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その記憶、お預かりします  作者: ちたはい


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外伝 測れない光

魔法学園の試験で、水晶が一瞬だけ金色に光った子の話(本編第2話のノエルとリズが主人公の外伝です)

魔法学園の入学試験は、水晶に手をかざすだけだ。

光った色で、得意な魔法が分かる。

赤は火。青は水。緑は風。茶色は土。

光らなければ、才能なし。それで終わり。


「リズ、次だよ」

ノエルに背中を押されて、私は前に出た。

手をかざした瞬間、水晶が真っ赤に光った。

広間じゅうが、夕焼けみたいに赤く染まった。

試験官のおじさんが、目を押さえてうめいた。

「……合格。火。もう少し、加減を」

「やった!」

思わず跳びはねたら、おじさんに、目を押さえたまま、にらまれた。


ノエルは青だった。光り方まで、きっちりしていた。

「目が、まだちかちかする」

「ごめんって」


二人とも合格。あとは、ほかの子の試験を眺めるだけだった。


最後のひとりは、山吹色のケープの女の子だった。

栗色の短い髪に、青い小さな花の髪飾り。

緊張しているのが、後ろからでも分かった。


女の子が、水晶に手をかざした。

何も起きなかった。

赤も、青も、緑も、茶色も。うんともすんとも言わない。


そのときだった。

ふっと、焼きたてのパンの匂いがした。

おばあちゃんの台所の匂い。もう何年も、思い出したこともなかったのに。


隣を見たら、ノエルが目を丸くしていた。

「……今、お母さんの子守歌、聞こえなかった?」

「聞こえない。でも、おばあちゃんのパンの匂いがした」

二人で、顔を見合わせた。


試験官のおじさんも、なぜか胸に手を当てて、ぼんやりしていた。

それから首を振って、紙に何か書いた。

「……才能なし。次」


女の子は、ぺこりと頭を下げた。

「ありがとうございました」

声は明るかった。でも、ケープを握る手が、白くなるくらい震えていた。

そのまま、早足で出ていった。


「ねえ、リズ」

ノエルが、私の袖を引いた。

「水晶、一瞬だけ光ったよ。金色に」

「金? そんな色の魔法、ないじゃん」

「だから、変なの」


ノエルは、見間違いをしない子だ。

教科書の誤植まで見つける子だ。


廊下に出たら、もうあの子はいなかった。

名前も聞けなかった。


あれから、ときどき思い出す。

焼きたてのパンの匂いと、

青い小さな花の髪飾りを。


(外伝 第1話 おわり)

読んでくださってありがとうございます。

外伝は、ノエルとリズの魔法学園の話を全5話で書いていきます。

TikTokでは、挿絵つきで連載しています。

TikTok: ちたはい(@chita_high)

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