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その記憶、お預かりします  作者: ちたはい


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1/9

灯台守は理由を聞かない

記憶を消して、もう一回

岬の灯台には、変な噂がある。

——記憶を、預かってくれるらしい。


今日からそこで働く私、ミオ(15)は、青い小花の咲く坂を上って、扉を開けて、三秒で固まった。


銀色の髪に、ずり落ちそうな帽子。

ものすごく顔のいい男の人が、椅子で寝ていた。


「あの、灯台守さんは……」

「俺」

片目が開いた。青い。もう片方は、金色だった。

「えっ」

「三百年やってる」

「えっ!?」

「うるさい。あと、客に理由は聞くな。長くなるから」

第一印象は、最悪だった。


そこへ、おじいさんが本を抱えて入ってきた。

「ネモ、今年も頼むよ。いやあ、まさか最後にああなるとは!」

「聞いてない」

ネモ。それが名前らしい。変わってる。


ネモが面倒くさそうに説明してくれた。

「この人は毎年、その本の結末だけ預けに来る」

「結末だけ?」

「忘れて、来年また初めて読むんだと」

なにそれ、ずるい。私だって好きな本、記憶を消してもう一回読みたい。


ネモが、おじいさんの額に指を当てた。

ふわっと金色の光がこぼれて、小瓶に落ちる。

……きれい、と思ったのは内緒だ。


棚には、同じ光の瓶がずらっと三十本。

「三十一本目。棚が足りない」

「増やしてくれ」

「やだ」


「あの。ほかの本は読まないんですか?」

つい聞いてしまった。ネモが「聞くなって」という顔をする。


おじいさんは、表紙をそっとなでた。

「これはね、死んだ家内が書いた本なんだ。たった一冊だけ」

「……」

「新作は、もう出ないだろう?」

おじいさんは笑った。

「だから毎年、こうして新作にしてもらっとるんだよ」


やばい。泣きそう。

隣を見たら、ネモはそっぽを向いていた。


おじいさんが帰ったあと。

「ねえ。机の上に、同じ本があるんだけど」

「……借りてるだけだ」

「毎年読んでるでしょ」

「読んでない」

耳が、赤かった。


三百年生きてる灯台守は、どうやら嘘がへたらしい。

TikTokでは、挿絵つきで連載しています。

TikTok: ちたはい(@chita_high)

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