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ゴルン教異変編 蒼い花炎

私、アヤメ・クローズには両親はいない。親族と呼べる、血の繋がった家族はいない

覚えているのは、土煙と焦げたニオイ…そして冷たい何かに抱かれていた感触

おそらく、これが僅かに覚えている両親の記憶、別れの記憶

幼児だった頃に、両親諸共テロに巻き込まれたらしく、母親が命をかけて私をテロの爆破から守ったらしい

物心がついた頃には、ミルース村の孤児院にいた

優しく、そして時には厳しい翠様とシスター達と同じ似た境遇の子供達と一緒に育った

優しくて美しく、聡明な翠様は、私にとっては母親のような存在であり、共に笑って、悪いことをすれば叱る。失った両親から、与えられる愛情を、翠様は私や子供達に与えてくれた

いつしか、翠様は私の憧れとなり、そして同じ道を志そうと思うには、そう時間が掛からなかったと思う

聖職者として振舞いと心構え。そして魔女らしく、得意な魔法も教えてもらった


「人を守るための魔法」


聖職者として、魔法という力の心構え。いつも口酸っぱく言われて来た

私が9歳を迎える前のことであった。急激な体調不良でしばらく寝込んでしまった

原因がわからず、翠様も相当慌てていた

体中が燃えるような感覚と節々が痛む感覚…今でも覚えている

そして急激に体調が回復して、起き上がった私を、翠様は驚愕していた。それは、その時は私が聞いたことの無い名前を叫んでしまう程。「アイリス」と言う名を

私の元々の容姿は茶髪の茶眼の、この辺りでは珍しくもない女の子の容姿であった

しかし、謎の体調不良から目覚めた私は、金髪翠眼になり、顔つきも変わっていた

そう、私の容姿は何故かアイリス様と瓜二つになった

その事実を知ったのは、2年前。クラブの魔装鎧がここに来て、生命波動を通じてアイリス様と邂逅してわかったことであり、そして私とアイリス様の間には血縁関係もないというのは直感でお互いにわかってしまった

何故、私がアイリス様と容姿が似るのか、未だに答えは出なかった

話を戻して、私の急な容姿の代わりように翠様はしばらく、私と顔を合わせることをしなかった

再び顔を合わせるようになった時には、いつも通りに接するようになったが

時折、どことなく寂しそうな表情を見せる

それから数年後、村の子供が骨折して、痛みの和らげるために使った癒しの術が、異様な治癒能力を発現させ、瞬時に骨折を治してしまった

体が燃えるような、魔力とは異なる力…それが生命波動を始めて使ったのは、偶発、偶然に、唐突であった

生命波動を発現してから、言葉や行動で表すことは無いが、より一層に寂しく、悲しい表情を翠様は見せるようになった

その答えは、アイリス様が知っていた。ある日、いつものように地下室でアイリス様から生命波動の使い方を学んでいた時に聞いたのだ、翠様が時折見せる、悲しげな表情を


「…私が妖魔との最後の決戦に向かう前に、翠様に泣きつかれた。『行かないで欲しい』って懇願された…翠様はわかっていたんだろうね。おそらく、私は生きて帰ってくることは無い…私自身も、生きて帰るつもりは無かったからね」


アイリス様は、生命波動がこの世界にあり続けるのは良しとしない。おそらく妖魔との戦いが終われば、混乱の時代が訪れ、悪用する者が現れるのを防ぐために自ら死地に行ったのだ


「だけど、今思えばもっと翠様と言葉を交わすべきだったかもしれない…翠様はずっと後悔しているんだと思う。私を引き留めてしまったこと、涙を流して悲しい顔で送り出してしまったことを…そして、再び、自分の我が子のように愛したアヤメちゃんが、私と同じ道、同じ結末を歩もうとしている…だから…」


そして今、私の前に選択を迫られていた。人形使いの人質にされた翠様の前で、選択を。アイリス様と同じ死地の地獄の道を踏むのか、それとも




右手のガントレットを構えたアヤメの目の前に、人形使いは操った翠の魔女を前に出す

翠の魔女の片腕は折られているが、無理矢理動かされ


「ぐ!?」

「翠様!?」


翠の魔女は歯を食いしばるが、激痛が走り、苦悶の表情を浮かべる


「アハハハハハ!!魔女あろう奴が無様だ!!無様な声を上げてる!!アハハハハハ!!!」


翠の魔女の痛みに悶える姿に、人形使いは片手で腹を抱えて笑っていた

目の前の異常な光景に、どんな手段を使ってくるのはわかっていても、アヤメも恐怖で足がすくんでいた


「さて?お前がアヤメだっけ?僕としてはお前なんてどーでもいいんだがな、どうにもマグスがお前に興味があるようで、教祖を利用してお前を引き入れようとしたのに…拒むからこんなことになるんだ」

