↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その記憶、お預かりします  作者: ちたはい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/9

外伝 花火係(後編)

最高の花火を上げた夜、おばあちゃんは私が分からなかった

ケンカしてから、ノエルとは一言も話していない。

それでも、放課後の中庭には、二人とも来た。


ノエルは、私の火に負けない氷を作る練習をしていた。

もっと大きく。もっと速く。

氷は、大きくするほど形がくずれていった。


私は、火を安定させる練習をしていた。

毎回、同じ大きさで。同じ速さで。

でも、私の火は、言うことを聞かなかった。

大きすぎたり、小さすぎたり。一回も、同じにならなかった。


一言もしゃべらずに、何度も、何度も。

並んで撃っても、火と氷が空で出会うことは、一回もなかった。


学園祭まで、あと二日。

「このままだと、最後の一発、間に合わないよ」

放課後、クラスで話し合いになった。

「リズだけで上げたら? 火だけでも、花火にはなるし」

だれかがそう言うと、何人かがうなずいた。

委員長は、黒板の「最後の一発」の横に、小さく「リズひとり?」と書いた。

「明日から、そっちで練習しよう」

私もノエルも、何も言えなかった。


帰り道、いつものように、おばあちゃんのパン屋の前を通った。

「おばあちゃん、学園祭、見に来てね。最後の花火、私が上げるから」

「はいはい。学園祭は、いつだったかね」

「あさってだよ。昨日も言ったよ」

「そうだったかね」

おばあちゃんは笑って、エプロンの粉をはらった。


店を出ると、もう日が暮れていた。

学園祭の前の何日かは、町の子どもたちが、願いごとを書いた紙のランタンを空に飛ばす。


パン屋の先の坂道で、ノエルとばったり会った。

「……」

「……」

帰る方向が同じだから、しかたなく並んで歩いた。三歩はなれて。


坂の途中で、小さい子が三人、泣いていた。

手には、しわしわの紙のランタン。

「飛ばないの」

いちばん小さい子が、しゃくりあげた。


その夜は、海から霧が上がってきていた。

紙が湿って重くなって、中のろうそくの火くらいでは、もう浮かない。

見回すと、坂のあちこちで、ランタンが地面を引きずられていた。


「貸して」

私は、ランタンの口に手をかざした。

そっと温めるつもりだった。

でも、私の火は、やっぱり大きくなった。

ぶわっ。

ランタンがふくらんで、浮いた。

と思ったら、紙のふちが、ちりちり茶色くなり始めた。

「あ、やば」

燃える。


その時、ランタンのまわりを、ひやっとした空気が包んだ。

紙のふちの焦げが、そこで止まった。

となりで、ノエルが黙って、ランタンに指を向けていた。

ノエルの冷気だ。紙のまわりだけを冷やして、燃えないようにしている。

中は、私の火で熱いまま。


挿絵(By みてみん)


ランタンは、ゆっくり、夜空へ昇っていった。

中の火が、橙色に透けていた。


「飛んだ!」

子どもたちが、跳びはねた。

「お姉ちゃん、こっちも!」

「こっちも!」

気がついたら、坂じゅうの子どもが、ランタンを持って並んでいた。


私が温める。ノエルが冷やす。

私の火は、やっぱり毎回、大きさがちがった。

大きすぎたり、もっと大きすぎたり。

でも、焦げたランタンは、一つもなかった。

冷気を強くしたり、弱くしたり。

ノエルは、ランタンごとに、魔法の強さを変えていた。

私の火を、じっと見ながら。


最後のランタンが、霧の上へ抜けていった。

坂の上の空に、橙色の光が、何十も浮かんでいた。


「……私、リズの火に負けないようにって、氷を強くする練習ばっかりしてた」

ノエルが、空を見上げたまま言った。

「私だって、ノエルみたいに、火を安定させる練習ばっかりしてた」

二人とも、相手に合わせようとして、自分じゃないことをしていた。

だから、二人とも失敗していた。


「リズの火は、安定しなくていい。

 毎回ちがう火を見て、ぴったり合わせるのは、私の得意なことだから」

ノエルが、やっと私を見た。

「明日、全力で出して。私が合わせる」

「……全力でいいの?」

「全力じゃなきゃ、リズの火じゃないでしょ」


「ごめん」

「ごめん」

声が、また重なった。

二人で、吹きだした。


次の日の放課後。日が暮れかけていた。

委員長が、「リズひとり」の練習を始めようとした時、

ノエルが手をあげた。

「もう一回だけ、やらせて」

私も、ノエルのとなりで、委員長をまっすぐ見た。

委員長は、私とノエルの顔を見くらべてから、うなずいた。


私は、空に両手を向けた。

安定させよう、なんて考えない。

ありったけの力で、火を放った。

私の火が、まっすぐ空へ昇っていく。

となりで、ノエルが、私の火をじっと見ていた。

一拍おくれて、ノエルの指先から、白い光が追いかけた。


挿絵(By みてみん)


てっぺんで、火がひらいた。

空いっぱいの、大きな丸い火の花。

その外側で、ノエルの氷が、細かい細かい粒になって、ぱっと散った。

火の光が、氷の粒のひとつひとつに映って、金色に、赤に光った。

火花が消えていっても、氷の粒は火の色を残したまま、

きらきら、ゆっくり降ってきた。

委員長が黒板に描いた絵と、同じだった。


中庭が、一瞬しんとした。

それから、わっと歓声が上がった。


ノエルと、目が合った。

ノエルは、顔をくしゃくしゃにして笑っていた。

たぶん、私も。


学園祭の夜。

中庭のまわりは、町の人でいっぱいだった。

クラスの花火が、ひとつ、またひとつと上がっていく。

火の花と氷の花のあいだを、色とりどりの光の粉が流れていく。

練習で失敗ばかりしていたのが、うそみたいだった。


「ラスト、いくよー!」

委員長が叫んだ。


私の火は、昨日よりも大きくなった。

でも、ノエルの氷は、それにもぴったり合わせてきた。

夜空いっぱいに、昨日よりもきれいな花火がひらいた。

町の人たちから、大きな歓声が上がった。


花火が終わると、中庭の人たちが、ぞろぞろ動きだした。

次は、となりのクラスの出し物だ。

私たちも、急いで道具を片づけて、見に行くことにした。


人の流れの中に、見なれた背中を見つけた。

エプロン姿。粉のついた手。

「おばあちゃん!」

私は、人をかき分けて走った。

「見た? 最後の花火!」

おばあちゃんは、振り返って、にこにこした。

「見たよ。きれいだったねえ」

「でしょ! あれ、私が」

「あの花火、誰が上げたんだろうねえ」

おばあちゃんが、私を見た。

知らない子を見る、やさしい目だった。

「お嬢ちゃんも、学園の子かい?」


空には、まだ、氷の粒がきらきら残っていた。


挿絵(By みてみん)


読んでくださってありがとうございます。

TikTokでは、挿絵つきで連載しています。

TikTok: ちたはい(@chita_high)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。