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ゴルン教異変編 ミルース村

妖魔大戦時代、言語を話せる知的生命体、人間、魔族、エルフ族、獣人、亜人等の数多の種族が妖魔に大勢殺され、国とその文明ごと滅ぼされていたが、それ以外にも様々な生態系も破壊されてしまい、特に空を飛ぶような生態、鳥やドラゴンやワイバーンのような空を飛ぶ魔獣も、空戦能力を持つ妖魔の餌食にされてしまい、今やドラゴンやワイバーンのような魔獣は絶滅危惧種扱いとされてしまい、かつて存在した竜騎兵も、空戦能力を持つ魔装具、エアライダーに乗り、空挺騎兵という名称で呼ばれるようになった現代のオリュートス

馬のように騎乗できる動物、魔獣の個体数は激減してしまうが、そこは魔法、魔装具技術が発展した世界なだけあって、それに代替えするものとして魔動車を発明し、主に陸地の長距離移動の手段として用いられるようになっていた


「それにしても…敵の目を欺く為に、わざわざ貨物車両に乗るなんて…しかも荷台に」


薄暗い荷台の中、大量の荷物と共に揺られているユキナがカノンに苦言を申す


「用心に越したことはないだろって思ってな。百年祭の中止に伴って、お前たちの魔法学校もしばらく休校だから、離れていても不自然ではないだろうし…なにせ、ウロボロスという組織の大きさがよくわかっていないのもあるからな」


ユキナとカノンは、ミルース村を経由する長距離の貨物車両に乗り込みながら、目的地のミルース村に向かっていた。目に付く移動手段を避けたのは、敵であるウロボロスの目を避け、自分たちが聖王都に離れたこと、そしてミルース村に向かっていることを悟られないようにしているのだ


「組織の実態もわからないのもありますけど…アイツらの目的って何ですかね、カノン先生?」


実態もわからなけば、ウロボロスの目的が現時点で不明であった


「カリバーン王国に対してのテロ行為にしてはおかしい…普通なら何らかの要求があってもいいのに、百年祭の際は、かあ…ミーラ王妃にウロボロスカードを埋め込んだこと以外に、その後の要求は無いと聞いた…」

「テロリストなら、それを人質にして何らかの要求をするだろうな。最初に出会った、鉄塊の怪人は聖剣支持派の過激派だった…それ故に聖剣に選ばれたユキナを狙った…これは理由と動機はわかる。だけど、こいつらはウロボロスという組織そのものは知らなった…正確には言えば、別の名称の活動家集団として聖剣支持派と接触し、資金提供などの協力していたというのは生き残っていた聖剣支持派の連中の証言だった…」


聖剣支持派の大半は死亡し、壊滅している。ジェミニアと鉄塊の怪人が戦った際に屋敷の倒壊に巻き込まれたからだ

生き残った聖剣支持派の事情聴取にカノンも立ち会っていた為に、正確な情報を知っていた


「ウロボロスに関してわかっているのは、妖魔の力を利用する術を持ち、幹部と呼ばれる者がいる程度の組織である…マグスと呼ばれた悪趣味野郎、ドドーンと呼ばれていた人形使いらしき者、ハザマと呼ばれた次元魔法を使う者…そして」

「…ナナコ、彼女もウロボロスカードを用いて怪人に変身した…」


カノンが言う前に、ユキナが口を開く。対峙した時に怪人化したナナコのことを思い出しながら

怪人と呼ぶには見惚れように美しい存在を


「ナナコは、私を王様にする為に、倒すべき悪としてウロボロスに…だけど、グランが遭遇したマグスや、私が遭遇したハザマは、ナナコの思惑とは違う気がする…ハザマに関しては、楽しんでいた。人を傷つけることを、苦しむ姿を」

「そのサディストな趣味は、マグスも同様だったらしいな。グランがキレたらしいからな…相当な悪趣味な奴らしい…まあ、弱みにつけ込んで…いや、弱みを作らせて、国王の暗殺させようとしたのは、外道もいいところだがな…」


カノンは言い淀む。それは


「…そもそも妖魔の力を使えるなら、最初から聖王都の街中、国王の暗殺であれば最初から妖魔に広場で暴れさせればいい筈だ。わざわざ自作銃による暗殺なんて、回りくどい手口を使う理由がよくわからん。少なくともオレなら、カリバーン王国を転覆させるならこんな手口は使わない」


目的と動機、やっている行為に、カノンは一つの可能性に行き着く


「連中の目的は、そもそもテロ行為そのものが目的なんじゃないかな…主義とか主張なんてものはなく、ただ単純に他者を苦しめることに快楽、快感を感じて楽しんでいる、悪趣味の狂人集団かもな…」

「狂人集団…」


断片的な情報と、印象でのカノンの推測は、ユキナも納得せざる得ない程に狂った価値観の相手だったことを、狭間の怪人と戦いの時を思い出す。悲鳴を上げる巨人を、いくつもの死体で作り上げた巨人を自分で傷つけて、悲鳴を聞いて喜んでいた、到底ユキナには理解出来ない相手を


「むしろ、妖魔の力を使うような連中を狂人集団ってあってくれとは思うがな。そうじゃないと遠慮なく倒せん」

「カノン先生、悪い顔になってますよ。怖いです」


カノンは悪い笑顔は、ユキナは指摘する程であった


「…だとしたら、ナナコは一体いつからウロボロスと接点を持ったのか」

「グランや、お前から見てもそんな素振りがなかったのか?ナナコがウロボロスに繋がっていたということは、何かしらの連絡手段があってもおかしくないが」

「全然…なまじナナコはメイドとしては優秀過ぎたのもあるから…ほんの合間を見て連絡、ウロボロスと接点を持ったとしか…私たちが学校に行っている間とか?」


ユキナが頭を悩ませるほどに、ナナコが一体、どうやってウロボロスと繋がっていたのかが不明であった。不自然な動きをすれば、ユキナやグランだけじゃなく、グラス家の当主やそれ以外の者が気付く可能性はあった筈だが、それすらないのであった


