ゴルン教異変編 ミルース村 その2
ミルース村。人口、百数人程で、主な産業は青果物の農業であり、地方の小規模の典型的な村である
十字教の教会や孤児院、住人が獣人と半獣人が半数以上を占めるという特徴はあるが、特段に珍しいものでもないが
この村が十二騎士の一人、生命のクラブこと、アイリス・クローズの出身であることを知っているのは、ごく限られた者しか知らない
「ありがとうございました。この猫ちゃん、うちの孤児院で面倒を見ているんですが…時折脱走しては、木登りして、降りることが出来なくなってをやらからかすので」
カノンとユキナを教会の正門前に案内した、アヤメは改めてお礼をしていた。礼儀正しく、子猫を抱えたまま
ミルース村の十字教の教会は、孤児院と隣接しており
「それでは、カノンさん達の待ち人は教会の中にいると思いますので。私はこの猫ちゃんを孤児院の方に置いていくので…」
アヤメは孤児院の方に向かおうとしていたのを
「ユキナ、ついていってやれ。しばらくこちらでお世話になる。子供の世話の手伝いなりしてやれ。得意だろ?」
「…それ、グランから聞きました?」
ユキナは年下の子供の扱いが慣れている。ということをグランから聞いていたカノン
無論、それは孤児院の手伝いが目的ではない。カノンはユキナに耳打ちをする
(そのままアヤメの護衛に入れ)
ユキナをここに連れてきたのは、アヤメの直接な護衛の為である。近接戦もその辺の兵士や、ライブラの配下よりも遥かに強く、生身でも頑丈な体、万が一は聖剣と魔装鎧を使える上に、同性ならアヤメも安心するという配慮であった
「わかりましたよ、カノン先生。アヤメさん、案内してもらえる?」
「え?いいんですか?」
急な提案に少し困惑するアヤメであったが、よくよく考えて
「確かに…これから夕飯の支度もしないといけませんし…それに、私と猫ちゃんを助けて下さった人は、きっといい人に決まってる…えーと、ユキナ…さん?」
「ユキナ・グラス、聖王都から来たの。ユキナでいいよ、アヤメさん」
「でしたら、私のことはアヤメと呼んで下さい。ユキナ」
ユキナとアヤメは良好な関係を築くことに成功し、二人は孤児院に向かっていく
残されたカノンは、正門の門を開けて、教会の敷地に入る
(ん?この魔力の反応…初めてだ…ライブラではない?だが、奴の反応に近いが)
ライブラが待っていると思っていたカノンは、少し警戒をしながら教会の中に入る
夕暮れ前の教会、礼拝に来る者はいないが、主祭壇の近くの席で偉そうに座っている者がカノンに視界に映る
「遅い。刃のジェミニアたる者、十二騎士最速の男は、随分とのんびりと来たわね」
教会に入って来たカノンの方を振り向きながら、辛辣な言葉を投げかける女性…頭部に特徴的な角を生やした女性の魔族がいた
年の位は、ユキナやグランに近く、容姿も美人と呼んでも過言ではなく、紅の魔女と同じぐらいにスタイル抜群の美女である
あるのだが、本当に切れそうな鋭い目付きで、カノンを睨んでいるようであった
「その物言いと、似た魔力反応…ライブラの身内か?」
カノンの推測は当たっていたようで、美人な魔族は面を食らった表情をしていた
「…アストレイア・ローザ・ライブラ。魔王ライブラの孫よ。ジェミニア。レイアと呼んでいいわよ」
レイアは言い当ててきたカノンに、自身の素性を明かす。まさかいい当ててくるとは思わなかったか、少し悔しそうに
「孫…魔王の孫いるとは…というより、奴に身内いたとはな…初耳だ」
魔王ライブラは、カリバーン国王が成立する数千年以前から生きており、当人も正確な年齢はもはや覚えていない程。そもそも年齢という概念があやふやな人物である
そんな魔王ライブラに血縁者はいてもおかしくはないが、少なくともカノンが知り得るライブラは身内を作るような者ではないと思っており、カノンにとっては意外であった
レイアの見た目は、美人の人間に角を生えているという容姿だが、ユキナと負けず劣らない魔力反応からして、魔族同士の種族であるとカノンは推測していた
「…確かに大した観察眼のようだけど…その魔力の低さといい、本当にライブラと共に戦った十二騎士とは思えないけど?」
「よく言われるが…その大した魔力を持っているお前さんは、ライブラからここを守れと言われたか?それとも、留守番でもするように言われたかな?」
カノンが発言し終わった瞬間、カノンの首筋に剣の刃が触れる
「…あまり過ぎたことを言わない方がいいわよ、ジェミニア」
