第十一話 善悪の報いは陰の形に随(したが)うが如し
生徒会長選挙は由美子の計画通りに行われ、由美子は生徒会長となった。
忠陽は計画の全貌を鞘夏から話を聞き、愕然とした。まさか自分が利用されていると思っても見なかった。竹中の視線を外すために行ったとはいえ、由美子に良いように使われ、そして自分の感情までも利用されていたと思うと腹が立つ。
その感情を訴えようと、忠陽は新しい主がいる生徒会室に訪れる。そこには新生徒副会長である絹張、書紀に任命された鞘夏、そして、今回の生徒会長選で由美子を手伝っていた会計の小板まりあが居た。
忠陽の仏頂面を見るなり、由美子はニコニコしながら駆け寄る。他の三人は忠陽が由美子に対して怒っていることが分ったので、二人に触れないように今後のやるべきことを話し合っていた。
「どうしたの? 賀茂くん♪」
「何か言うことはないの?」
由美子は笑みを崩さず、誤魔化そうとしているのが手に取るように分かる。忠陽は妹の鏡華が兄の機嫌を取るときに同じようなことをするからだ。
「そうか。それなら僕にも考えがあるよ」
忠陽は脅しのつもりで言ったが、由美子にはそれが全然効いてなかった。むしろ、忠陽だったら許してくれるというのが分かっているかのような顔をしている。
忠陽はそれにはムッとなり、部屋から出ようとしたとき、流石に由美子も鞘夏も声を上げる。
由美子は忠陽の腕を掴み、静止する。
「ごめんなさい。私が悪かった」
忠陽は振り返り、由美子を疑うような目で見ていた。
「本当にそう思ってるの?」
由美子は苦笑いしていた。
「うん、うん! 思ってる、本当に思っている!」
「僕の心は本当に傷ついたんだよ?」
「ごめんなさい。もうしないから……」
「そうは言っても、神宮さんは僕なら許してくれると思って、また、するでしょう?」
由美子はすぐに言い返せなかった。
「たぶん、しないと思う……」
「たぶん?」
「絶対に?」
「絶対……」
忠陽の疑いの目がキツイのか、由美子は目を背け始めた。忠陽は無言の圧力をかけるが、由美子は手遊びを始めた。
「ねぇ……、許してよ」
「たぶん、神宮さんが学戦リーグで裏切られたって根に持つくらい、僕も根に持つよ」
由美子はその返答に愕然として、半泣きのように声を上げる。
「あー、もー、許してよー! こんなにお願いしてるのに!!」
「自業自得じゃないか……」
「だって、そうしないと竹中さんに勝てなかったんだもん! 仕方ないじゃない! あんなに協力してくれるって言ったのは嘘だったの? 嘘つき!」
「なっ! 嘘つき!?」
「ふんだ! あとで鞘夏に愚痴ってやる。こんなに謝ってるのに許してくれないって、泣きついてやるんだから!」
「それはズルいよ!」
「だいたい何よ、私の気持ちを無視して先走ってさ! 竹中さんの甘言に乗せられて人を襲うなんて。退学にならなかったのは、私が直前で止めたからでしょう? それなのに全然許してくれないなんてさ」
「ナッ!?」
「いいわよ! 兄さんや爺や、良子さんにいいつけてやるんだから!」
由美子はふんッと鼻を鳴らして、そっぽを向く。
この三人で、逆に由美子を叱りつけられるのは漆戸だけだが、皆、由美子に甘い。三人から詰められでもしたらと想像すると、恐ろしくて仕方なかった。歯がゆい思いをして、由美子の顔を見ると笑みがこぼれていることに気づく。
「神宮さん……」
由美子は再び顔色を変え、高圧的な態度を取っていた。
「もういいよ……」
由美子は嬉しそうな笑みに変わる。
「その代わり、この事は八雲さんや漆戸さん、今度、葛城二佐にも相談する。いや、伏見先生に今から相談するよ」
「なんでよ!!」
「反省が足りない神宮さんが悪いんだよ」
「分かった! 分かったから!! 本当に許してよー!!」
「本当にそう思ってるの?」
「もちろんよ! 今度からちゃんと相談する!」
「本当に?」
「本当よ!」
由美子が甘えた顔で許しを乞う姿は妹属性たっぷりであり、忠陽はそれに負けてしまい、深い息を吐く。その音を聞いて、由美子は歓喜する。
