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呪賦ナイル YA  作者: 城山古城


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第十一話 選挙演説 その一

 十


 立候補者演説当日


 翼志館の講堂のホールは人でごった返していた。その講堂に入れるのは翼志館勢力の人のみだったが、由美子の要望通り体育館には外部の人間も受け入れられていた。そこには真や浩平、遠山、近藤もいれば、周藤や黄倉、魯、朝子と葉も居る。


 その状態に驚いていたのは現生徒会長である竹中だった。なぜこのようなお祭り騒ぎのような状態になっているのか、自分は何かを見落としていたのかと疑った。


「どうしたんや、そんなビックリした顔して。君らしくもないな」


 ヘラヘラとした笑みを浮かべ、伏見が竹中に問いかける。


「あなたの、仕業ですか?」


「僕がなんで人を集めるんや? なんの得があるん?」


「由美子くんのためにです」


「冗談は止めてくれ。あのじゃじゃ馬のために」


「だったら、これは――」


「その由美子くんが学校側に要求してきた。校長も教頭も、学年主任も総出で反対してたわ。あの赤塚なんか顔を真っ赤にして怒ってたわ。やけど、理事長の鶴の一声で、こうなってしもうたわ。おかげで、僕はずっと赤塚に小言を言われてる」


「それは大変ですね……」


「君は感情的になりすぎた。自分の思いが先行した結果、利用されたことに気づけなかった。あの姫を甘く見た結果やな。あいつは神宮やぞ。こんなの朝飯前や」


 竹中は伏見を睨んでしまった。


「まあ、僕としては、君のその顔が見られただけでも、動いた甲斐があったわ」


 伏見は竹中の背中を叩き、講堂に入るよう促す。


 竹中は冷静になれと自分に言い聞かせて、いつもの作り笑いに戻し、講堂のホールへと入った。入った瞬間に竹中を呼ぶ声がした。その声は安藤のものだった。安藤の側には戸次や高橋も居た。


「遅いぞ。速く入らないと座れなくなるぞ」


「ああ、そうだね……」


 いつもと同じように声を掛ける安藤に竹中は戸惑った。


「どうした、竹中。気分でも悪いのか?」


 その野太い戸次の声で竹中は我に帰り、大丈夫だと返事をした。高橋は相変わらず無言であった。

 安藤の案内で竹中は二階席に行くと、席はほぼ埋まっていた。安藤はその中で四人が座れる場所を探し出し、そこに歩いていく。


「なんだか、この四人でつるむというのも久しぶりだな」


 安藤は懐かしむように言った。


「そうだな、安藤。できれば、この四人で学戦リーグを出てみたかったな」


 戸次が同意する。


「確かに。そうすれば、俺達が優勝していたかもな、竹中」


 高橋の同意を求める言葉に、竹中は空返事をしていた。


「おい、亮。さっきから元気がねえな。明日で俺達はお役目御免だ。こういうときは嬉しいもんだろう?」


「それはサボり魔のお前だけだろう。俺は妹がしっかりできるか不安だ」


「おい、シスコンゴリラ。おれはサボってねえ」


「誰がゴリラだ!?」


「うるさい。少しは静かにしろ」


 安藤と戸次は高橋に怒られ、互いに睨み合いながら、黙った。それを見て、いつもの二人を思い出し、竹中は自然と笑みが生まれた。


「やっと……笑ったじゃないか」


 竹中は安藤に言われ、俯く。


「なあ、亮。もう肩の荷を降ろせよ。これからはアイツらの時代になる。お前の気持ちは分かるが、いつまでも俺達はここには居られねえ」


 戸次も高橋も竹中を見ていた。


「そうだね……そうだ……」


「絹張とって、お前が側に居ないこの選挙期間は不安で一杯だっただろう。だが、あいつはここまで一人で戦いきった。そろそろ俺やお前が面倒を見なくてもいいんじゃないか?」


 竹中は黙ったままだった。


「俺はな、あいつの戦う姿を見に来たんだ。俺達の後を任せて良いと思った奴の戦う姿をだ。それぐらい、ちゃんと見てやろうぜ、亮!」


 安藤ははにかむ笑顔で竹中の拳をかざす。竹中はそれを見ると、その拳に自分の拳を付けた。


「ああ……」


 戸次と高橋は竹中の返事に笑みを浮かべていた。


 講堂の公演が始まるブザー音が鳴り響く。それでまでガヤガヤとしていた講堂は一瞬にして静まり返っていた。


 舞台の上手側から絹張と由美子が現れ、校章に一礼し、備え付けられているパイプ椅子に座った。その二人が座った後、下手から選挙管理委員が現れ、校章に一礼し、その場で話し始めた。


「えー、それではこれより翼志館生徒会長立候補者演説会を行いたいと思います。今回、立候補者は二名であります。呪術科二年一組、絹張紫苑さん、呪術科一年一組、神宮由美子さんです。演説の順番は届け順にて行います。まずは絹張紫苑さん、お願い致します」


 選挙管理委員が下手に捌けていくと、絹張は席から立ち上がり、演壇の横で校章、国旗に一礼する。その後、登壇し、演壇の前でさらに一礼する。絹張は演壇に張り付くと、懐から紙を取り出す。


「ご紹介に預かりました、この度、生徒会長に立候補しました、呪術科二年一組、絹張紫苑です」


 絹張は取り出した紙を読み上げる。


「私が生徒会長に立候補した理由は、戦いのない学校生活を作るためです。つまり、学戦を無くしたいと思っています」


 絹張は顔を上げ、周りの反応を見る。


「去年から私は、竹中現生徒会長のもとで、竹中現生徒会長が掲げた、戦いをしない、させない学校運営を行ってきました。そのお陰で竹中現生徒会長が就任してから、学戦は五回と例年に比べてかなり少なかったと思います」


 忠陽はそうなのかと思った。


「戦いをしない、させないためにどうするかを私なりに考えたとき、必要なのは強大な力だと考えました。力があれば、岐湊も東郷も戦いを挑むことは辞めるでしょう。私はこれからの一年でそれだけの力を持った勢力するために、三点の施策をしていきたいと思います」


 絹張は顔を上げ、紙を見ずに講堂にいる人たちを見る。


「一つ、呪術師の育成のために定期的な訓練を催します。強制参加しません。自由参加とします」


 強制参加でないのに、何人かが胸をなでおろす。


「二つ、適材適所の配置を促すために各校で適性検査を行って頂きます。これは個人個人の能力に合わせた配置を行い、力の最適化、最大化を行います」


 これには翼志館の人間でも難色を示すものがいた。


「三つ、勢力内おける強固な協力体制の構築です。現在、模索中ではありますが、我々は一蓮托生です。戦いのない学校生活を作るのためには皆さんの力が重要です。何卒お力添えを頂きたく存じます」


 絹張は頭を下げる。それは数秒であったが、竹中には長い時間のように感じた。


「最後になりますが、先程申し上げたように、この三つは私一人で成し遂げられません。皆さん、一人ひとりが、戦いのない学校生活望み、そして協力して頂く必要があります。ですが、私達なら戦いのない学校生活を作れると思っております。私とともに実現していきましょう! ご清聴頂きありがとうございました」


 絹張は深々と一礼すると、会場から拍手が起こった。その拍手に絹張は演説中に震えていた手が少しだけ和らぎ始めた。

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