ゴルン教異変編 逆鱗
『へぇー、オレが知っているアリエスの魔装鎧とは、随分とデザインが変わったというか、お前さんが女性というのもあるだろうが…』
深夜のゴルン教の本拠地、人が視認出来ないほどの上空
ゴートの魔装鎧状態のユーゴこと、カノンの帽子を被ったアリエスの魔装鎧が夜空で滞空して、待機していた
そして、久々に見るアリエスの魔装鎧は、ユーゴが知る姿とはかなり異なっていた
『まあ、ドーマ様から譲られた際に、アクエリアス様に私専用に作り直されたので…遠隔操作だから、戦闘力は落ちるますが、怪人の足止めならやれる』
戦力を必要と判断したリーノは、聖王都からメルデの町に転送魔法で自身の魔装鎧を送り込んでいた
『カノンの奴も、式神で魔装鎧を遠隔操作することをやっていたが…流石は、バルゴと同じホムンクルスなだけはあるな』
『お褒めにいただいて、光栄です。ユーゴ様』
会話しながら、ユーゴとリーノはゴルン教の本拠地の動きを注視する
『カノンとグランが潜入し、オレとリーノは上空から監視…動きがあればすぐさま動き、場合によってはオレのエクスカリバーで本拠地ごと最大出力で攻撃か…』
カノンの作戦であった。万が一に潜入作戦が失敗した時の救出として、ユーゴとリーノを展開。怪人や妖魔が出た際には強襲をかけて可能であれば先手で潰すという算段であった
『エクスカリバーでの最大出力攻撃は最終手段ですがね、ユーゴ様。まずいと判断したら、先ずはグランの安全を最優先にする。叔父上ならどうにでもなりそうですけど』
『グランがいないと、オレが全力になれないからな…カノンの奴は魔装鎧もあるし、アイツ自身の生き残る意思が強いからな…流石、姪っ子はわかっているな』
『…ええ、そうですね…』
リーノは少し考え込んでいた。ユーゴに言われたことに、自身の推測を思い出していた
その様子を勘付いたユーゴは
『どうした?何か考えことか?』
『いえ…死者を復活させる方法…叔父上も私もあり得ないとして結論をつけましたが…一つだけ、これは叔父上も思いついてる筈…だけど、余りにも現実離れしているから言いませんでしたが』
それはリーノの頭脳であれば、容易く思いつく方法、そしてそれはカノンも思いつくであろう方法ではあった。その技術に最も深く関わっているからこそ、真っ先に思いつき、最初のあり得ないと切り捨てた筈の推測
『…もしかしたら、私たちはゴルン教という組織を過小評価していた可能性があるかもしれない』
ゴルン教の本拠地、警備等、そういう人員や警報装置の類などはなく、カノンとユーゴは透明化の魔法と鍵解除の魔法で容易く潜入出来ていた
「どうだグラン、視界は?」
「大丈夫です、暗視のコンタクトレンズは機能しています。問題なく見えます」
灯りが何一つない建造物の侵入に、カノンとグランは暗視のコンタクトレンズを装備し、真っ暗な視界でも昼間と変わりなく見えていた
それ以外に、二人の左手にはガントレットを装着していた
「こんな、泥棒御用達の魔装具を使って、泥棒紛いのなことをするのは…なんというか」
「まったくだグラン。あんまりいい気分ではないな」
ゴルン教の本拠地のエントランス、端の目立たない場所に
「この辺だな」
カノンは指を鳴らし、床を風の刃で粉々に切り刻み、地下に降りる
「粉々に切れば、物音は出ない…とは言え、流石カノン先生は器用ですね」
「へへ、褒められて悪い気は…しな…い…」
カノンは地下の周囲を見て言葉を失う、そしてグランも同様に、この地下の光景に唖然としてしまい
二人とも固まってしまう
それは宗教施設とは思えない、まるで実験室、研究所のような培養槽…成人の大人が入る程の大きさと、その隣に人の頭ほどの大きさの培養槽が隣接、交合に並んでおり、数は10や20どころじゃない
培養槽は光る液体に満たされ、何かが入っていた
「な…なんだ…こ…こ、れ?…人が…人間が…?入ってる?」
目の前の光景に理解が追い付かないグラン。液体が満たされた大きな培養槽には人間が入っていた。全ての培養槽に同じく、良く見れば大人の男女から、子供まで、様々の人間が培養槽に入っていた
「……そういう…そういうことか、何故ゴルン教が死者を蘇生出来るのか…そして石化させる理由も…」
