ケンカの理由
親友とケンカした理由を、二人とも忘れに来た話
働き始めて三日目。分かったことがある。
ネモは、とにかく人の話を聞かない。
「聞いてください!」
朝一番に飛び込んできたのは、魔法学園の制服の女の子だった。赤いリボンを、きっちり結んでいる。
「親友のリズが、私の焼き菓子を食べたんです。最後の一個」
「聞いてない」
「試験が終わったら半分こしようと思って、取っておいたのに!」
……それは、怒る。
「でも、お菓子ひとつで怒ってる自分も嫌で。自分からは許せないし、口をきかないのも、もう限界で」
女の子は、ぎゅっと腕を組んだ。
「ケンカしたこと、なかったことにしたいんです」
ネモが額に指を当てる。
ころん、と落ちたのは、豆粒みたいに小さな光だった。
「ちっさ」
「どうでもいい記憶ほど小さい」
へえ。
でも、と私は思った。
あの子が忘れても、相手は怒ったままなんじゃ……?
昼過ぎ。同じ制服の子が来た。青いリボンが、ほどけかけている。
「聞いてよ! 親友のノエルとケンカしちゃって」
私とネモは、顔を見合わせた。
「三日も置きっぱなしだったから、いらないのかと思って食べたの。半分こするつもりだったなんて、言ってくれなきゃ分かんないよ!」
「聞いてない」
「謝りたいけど、今さら謝れないの! だから、なかったことにして!」
豆粒が、二つになった。
次の日。二人は並んでやって来た。
「あの、この札。私たち、何を預けたんでしたっけ」
「気になるので、返してもらえます?」
返したら、またケンカになる。絶対なる。
私があわてていると、ネモが言った。
「やめとけ」
「なんでですか?」
「……長くなるから」
二人は顔を見合わせて、「まあいっか」と笑った。
「帰りに焼き菓子買ってこ」
「いいね。半分こね」
今度は、ちゃんと口に出して言った。
棚の隅に、豆粒が二つ、くっついて並んでいる。
「同じ日に、同じこと考えて来たんだね。あの二人」
「似た者同士だ」
「いいなあ、親友。ネモは友達いないの?」
「うるさい」
いないんだ。
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