カノンの言葉の中に、気の触ることがあったレイアは瞬時で錬成魔法で作った剣をカノンの首筋に向ける。少しでも動けば首が斬れるほどに
そんな危ない状況に関わらずカノンは冷静に、慌てることなく
「…ライブラはお前にオレを殺せと命令でもされたのか?だとしたら奴はこの100年で随分と耄碌したものだ…この程度の相手でオレを殺せると思ってるなら本当に舐められたものだ」
カノンはさらに挑発し、それを言われたレイアはさらに激昂し、そのまま剣でカノンの首を撥ねようとした時
「はい、そこまで。あなたの負けよ、レイア」
レイアが剣を持っている腕ごと、床から生えた蔦に絡まり、動けなくなる
奥から、緑髪が特徴的な修道服を着た女性が現れる
「…翠様、邪魔しないでもらえますか?私はこの男が十二騎士の刃のジェミニアとは認められない、おじい様も!」
「バカね…レイア、あなたも魔法使いであるならこの程度を見抜けなくてどうするのよ?そこにいるカノンは、分身…いや、確か式神だったかしらね?」
「はい!?」「流石、翠様…翠の魔女なら簡単に見抜くか」
驚くレイア、流石だと感心するカノン。翠の魔女は微笑む
カノンはレイアの剣をどかし、帽子を脱いで翠の魔女の挨拶をする。礼儀正しく、口調もレイアと対峙していた時は大違いに
「2年振りですね、翠様。まさか、再びこの地に来るとは思いませんでした」
「私はすぐに会えると思っていた。数年前、アヤメをここに迎え入れた時から、あなたがまだ帰還していない時から」
「…やはりそうなのか、再び生命波動の使い手が現れたことも、そしてこの時代に聖剣が担い手を選んだのも、偶然ではないということか」
意味深な言葉を言う翠の魔女に、その意味をおおよそ理解するカノン
「…置いてきぼりは気に入らないんだけど?」
翠の魔女とカノンだけ、何かを理解していることにレイアは不貞腐れる。仲間外れにされていることに
「そうね…お互いに状況は確認しましょう。今のレイアじゃ、説明どころか殺し合いになりそうだし」
レイアを大人しくさせ、翠の魔女はカノンを応接室に案内する
翠の魔女。紅の魔女と同じく、突然変異による長命種の魔女であり、ミルース村の教会と孤児院の管理者
魔女と呼ばれるだけあって、魔法にも精通しており、主に植物に関することを得意とする
そして、十二騎士の一人である生命のクラブこと、アイリス・クローズと深い関係を持つ数少ない人物
「そして、100年前のアイリスの魔法の師匠だった翠様がまた生命波動に関わるとは」
「運命かもね…ところで、その状態のあなたにお茶とか出しても意味があるかしら?」
レイアと翠の魔女の前にいるカノンは、式神による分身状態。この状態での飲食の提供に疑問を持つ翠の魔女であったが
「式神の動力に変換できるから、頂けるものなら、頂きたいものです。味覚も共有できるのでね」
「それはよかった。自慢したい茶葉があったからね」
紅茶を出し、翠の魔女とカノンはテーブルに対面で座る。レイアは不貞腐れながら部屋の壁にもたれかかるように立つ
「さて、どこから話したものか…ライブラ様も全部を話している訳じゃないって言っていたけど…」
「現状の敵を知りたい。聞いた話では、アヤメを狙っている組織…ゴルン教についてだ」
カノンとしては色々と聞きたいことは山ほどあるが、早急に必要である情報から切り込む
「ゴルン教はここ数十キロの大きな町、メルデの町を拠点としてる新興の宗教組織。ここの住人のほとんどがこのゴルン教の信者で、なんなら町の運営組織すらゴルン教が管理している状態」
「メルデの町に関しては知ってるが、そこまで支配しているのか…それで、そんな奴らがアヤメを狙っているというのは?」
「アヤメが生命波動に覚醒したのが2年前…この能力でどんな傷でも治せて、病もある程度の回復の手助けも出来る。村の人たちにこの能力を使っていたのは良かったけど、これがメルデの町まで広まったのが原因ね。噂を聞いたゴルン教の司祭がここに来て、アヤメをゴルン教に誘ったの」
カノンは2年前のワードに少し引っかかったが、話を続けさせた
「魔法省とかの魔法の研究機関が来るならまだわかるが、宗教組織が来るとはな…いや、あり得ない話でもないか?この奇跡の力こそ、自分たちの宗教に相応しいとか、そんな感じか?」
