外伝 花火係(前編)
火と氷で一つの花火を上げたい二人が、大ゲンカした話
あの入学試験から、半年がたった。
幼なじみのノエルとは、同じクラスになった。
座学は、ノエルが学年でいちばん。
私は、教科書を開くと五分で眠くなる。
実技があるから、成績はなんとかなっている。
ただ、分かったことがある。
私の火は、加減ができない。
ろうそくに火をつける実技で、ろうそくと燭台と、
担任の先生の眉毛の片方を燃やした。
眉毛は、まだ生えてこない。
そして、秋。
学園祭まで、あと一か月。
うちのクラスの出し物は、「魔法花火」に決まった。
「火は火の花。水は氷の花。土は光る粉を作って、風がそれで空に模様を描く」
委員長が、黒板にさらさら書いていく。
「最後に、どーんと大きいのを一発。以上」
拍手。誰も、その一発を誰がやるかは聞かなかった。
練習初日。中庭は、いきなり大さわぎになった。
土系統の子たちが、光る石を細かく砕いて、色とりどりの粉を作った。
それを風系統の子たちが空へ運んで、模様を描く。
赤、青、金、緑。夜空に、光の花畑ができるはずだった。
ところが、風が一回、強く吹きすぎた。
緑の粉のかたまりが、空からまっすぐ落ちてきて、
いちばん前にいたノエルに、直撃した。
ノエルの顔が、きれいな緑になった。
私は、こらえきれなくて吹きだした。
「……リズ」
緑の顔のノエルが、じとーっと私を見た。
「笑ってる場合じゃないよ」
「だって、ノエル、葉っぱみたい」
「……」
じとーっ。
そのあとも、みんな失敗ばかり。
練習初日は、ほとんど全部、失敗で終わった。
その日の終わり。
委員長が、黒板の「最後の一発」を指でとんとん叩いた。
「これ、誰がやる?」
クラスじゅうの目が、私とノエルに集まった。
魔法の威力なら、私が学年でいちばん。
魔法の制御なら、ノエルが学年でいちばん。
水を凍らせて、花びらの一枚一枚まで氷で作れるのは、ノエルしかいない。
「二人で組めば、すごいの上がるでしょ」
こうして、私とノエルは、最後の一発の係になった。
火と氷。どう考えても、相性は最悪だ。
私もノエルも、それくらい分かっている。
でも、委員長が黒板に描いた絵を見て、二人とも黙った。
氷の花びらが、火の花の光をはね返して、
夜空いっぱいに、きらきら散っていく絵。
「火だけでも、氷だけでも、こうはならないでしょ」
……見たい。
ノエルを見たら、ノエルも同じ顔をしていた。
二人の練習は、次の日から始まった。
練習一日目。
私の火が、先に昇ったノエルの氷に追いついた。
じゅわっ。
氷が空で溶けて、中庭にお湯の雨が降った。
中庭で練習していたみんなが、悲鳴を上げて逃げた。
練習三日目。
今度は、溶かされないように、ノエルが氷を大きくした。
大きく。もっと大きく。
空に浮かんだのは、花じゃなくて、馬車くらいの氷のかたまりだった。
私の火は、その下で、じゅっと小さく鳴って、それきりだった。
氷のかたまりは、そのまま中庭の噴水に落ちた。
どぼーん。
噴水が、まるごと凍った。
練習十日目。
「小さく。小さく……」
氷を溶かさないように、私は思いきり加減した。
ぽすっ。
空に届く前に、線香花火みたいな火が、ちょろっと落ちた。
中庭が、しんとした。
「……これじゃ、花火にならない」
ノエルが、ぽつりと言った。
「だって、全力だと、ノエルの氷が溶けるじゃん」
「溶けないように、ちゃんと形を計算してる。リズが毎回、違う大きさで撃つから」
「火なんだから、毎回同じになんかならないよ!」
「なるように練習して、って言ってるの」
「ノエルは、氷の計算ばっかりで、
私の火なんか、ちっとも見てないじゃん!」
「見てるよ! 見てるから、毎回ずれてるのが分かるんでしょ!」
ノエルが、大きな声を出した。
クラスのみんなが、「また始まった」という顔で、一歩下がった。
「リズはいつもそう。思いつきで、勢いで、なんとかなると思ってる!」
「なんとかなってきたもん!」
「入学試験だって、広間じゅう真っ赤にして、私の目、ちかちかさせて!」
「それ半年前の話じゃん!」
「先生の眉毛も!」
「それ今関係ないでしょ!」
中庭のみんなは、遠巻きに見ていた。
「もういい。リズは、ひとりでどーんってやってればいいじゃない!」
「ノエルこそ、ひとりで氷の花でも並べてれば!」
ノエルは、くるっと背を向けて、正門から帰っていった。
私は、反対の裏門から帰った。
学園祭まで、あと二十日。
最後の一発は、まだ一回も上がっていない。
(外伝 第2話 おわり)
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