カノンは、この設備を見て、これがどのような施設なのかわかった…そしてこういう施設を知っていた。そして、それはカノンとリーノはあり得ないであろうと結論をつけた推測であった
「カノン先生…これは一体…?」
グランの質問に、カノンは答えを躊躇う。というより後悔であった。グランをここに連れてくるのは失敗、グランのようなまだ18にも満たない少年に見せるようなものではない。しかし、見てしまった以上、聞かれた以上、答えるしかなかった
「…ホムンクルスの制作工場…この施設、培養槽に入っている色合いからしても間違いない…こいつはホムンクルスを作っている…しかも、普通じゃない」
「…普通じゃない?」
カノンは一つの培養槽前に立ち、グランに見るように促す。それは大人の女性であり、グランも見覚えのある顔
「…!?酒場にいた店員さん!?」
それは、酒場で出会った店員、ルルに酷似している人物が培養槽の中にいた
「…オレもホムンクルス研究に関しては、専門家じゃないが…こいつらがやっているのは、複製のホムンクルスの作成…確か…呼び方があった筈だ…」
カノンは思い出しながら、この技術の名称を思い出す
「…そうだ、クローン…クローン技術だ…奴らはメルデの住人の複製人間、クローンを作り出している…こいつらの蘇生魔法のトリックはこういうことだったんだ」
「つまり、複製人間を作って、それを蘇らせたということにしていた…!?そんなことって…!」
思わず、グランの声が大きくなる。なっても致し方無い
「ああ、奴らは死者を蘇らせてなんかいない…それもよりももっと冒涜的で、魂の侮辱でもある…そして、複製のホムンクルス…クローン人間を生み出すことは、魔法界隈においては禁忌、法律違反として重罪になる、到底許されないことだ」
カノンは強く拳を握る。ゴルン教のやっている行為、それは単純な正義感や倫理観の問題ではなく
「奴らのやっていることは、オレ達魔法使いに対しても許せるものじゃない…!!歴々の魔法使い達が築き上げた魔法の技術…東の大陸からもたらされ、今日までその技術を継承し、伝えてきた者達の技術を、こいつらは悪用しやがった…!」
カノンは冷静を保っていられない程に、怒りと殺意がこみ上げていた。それほどまでに、ゴルン教にやったことに対する行為は、サイク家としても魔法使いとしても見逃せない、許せないものであった
「…でも、クローンって…どうやって、ゴルン教はここにいるルルさんを複製なんて…それに肉体を作っても、記憶は?」
グランの疑問に対して、カノンは深呼吸をして怒りを抑え、答える
「ゴルン教がどうやってこんな設備や技術を持ったのかは、わからないが…クローン自体は、対象の遺伝子情報、髪の毛一本からでも複製する為の遺伝子情報を得られる…記憶に関しては…」
カノンは躊躇った。しかし、答えた
ルルのクローンとは違う培養槽、その隣の小さい培養槽に指を指す
「…答えは、これだ…」
「……これって…人の…脳髄……まさか!?」
脳髄が入っている培養槽は、大きな培養槽に管で接続されており、グランはおぞましい想像、結論に至る
「…回収した遺体の脳髄を摘出し、そこから記憶を読み取り、クローンに読み込ませる…それによって記憶や人格形成させる。ただ、それだけでは記憶が完璧とは言えない」
カノンは聞いたことがあった。同一クローンの作成において、クローンに記憶障害が起きる可能性があり、完璧にコピー出来るケースは少ない
しかし、それを補う方法があるとすれば
「だから、石像状態で昔話をさせたり、外に置くことで記憶の補完した…だとすれば、説明が付く」
確証は無い。しかしカノンは自身の推測はほとんど間違いは無いとも思っていた
カノンは怒りが込み上げる、これ以上無いぐらいにキレていた
人々の希望や善意を悪用し、ましてや魔法技術を悪用したゴルン教を殺してやろうと思うぐらいに
(いかんな…グランには見せられない顔になっているか…)
カノンはふとグランの方を向く
それは、カノンは見たことがなかった。人は、人間はこんな顔が出来るのか、それは悪魔や鬼、もはや怪物の類か、憎悪と怒りで人はこんな顔になれるのか、妖魔大戦で地獄を見たカノンですら、それは見たことが無かった
それは逆鱗に触れたのか、グランの顔は、表情は怒りに満ち、そしていつの間にホルスターから抜いていた魔装銃を、人が入った培養槽に向けていた
