った。


「やる気がないわけじゃない。ただ……」


「ただ?」


 絹張が聞き返す。


「そろそろ敵も仕掛けてくるだろうと思ってな」


「仕掛ける? 何をよ?」


 由美子はそんなことはないと高をくくっているようだった。


「日付は十二月十一日の土曜日、夜だ。俺なら十二月一週目に仕掛ける。その方が年末ギリギリにもう一戦できるからな」


「それが仕掛けて来てるというの? そんなの当たり前じゃない。東郷としては、今の三年生がいる間は戦いたくないというのは当然よ!」


「そうだな、それに今度は市街地戦になるしな。こちらの対策をしている」


「それでも私達は負けないでしょう? しっかり考えなさいよ、法西」


 法西は立ち上がり、部屋から出ようとする。


「どこに行くのよ?」


「作戦を考えるために、竹中に意見を聞こうかと思ってな」


 由美子は眉間にシワを寄せる。


「百戦して百勝ならず。勝ちの確率を高めるなら、あの男に聞くのは悪くない」


「そう、勝手にしない」


「神宮由美子!」


 絹張は竹中のことを悪く言われたように思い、噛み付くも、直ぐに冷静になるように言い聞かせ、前よりも落ち着いた口調で注意する。


「会長を少し信用しなさい」


「分かりましたぁ!」


 由美子は少しだけ反抗的に言う。このとき、鞘夏や小板から笑われる。これが今の生徒会のパターンとなっていた。


 法西の懸念は現実のものとなる。翼志館はこの一戦に負けてしまったのだ。


 その日、法西が竹中に意見を聞いていると、周藤が自ら翼志館にやってきて、竹中に一騎打ちを申し出たのだ。竹中はそれが計略だと分かっていても、受けざるを得ない。そこで、翼志館は一つの判断機関を失った。


 翼志館にとって一番の敗北の要因は由美子たち生徒会の慢心であった。法西という優秀な判断機関が機能しても、由美子や絹張は勝てると思い込んでいた。それは生徒会だけではなく、翼志館全体に広まっており、とにかく戦えば勝つという勘違いが生まれ、翼志館全体が力押しで行けば問題ないと安易な考えていた。


 そこを魯は自らの懐近くまで呼び寄せ、逃げ道をある一歩方向に限定させた迷路に入れた。これは石陣八陣の原型のようなもので、相手の方向感覚を狂わせ、動き疲れた所を徐々に削り取っていく。次第に翼志館の数で劣勢となり、それを見計らって魯は全面攻勢に出て、各拠点を落とされ、敗北した。


 世間ではこの大敗を【姫神(ひめがみ)の大敗】と呼び、由美子は自ら属校を回り、陳謝(ちんしゃ)していた。


 大敗により、由美子に対しての風当たりが強くなるかと思いきや、そうはならなかった。由美子は、属校を回ったときに今回の負けた原因と相手の戦術を考察した上で、対策を属校に提示し、属校の溜飲を下げたからであろう。


 属校への説明の帰りに、由美子は法西に、【姫神(ひめがみ)の大敗】のネーミングについて尋ねた。


「ねえ、姫神ってなによ?」


「姫様が言ったのだろう? わざと敗北を広めて、戒めにするとしても、神宮ではなく、私一個人にしろと言ったのは」


「言ったわよ。でも、姫神ってなによ?」


「姫は姫様。神は神宮。今、神宮の姫といえば姫様のことしか思い浮かばないはずだ」


「これって、私に対する嫌味よね?」


「そうか? 考え抜いて、作った二つ名というのに。残念だ……」


 法西は笑みを浮かべていた。


「他の人も作りなさい。私一人じゃあ、不公平よ」


「分かった。作って広めるとしよう。差し当たり、誰がいいんだ?」


 由美子は子供っぽい笑顔をする。

高評価、ブックマーク、感想もよろしくね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