「…」


困惑して答えられないアヤメに、人形使いは続ける


「お前が拒むから村の連中も!ガキ共も!この馬鹿な魔女も痛い目に遭ってるんだ!お前のせいだぁよ!!お前が従えば、オレもこんなことしなかったのになぁあ!?」


理不尽かつ、自身の行動をまるで正当化するような言い方。何一つ認められることじゃない人形使いの行動に、アヤメは何も言い返せない

いくら、魔法の使い方を教えてもらい、生命波動の使い方を教えてもらい、戦い方も教えてもらっても、恐ろしい物、理解出来ない者と対峙した時の心構えなんて誰も教えてくれなかった。教えようが無いのだ


「アヤメぇ…お前が大人しく付いてくるなら、これ以上手を出すのはやめるが…」


ここに来て人形使いは交渉を持ち込んでくる


(これ以上誰も苦しまずに済む選択肢は、それしか無いの…!?)


アヤメはそんな考えをよぎるが、足元に何か感触を感じた。感触だけじゃなく、魔力も感じ

アヤメは意を決して答える


「…嘘ね。あなたは私がこれ以上抵抗をしないと思ったら、ここにいる皆を酷い目合わせるに決まっている」

「おやぁ?聖職者が人を嘘つき呼ばわりするのか?それはいけないなぁ!!!」


人形使いは、わかりやすく魔法の糸を見せつけるように動かす

翠の魔女の右手の中指が可動域は逆に動き、折られる


「ぐ!?が…!?」

「翠様!?やめて!!」


翠の魔女は苦悶の表情で、痛みを堪える為に歯を食いしばる

大切な人を目の前で傷つけられる姿は、アヤメには堪えきれすに、とうとう涙を浮かべてしまう


「アハハハ!!泣いちゃう!?泣いちゃったねぇ!!そうやって恐怖で浮かべる涙!本当にサイコーだよぉなぁ!!」


相手を不快にさせる笑い方をしながら、人形使いは翠の魔女の頭を鷲掴みし


「ぐ…」

「ほら、魔女からも何か言ってやれよ?無様に助けてくださいーってなぁ!ハハハハハ!!!!」


翠の魔女は苦しそうな顔ではあったが、歯を食いしばり、表情を変える


「…そう…ね、確かに、助けてもらいましょうか…アヤメ、私を助けてくれないかしら?」

「え…?」


翠の魔女の言葉は、アヤメにとっては想定外であったが、翠の魔女の表情を見てその言葉とは別の意図を感じ取った。翠の魔女は笑顔で、アヤメに言う


「私は、ずっと後悔していた…アイリスを笑顔で送り出せなかったこと、我が子に等しい子の進んでいく道を引き留めてしまったこと…確かに、死地に笑顔で送り出せるような親なんていない…でも…でも!」


翠の魔女はあの時とは違う言葉を、アヤメに言う


「アイリスの歩んだ道は決して誤った道では無かった…間違った道なら親として止める…だけど、それが彼女が選んだ間違っていない道であるなら、親として応援するのも筋…それが、アヤメ、そしてアイリスの宿命、そしてやるべきことならば…!」


翠の魔女は意を決して言う、その背中を押す言葉を


「戦え…戦いなさい!アヤメ!アイリス!大切なモノを守る為に…!あなた達が持つ力を正しく使い、使命を果たしなさい!」


翠の魔女が無様に助けを請うどころか、戦えと煽ってきたことに、人形使いは呆れてため息をつき


「はぁぁぁ…仕方ない、糸でアヤメを操ってしまったほうが早いな」


人形使いは指先で魔法の糸をアヤメに括り付けようとした。人形魔法、マリオネット

妖魔の力で強化されたこの魔法は、魔力の高い魔女ですら思い通りに支配できる。相手からしても不可解な能力を持つアヤメでも例外なく操れる

人形使いは、そう思い込んでいたが、アヤメに魔法の糸が括り付けれず、それどころか弾かれたのだ


「?…なんだ?糸が弾かれる?」

「馬鹿め…同じ魔法が通用するとでも思ったのか?素人め…!」


翠の魔女は人形使いのマリオネットが、アヤメに効かない訳を知っていた。というより対策したのだ


「私の植物魔力を通じて、アヤメの足元に蔦を伸ばして魔力をかけた…お前のマリオネットの魔法をこの身で受けているからこそ解析が出来たし、それに対するカウンターも仕込めた…お前の魔法はアヤメには通じない…!」


