誕生日のひみつ
誕生日を忘れた灯台守に、勝手に誕生日をあげた話
「ぼく、口が軽いんだ!」
小さな男の子が、胸を張って言った。自慢することじゃない。
「明日、妹の誕生日なんだ。プレゼントも買ったんだけど、ぼく、毎年前の日にしゃべっちゃうの」
「聞いてない」
「だから中身を預かって! 明日まで!」
ネモが、ちょっとだけ考えた。
「預けたら、お前も中身が分からなくなるぞ」
「いいよ!」
ぱちん。はじけるみたいな、元気な光だった。
男の子は、ぱちぱちと瞬きをした。
「……あれ。ぼく、なに買ったんだっけ」
「知らん」
「気になる! 教えて!」
「明日まで待て」
預けた意味が、三秒でなくなるところだった。
次の日。男の子は坂を全力で駆け上がってきた。
「聞いて! 妹が箱を開けたらね!」
「聞いてない」
「真っ赤な凧! すっごく大きいの! ぼく、びっくりしてひっくり返っちゃった!」
「選んだの、君だよね?」
「妹、ぼくを見てずっと笑ってた!」
大成功、らしい。
「瓶は、どうする」
「いらない! もう知ってるもん!」
男の子は、来たときと同じ速さで帰っていった。
忘れていたから、自分の贈り物に、自分で驚けた。
忘れるのも、悪いことばかりじゃないんだな。
「そういえば、ネモの誕生日っていつ?」
「知らない」
「祝ってもらったこと、ないの?」
「あったのかもしれない。灯台に来る前のことは、何も覚えてない」
誕生日も。それを祝ってくれた人も。
「……じゃあ、ネモって名前は、誰がつけてくれたの?」
「誰も。ネモは名前じゃない。古い言葉で『誰でもない』って意味だ。町の連中が、勝手にそう呼び始めた」
ネモは窓の外を見ていた。
……それは、悪いほうの「忘れる」だ。
私は鞄をごそごそ探った。お昼用の蜂蜜パンが、一個ある。
「はい」
「なんだ」
「今日にしよう、誕生日。忘れたんなら、いつにしたっていいでしょ。おめでとう、ネモ」
「意味が分からない」
「いいから」
ネモは、ものすごく嫌そうな顔でパンを受け取った。
ひとくち食べた。
ふたくち食べた。
あっという間に、なくなった。
「……甘いの、好きなんだ?」
「別に」
「来年の今日も、持ってくるね」
「どうせ忘れる」
「ネモが忘れても、私が覚えてるよ」
ネモは、何も言わなかった。
指についた蜂蜜を、こっそりなめていた。
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