「大体あってるよカノン。アヤメ本人も断ったし、私にも説得できなかって言われたけど、当人が断っている以上、何も言えないで突っぱねた。それからか、司祭とかゴルン教の直接の関係者が関わることは無かったけど、その信者達がミルース村や孤児院、教会に嫌がらせをするようになった…最初こそは村の自警団や駐在している騎士で対応出来るけど、押収した物の中に誘拐で使われるような睡眠薬や拘束具とか出てきたものだから、危ないと判断して、ライブラ様に連絡を取ったの」
「…なるほどな、この辺で生命波動を知り得る人物となればライブラぐらいだもんな。事が事だけにカリバーン王国に正式に頼むの後々のリスクがある。それに、アイリスに関わりのある人物を奴が放っておく訳がない。奴にとっては、ユーゴと同じぐらいにアイリスを大切にしていたからな」
翠の魔女はアイリスの関係者だっただけあって、十二騎士達とも面識がある。その彼女がライブラに相談するのは事情が事情なだけに必然であった
「ライブラ様は自身の配下と共にミルース村に駐在。そのおかげで嫌がらせとか、そういう話はパッタリと止まった。私も全部は聞いていないけど、怪しい奴や、アヤメに危害を加えようとしたものを密かに始末していたらしい…まあ、これはやり過ぎだと思うけど、結果的にここしばらくは大人しかったのよ」
「…ウロボロスが再び活動するようなってから、事態は変わったか?」
10年前。カリバーン王国の急激に増えた犯罪と誘拐事件をキッカケに、セルゲイ・ローレル、破戒のレオことレオナルド、ライブラによって一時的にウロボロスは表舞台活動を出来なく程に組織的にダメージを受けたとされる
だが、数か月前にセルゲイ・ローレルが襲撃に遭い、ユキナとグランを誘拐事件を皮切りに妖魔の力のウロボロスカードの存在と怪人の出現…
「ここ数か月で活発化したというところか?」
「決定打になったのは、ライブラの配下が重傷者が出始めたことと、異形の姿の…怪人って言った方が言いかしら?それが目撃されたことから、ウロボロスの関係性をライブラは疑って、アヤメどころかミルース村全体の警備をライブラ達が行いつつ、ゴルン教の調査を行っていた…」
「…怪人クラスに対応出来るとしたら、ライブラか、奴の精鋭の魔族でも数を揃えれば何とかなるかもしれんが…最大戦力であるライブラが負傷したことで、マズイ状況になったって訳か」
「それどころじゃないのよ、カノン…ライブラの配下が殺されたのよ、アヤメの周辺を当人に分からないように警護していた配下数人…一人は殺されて発見さて、残りが行方不明という状況」
カノンとしては予想通りの展開ではあった。ライブラが今回の件を頼る時点で、彼の手に負えない状況。カノンとしても、ライブラの精鋭の配下には心当たりはあった。その数人がやられたというのは、穏やかな話ではないし、行方不明という点も引っかかっていた
「殺されたことがわかっているということは、遺体は?」
「その話なら私から話すわ。ジェミニア」
翠の魔女に代わって、レイアがこの話題に入りだす。待っていましたかのように
「写真もあるけど…魔法使いなら実物を見た方が話が早い。移動するわよ」
レイアの案内で、教会を出て、孤児院からも離れた物置。普段は使われていないであろう場所にだが
「人除けの結界か?効力自体はあまり強くないが」
「結界は簡易的にだけど、子供が近づけない程度で十分。見られててもいいけど…荒らされても面倒だからね」
レイアの言葉に、カノンは違和感を感じた
「子供に遺体を見せるのは良くないと思うが?」
「まあ、見ればわかる」
レイアは物置の鍵を開けて、扉を開く。物置の部屋の中、中心部に大量の石が置かれていた。何かを並べているかのように。その石は、まるで何かに砕かれて散らばったのを並べたかのような置き方
カノンは石の一つを見て気付く、それは顔であり、見知った顔であった
「…カルロ?ライブラの精鋭の配下の一人、カルロ…なのか?」
石の一つ一つをカノンは再確認する。それは魔族、カルロの胴体や四肢であり、途切れ途切れであったが、それが石…カルロが石像になり、それが砕かれたような状態であった
「まさか…石化の魔法でやられたのか?魔族であり、魔王ライブラの配下であるカルロがか?」
「そのまさか…石化系の魔法もだけど、魔族相手に毒や石化の類の魔法はそう簡単に通用する代物じゃない。ましてや高位の魔族になんて」
身体に異常をもたらす魔法や術は、強い魔力による力業で対抗する魔力耐性による手段と魔装具による防御手段で大概は防ぐことが出来る、もしくは軽減出来る
魔王ライブラや、精鋭の配下の高位の魔族相手にはそう簡単には通用するものでは無いことはカノンは知っている