翠の魔女は辛うじて後ろを向き、人形使いを睨みつけながら言い切る

人形使いは指先を動かすと、魔法の糸で翠の魔女の首を絞める


「ぐ!?がぁ…!?」

「…うざいよ、お前?これ以上邪魔するんなら、死んじゃえよ」


人形使いは、なるべく苦しめる即死させずに、翠の魔女の首を魔法の糸で絞め続ける


「アヤメぇ…お前のせいで、お前の大切な人が死ぬんだぞぉ?お前が悪い!お前が抗うから悪い!お前のせいでこの魔女は死ぬんだ!お前のせいで…」


人形使いが、翠の魔女の前に出て、アヤメに言いがかりを言い切ろうとして瞬間であった

人形使いの心臓の位置に、何かが刺さった感触があった


「…なんだぁ?この青い…花か?」


人形使いの心臓の位置には、青い薔薇が刺さっていた。それは今までの雰囲気と異なるアヤメが投げたものであり、


(体を預けます、アイリス様)

「わかったわ、アヤメ。生命波動(シーケンス)…!ローズレクエイム…!」


アヤメから体を借りたアイリスが、指を鳴らした瞬間、生命波動で作った青い薔薇が蒼く燃え、たちまち人形使いの体を蒼い炎に包んだ


「ぐぁぁぁぁ!?なんだこの炎!?熱い!?熱いぃぃぃ!?」


それは妖魔の力を持つ人形使いに強く反応しているのか、激しく燃え、それは人形使いが翠の魔女を拘束してた魔法の糸すら燃やして消滅させて、翠の魔女は解放され、その場に倒れた

人形使いは感じたことない燃える感覚に、床に倒れ、転がるように悶える。それは炎を消したいという本能故の行動なのか。しかし、蒼い炎は消えることなく、ますます人形使いの体を燃やし続けた


「助けてぇ!!助けてくれぇぇぇ!!!!!」


ここまで非道な行いをしてきた人形使いは、無様に助けを請う。しかし、アイリスもアヤメも、一切許す気も無く


「…生命波動(シーケンス)、ブルーローズ!」


アイリスは続けて、3つの青い薔薇を生命波動で作り、燃えている人形使いに刺し、さらに激しく燃やす

妖魔の再生の能力すら通じない生命波動の炎をまともに受けた人形使いは、断末魔すら上げることなく動かなくなり、数十秒足らずに燃え尽き、骨も灰すら残らず、そこには悶え苦しんだ焦げた跡しか残らなかった


「翠様!」


安堵する暇も無く、翠の魔女は首締められたことに呼吸が荒れ、咳込んでおり

アイリスは生命波動を重ねて


「術式展開(シーケンス)、ライフ・ア・ヒール」


生命波動でブーストさせて、極めて強力な治癒魔法で、折れた骨も元通りに治癒させた

翠の魔女の呼吸も安定し


「…流石ね、アイリス」


翠の魔女は微笑みながら、アイリスの名を言う。アヤメからアイリスに変わったことに瞬時に気付いたこと驚きつつも


「そんなこと言ったら、アヤメちゃんが嫉妬しますよ?翠様」


表情を緩まして、冗談を言うアイリス

アイリスはずっと翠の魔女と話したかったが、いざ話そうとしても言葉が中々出なかった。しかし、意を決して


「翠様…私は…」


アイリスが言い切る前に、翠の魔女はアイリスを強く抱きしめた


「助けてくれてありがとう、アイリス。あなたがあの魔装鎧に魂を移していたことは知っていた。だけど、ずっと避けてたの…何を言えばいいのか、わからずにね…ごめんね…ごめんね…」


翠の魔女は体を震えさせて、目には涙を浮かべていた


「でも、これでやっと言える…お帰りなさい、アイリス…あなたがどんな姿であっても、帰ってきてくれたんだよね」

「…はい、ただいま…翠様」


アイリスは何かが吹っ切れたような笑顔で、翠の魔女の抱擁を受け入れていた

しかしそんな再開の感動に浸っている余裕は無く。上の方から地鳴りのような音が聞こえてきた

アイリスは、翠の魔女の抱擁を優しく解き、立ち上がる


「翠様、どうやら感動の再開の余韻に浸っている場合じゃないですね。まだ、怪人が二人いるようね」

「ええ…アイリス、そしてアヤメ。あなた達が成すと思うべき使命というなら、行きなさい」


翠の魔女は穏やかに、アイリスとアヤメの行く道の背中を押すような言い方をする。しかし、アイリスとアヤメは戸惑いがあった。今の状態が、アイリスにとってどれだけ危うい状態なのか、二人はわかっていた。しかし、言わなければならない、伝えなければならない


「翠様…アヤメの体を借りている間も、私、アイリス・クローズの魂はアヤメの魂に…生者の魂に引っ張られる…おそらく、これ以上の力の行使…魔装鎧を纏えば…」

「アイリスという存在は、消えるでしょ?そのぐらいわかっている。わかっている上で言ったもの」


アイリスは申し訳なさそうな顔になるが、翠の魔女はアイリスの頭を撫で


「いいのよ、こうやって最後に話せて…後悔は無いよ…行ってきなさい、あなた達は私の自慢の娘達なんだから」

「…はい、ありがとうございます。翠様…そして…さようなら、翠様」

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