「許してくれるの?」
「うん」
由美子は忠陽の腕を掴み、何度も飛び跳ねる。
「でも、一生、根に持つかも」
由美子はその言葉を聞いても、笑みを浮かべながら忠陽の耳元で囁く。
「大丈夫。私、信じてるわ。た、だ、は、る、くん」
耳元から離れると由美子は意地悪な顔をして、忠陽に答えを求める。
忠陽は頭を掻くしなかった。
「神宮由美子、イチャイチャしてないで、そろそろあなたも考えなさい」
絹張の言葉に由美子はすぐに反応する。
「イチャイチャしてません!」
由美子は顔を赤らめながら、忠陽の腕から手を離す。
「これからやることが一杯なのよ! 学戦の申請、各属校への挨拶回り、新体制のやり方、時間が惜しいわ!」
「そうです、ゆみさん」
「鞘夏まで……」
「二年で終わらせるのなら、一日一日が大切なの! 分かっている?」
「分かってますよー」
由美子は鼻を鳴らしながら、生徒会長の席に座ると、ちょうどノック音が三回した。
誰もが、これから入ってこようとしている人物に心当たりがなく、周りが誰の客だと押しつけ合っていった。最後には、何故か絹張に視線が集中する。こういうタイミングに来るのは竹中のような気がしたからである。
絹張は選挙の後でも竹中と話をしていないらしい。由美子から真相聞いた絹張は竹中の思いをどう受け止めたらいいか分からないのと、直接本人から聞いていないから確証がないままに会いたくないという気持ちが強いらしい。
その絹張がモジモジしている中、思わぬ人物が入ってきた。
「居るじゃないか」
由美子も絹張ものその美形と、スラリとした長身の男を見て、同時に口を開けた。
「法西!?」
「法西孝直!!」
法西は自分の名前を呼ばれても気にせず、傍若無人に応接用の椅子に座る。
「あなた、何をしに来たの!?」
絹張の警戒心を最大にして、法西に問いかける。
「何をしにと言われても、俺の悩みを解決するために戦術立案の役目を与えると言ったのは、他ならぬそこの姫様だ」
全員の視線が由美子に向く。
「あなた、そんなこと言ったの?」
絹張は恐る恐る聞く。
「言ったような……言ってないような……」
「どっちなの? ハッキリしなさい!」
「言った!…かもしれない。でも、あなたは必要無いってはっきり言ったわ!」
由美子は絹張に訴えかける。
「この調子だと、明日までかかるか。ちょうどいい、賀茂、ポーカーに付き合え」
「えっ、はい……」
忠陽が言われたとおり、法西の反対側に座ろうとしたとき、由美子が生徒会長の机を叩き、立ち上がる。
「ちょっと! 話終わってないわよ!」
法西はそれを無視するようにカードを配り始めた。互いに5枚ずつ配り終えると、法西は忠陽の顔を見ながら言った。
「賀茂、一つ聞く。お前の役職はなんだ?」
「いや、僕は生徒会に入ってません。ここにいる僕以外の方が生徒会です。今年は全員が女性ですよ」
忠陽は楽しそうに法西は言った。
「そうか……。誰が副会長なんだ?」
法西は女性陣を見ると、露骨に敵意を出す絹張がいた。
「私よ。何か文句ある?」
法西はそれを聞いて笑みを浮かべる。
「いや、適材適所だが、御愁傷様と言っておこう」
「なによ、喧嘩売ってるの?」
「哀れんでいるんだよ」
絹張はさらに不満そうな顔をした。
「姫様、一つ聞こう。なぜ、賀茂を副会長にしなかったんだ?」
絹張は法西の質問に乗る。
「それは私も聞きたかった。神宮、どうして私を副会長にしたの?」
全員が由美子の答えを催促するように目で訴えかける。
「それは……」
「そ、それは?」
小板が復唱する。
「ほら、賀茂くんって、副会長するには頼りないじゃない」
由美子は焦ったように答える。
「その点、絹張先輩なら事務処理とか、交渉事でもしっかりやってもらえると思うし、私が不在の時でも、任せられるじゃない?」
それは忠陽と小板は納得し、鞘夏と法西は笑みを浮かべる。
「あなたがそう評価しているなんて……。一応、ありがとうと言っておくわ」