「バカ!」
カノンはグランの魔装銃を取り上げ、頭を殴る
殴られたグランは、痛みで頭を抱えながらうずくまる
「…ユキナよりも、お前の方が沸点低いよな…おかげでこっちが冷静になってしまう」
「す、すみません…つい、カッとなって…」
グランは頭を抱えながら立ち上がり、カノンは魔装銃を返す
「クローン人間の存在そのものが許されないとは言え、怒りに任せて壊すんじゃない。気持ちはわかるがな…」
カノンは苦笑しながらも、グランの突発的な行動で、冷静に戻れており、僅かながら、グランに感謝していた
殴らたことで、グランも正気に戻る
「いたたた…カノン先生、これは死者を蘇生させている…と言えるんですか?」
「わかってて聞いてるのか?こんなの、蘇生でも何でもない」
グランはわかった上での質問に対し、カノンは断言した。これは死者の蘇生ではない
「同じ肉体、同じ顔、同じ記憶、同じ性格だとしても、これを同一人物として扱えない、扱う訳にはいかない。倫理的にも、社会的にも。全部がそうで無いとは言え、恐らくゴルン教は何人かは事故死に見せかけて故意的に殺害をして、クローン人間を送り出している。それじゃ、殺された者が浮かばれない…弔ってすらもらえていないんだ…このおぞましい行為を、認められるものか」
カノンは培養槽に入っているクローン達に目を向ける
「誕生した、作られた命に罪は無いさ…だが、その存在を許すわけにはいかないんだ、グラン」
「…カノン先生」
グランもクローン達に目を向ける。どのみち、このクローン達は、始末しなければならない
そして、今もメルデの町で活動しているクローンも
「しかし、こんなにクローンを作ってまで蘇生やら復活の奇跡として、宗教としての威厳を作るにしては…やりすぎなのでは?というより、ここまでやるにしても」
「目的なしにやるのも大がかり過ぎるな…この数なら、メルデの住人全員をクローンに入れ替えるなんてことも可能ではありそうだが…」
カノンとグランは改めて、設備を見渡す。培養槽は完全に人の姿になっているのもあれば、形成途中なのか、体が完全に作られていないのもあり、内臓や骨が見えているのもあった
しかし、グランは一体の形成途中の個体を注視し、気付く
「カノン先生!!あの個体!」
グランが指を指す培養槽をカノンも見る。それは、肉体の形成途中なのか、顔から首辺りは形成済みだが、臓器や筋肉が見えていた。腸や胃…肺まで見える、しかしそれは人間、哺乳類ならあるべき臓器がなかった、そのあるべき臓器の代わりに
「…心臓があるべき位置に、ウロボロスカード…まさか…ウロボロスカードは心臓の代わりになるというのか!?」
心臓のかわりに、禍々しい雰囲気を出すウロボロスカードが、血管が繋がれており、それは心臓の代替品として機能すると、カノンとグランは確信した
「…まさか、ここにあるクローン…そして町で蘇生されたとされるクローンのメルデの住人は!?」
「ああ…グラン…何かも手遅れだ…こいつら全員、おそらく心臓の代わりウロボロスカードが胎動しているクローンが、地上では出歩いて、この地下室にも大量にいる…いつ、怪人や妖魔になるかわからない、爆弾みたいなものがな…!」
カノンは手遅れだというのは、この町に来た時点で、ライブラから話を聞いた時点でわかっていたことであった
しかし、カノンの予想を遥かに超えて、最悪の事態になっていた
「…まさか、ゴルン教はその為に!?ウロボロスカードを仕込んだクローン達を!?」
戦慄する驚くグラン、カノンも同じく恐ろしい想像を、最悪の結末を予想していた
だが、その暇もなく、カノンは周囲の魔力に勘付く
「グラン、どうやら当事者たちに目的を聞くのが一番手っ取り早いかもしれん」(数は7だ、手筈通りに動け)
グランに小声で指示し、背中合わせで身構える
培養槽の間から、ゴルン教の神官達がカノンとグランの周囲を囲むように現れ、施設の明かりがつく
(ベルトタイプ…怪人タイプか?)
神官達はベルトを装着しており、そして奥からゴルン教の教祖が現れる。ゆっくりとカノンとグランの方に歩みながら
「よくいらっしゃいました、カノン様、グラン様。お話は、マグス様から伺っております」
聖女のような雰囲気と、穏やかな笑顔でゴルン教の教祖はカノンとグランを歓迎した