ダメージを与えられて弱っている等の、条件があれば通用するケースはある…だが
「…カルロにこれといった外傷があるようには見えない…まさか一撃で石化させられたというのか?そして、石化されている間に粉々に破壊されて、殺された…魔法での手口であるなら…このケースは初めてだ」
古今東西の魔法を知るサイク家のカノンが驚く程の状態であった
「おじい様は、この手を使えるとすればウロボロスカードによる、妖魔の力で魔力をブーストさせる手段を用いれば不可能ではないって結論付けたわ」
「確かにな…人類が扱うには高度で高出力の魔法を連発出来るようになるみたいだしな。鉄の塊をぶっ放す奴とか、ライブラと同様に空間移動をする奴とか…刃のジェミニアと互角の機動力の怪人とかな」
カノンはこれまで戦った、証言から聞いた怪人達を思い出す。そのどちらも魔法と魔力を使うにしては常識外れの力であった。そして、十二騎士以外で真っ当に戦えるような相手ではない
「鉄塊、空間移動、超機動…そして今回は石化使いと来たか…」
「それも魔力耐性が強い魔族を一撃で石化させるほどの使い手よ、ジェミニア」
「…ここにカルロの死体があるということは、この付近…ミルース村にいるということか?この石化させた者が」
「…そもそもカルロと、その行方不明になった者達はアヤメを密かに護衛していた…だけど何者かに始末されて、カルロだけの石化の遺体だけミルース村の付近の森で発見された…まるで見せつけるかのように…」
「もしくは警告か…大人しくアヤメをゴルン教に引き渡せという…」
カノンはこのミルース村の状況をおおよそ把握する。ゴルン教がアヤメを狙っていること、ライブラの配下の魔族が石化で殺されたこと、相手が石化使いであること
「どのみち、ミルース村でアヤメを守るのと、カルロを殺した石化使いの排除。そしてメルデのゴルン教も相手をする…どうやら、こっちの作戦は正しかったか。ミルース村にユキナを連れてきたことは」
レイアは首をかしげる
「…ジェミニア、あなた達は確かユキナとグラン…そしてリーノ・サイクもいると聞いたけど?」
「リーノは万が一の為の聖王都に残している。聖王都にもウロボロスの連中が潜伏している可能性があるからな。まあ、リーノとオレは意識を共有しているから、今の状況を把握している。後方支援担当だ」
そもそもリーノは、グランに魔力神経の一部を移植している為に、どのみち前線に無理に出せない状況である
「ミルース村のアヤメの守りにユキナを任せる。レイア、お前はオレの情報を与える為だけにここにいる訳でもあるまい?協力してもらえるか?」
カノンの協力の申し出に、レイアは目を見開いて驚く
「…意外ね。こっちに協力を申し出るなんて」
「初対面でのあの反応と態度…どうせライブラの奴にキツイことでも言われたんだろ?これ以上関わるなとか、足手まといとかかな」
「…おおよそ、その通りよ」
レイアは図星だったのか、驚きつつも複雑な感情が沸く。悔しさと怒りなどの感情もあれば、嬉しいという気持ちも
「手札と戦力があることに越したことはない。魔法使いの質としては、オレよりお前の方が上だし、やる気があるなら可能な限り協力してもらいたい。不確定要素が多い分、ユキナも頼りにはなるが生粋な魔法使いという訳でもないからな」
ユキナは魔法学校の学生ではあり、魔法使いの免許自体はあるので、魔法に関しては一般人以上には精通はしているが、魔力を身体能力に上げることや、剣などの武器に魔力を込めることに特化している魔力剣士である
「なるほどね…私としても同胞をこんな目を遭わせた者達を決して許さない。必ず償わせてやる…さっきは悪かったわね、ジェミニア。当たり散らすような真似をして、あなたを剣を向けたことを」
レイアは深く頭を下げて、カノンに初対面時のことを謝る
「構わない…んで、ライブラの奴は何処にいる?おおよその検討はついてはいるが、念のためにな」
「おじい様は、メルデに潜伏している。戦えないとは言え、自ら調査は出来るって…」
「やはりな…考えることは一緒か。二手に分かれて、メルデのゴルン教を潰し、ミルース村に潜伏する敵も始末する…これは同時にやらないと意味が無い」
ニヤリとカノンは微笑みながら、自身の作戦とライブラの考えが一致していることを嬉しそうに
「…ジェミニア、今の私の前にいるあなたは式神とやらの分身って言っていたけど…本体はまさか」
「その通り。既にグランとユーゴ共に、メルデに潜伏した」