絹張は由美子の評価がまんざらでもない様子だった。
由美子は法西が笑っていることに不満を持ったのか、その真意を問い詰める。
「なによ、その笑みは?」
「いや、何も。それならば、その頼りない男は俺が使うとしよう。賀茂のあの隠形は、俺の戦術と相性が良さそうだろうからな。いいだろう、姫様?」
「良くないわよ。勝手に賀茂くんを使わないで!」
その答えに忠陽は自分の意志がないのかと肩を落とすが、すぐに由美子なら仕方ないと切り替えた。忠陽はそんな意志の弱さを鞘夏に許しを求めるように見る。鞘夏は楽しそうに笑っていた。
最近、鞘夏の表情が柔らかくなっていることが忠陽は嬉しかった。今回の選挙戦でも色んな人と関わりを持ったらしく、自分以外とも会話が増えて良かった。
「ねえ、賀茂くん! 聞いているの!?」
「え、ああ、うん」
由美子は不満そうな顔をしていた。
「賀茂くんから言いなさいよ! 嫌だって!」
「いいんじゃないかな? 僕は頼りないでしょう?」
忠陽はここぞばかりに由美子に反撃すると、由美子は頬を膨らませる。
「なによ、もう! 私、知らないからね!」
「どうやら、姫様は怒ったようだ。いいのか、賀茂?」
「大丈夫ですよ。神宮さんなら、あとで許してくれるよね?」
由美子は忠陽のことがあり、嫌だとは言えず、顔を赤くしながら頬を膨らませる。
「これはこれは。さすがは賀茂だな」
法西は由美子の反応を見て、感嘆する。
「うるさいわね! あなたはささっと学戦でどう戦うかを提案しなさいよ!」
「それはもう決まっている」
由美子と絹張はそれに驚く。
「な、な、何をするつもりなのよ?」
絹張は法西に問うた。
「野戦だ」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 野戦なんて実力差がはっきり出るじゃない! 市街戦の方が、勝率が高いわよ」
絹張は法西に反論した。
「なんだ、自分たちの戦力を分かっていないのか? 今なら野戦のほうが勝ちやすい」
「確かにそうね……」
由美子は冷静に考えていた。
「神宮由美子! あなたね、あの男の言うことを真に受けるんじゃないわよ!」
「そうか、ならば仕方ない。さっき、生徒会室の前で竹中に会ったときに言われてたんだがな……」
絹張は竹中という言葉に反応し、すぐに態度を変え、法西に尋ねる。
「会長はなんて言ったのよ……」
法西は口角を上げる。
「姫様への注文だ。次回の学戦は僕と周藤くんとの決戦の約束をしている。それを考慮した配置と戦術を望むよ。僕を利用した君の事だからそのぐらいは簡単だろう。ちなみに僕はやられたら、根に持つタイプだ。と、言っていた」
その言葉を聞き、絹張は由美子に迫る。
「神宮由美子! どうにかしなさい! 会長の要望よ!」
由美子は眉間に皺を寄せる。
「会長は私なんですけど……」
「私にとって会長は会長だけなのよ!」
由美子は意味が分からないと思った。
「私も、あなたがした事を忘れてない。会長の言う通りにすれば忘れてあげるわ」
「なんですか、その取引!?」
「いいじゃない!? 会長に花を持たせようとしないの、あなた!? 法西、あなたはそういうつもりなのよね!?」
法西は不敵な笑みを浮かべる。それを見た忠陽は法西の術中にいると思った。
「ああ、そのつもりだ」
「法西、あなた……」
「いいわね、神宮由美子!」
由美子は生徒会長の机から立ち上がり、逃げるように生徒会室から出ようとする。
「待ちなさい、神宮由美子! 答えがまだよ!」
忠陽はその由美子を見て、楽しそうに笑い、法西を見ると、法西はしてやったりとした顔をしていた。
忠陽は鞘夏に目を向ける。鞘夏は笑みを浮かべながら、忠陽に助けて上げてくださいと言っているかのようだった。忠陽はその顔を見て、立ち上がり、由美子の後を追う。
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