「いずれ、ナナコから聞き出す機会があるかもな。ウロボロスの形跡を追う、奴らが妖魔の力を使う以上、十二騎士の敵だ」

「…ですね。今も、ウロボロスに狙われている人がいる…アヤメ…さんでしたっけ?」

「ああ、アヤメ・クローズ。生命波動を開花した者であり、ライブラが見守る形で守っていたみたいだが…奴がオレらを頼る事態になるとはな…余程の事態だと思ってる」


魔王ライブラ。かつてはカリバーン王国と敵対していた魔族の王の一人であり、妖魔大戦時代にてユーゴ・カリバーンと友好的な関係になり、妖魔に多大な被害を受けた魔族をまとめ上げて、人類と魔族と今日まで友好関係を築いた貢献者

魔王だけあって、惹きつけるカリスマ性を持ち、それを統率する力を持つ


「ライブラは高い魔力と相当な技量を要求する難易度の高い次元魔法の使い手の他にも、配下達を動かす統率力と指揮能力がライブラの強みであり、武器の一つだ。今回も精鋭クラスの配下を引き連れている筈なのだが…それにも関わらずにオレ達を頼るのは奴らしくない」

「でも、ライブラ様自身、全身穴だけになるようなダメージを受けたと聞いてますが?」


数日前の百年祭の際、ライブラは蜘蛛の怪人と対峙した際、上空に展開した雲から圧縮弾の雨をまともに受けていた


「確かに、いかに奴が魔王だとしても、あのダメージを数日で完治は無理だ。だけど、ライブラ自身が戦えずとも配下達もそこまで弱い訳じゃない。ライブラ自身が全力を出せない状況かつ、配下達では手に負えない事態だと思っている…まあ、とにかくライブラの奴と合流してからだな」


そこから数時間、荷台に揺れながら他愛の話や、ユキナが「どうせなら以前のように、講師のような話をしてよ」と言い出し、カノンの魔導書作成の旅の話をしながら、貨物車両はカノン達の目的の地につく


カリバーン王国首都、聖王都から数百キロ離れた辺境の小さな田舎の村。カリバーン王国領と砂漠の国と呼ばれる国境付近に位置する

目立った観光地も無ければ、十字教の教会や孤児院があったとしても、何処にもある施設。敷地の広さと土地柄故に、畑が多い程度。他の村と違う部分、少し変わった部分といえば


「…獣人や半獣人の方が…多くないですか?」


窮屈な貨物車両の荷台から降り、体を伸ばし、村の中を歩きながらすれ違う人の比率にユキナは気付く

会釈したり、挨拶したり、手を振ったりしてくる村人の種族の偏りに

聖王都も多種多様な魔族や獣人はいるが、ミルース村は偏っているようにユキナは見えたのだ


「妖魔大戦時代の話になるが、この辺りはかつては獣人族の町が近くにあったんだ。が、妖魔の襲撃によって町は壊滅、なんとか生き残った獣人達を迎え入れたのが当時のミルース村の村長。そしてミルース村まで妖魔の魔の手が来た際に、それを倒したのが生命波動に開花した後の生命のクラブこと、アイリスだ」

「そんなことが…それにしては…」

「当時のミルース村の住人よりも、生き延びた獣人達の数の方が多かったのもあるし、当時は妖魔の襲来で特に大人で若い男が駆り出されることなんてミルース村に限らず珍しくない、それで命を落とすことも。妖魔大戦時のミルース村は、女性と子供、年配の方が多かった。そこに獣人族と交流、共存する道を選び、人間と獣人と結ばれることも珍しくないからな。結果的に、獣人と人間との混血の半獣人が多くなった訳だ」


カノンの説明で、ようやくユキナは納得する

現在のオリュートスは、多種多様な種族が共存することは珍しくなく。ユキナの世代となれば人間種以外の異種族との交流は当たり前である程。その一方で一部反発があり、異種族を排除しようとする活動家やテロリストは未だにいるのもオリュートスの現実でもある


「この先だ、十字教の教会は。そこに待ち人がいると思うが」

「あれ?カノン先生って、この村に来た事…いや、妖魔大戦時代に来たのかな?」


やたらミルース村の事情と迷わずに目的地に向かっていくカノンに、ユキナは一瞬疑問に思ったが、よくよく考えたらカノンは100年前の人間であることを思い出す


「いや?ミルース村の来たのは2年前だ。妖魔大戦時代に来ることは無かったな」

「2年前…それって、カノン先生がこの時代に来た頃?」

「ああ、異次元空間で帰還した後にな。オレがゴート、クラブ、スコーピオンの魔装鎧を持って帰ってきたのは話したよな。オレはそれぞれの魔装鎧を、相応しい所に返した。ゴートはカリバーン王家、スコーピオンは紅様。そして、生命のクラブは故郷のミルース村の十字教の教会にな」


カノンとユキナは会話しながら、村の中心部から離れた教会への道を歩いていく。道の端で木々が生い茂る道

カノンは何かに気付き、足止め、ユキナも足を止めさせる


「カノン先生?どうしたんですか?」

「ユキナ、上から来るぞ。受け止めてやれ」


カノンが頭上の大きな木に指を刺す、ユキナもそれを注視すると、木の太い枝が揺れ、葉が落ちて


「きゃぁぁぁぁぁ!!!」

「え!?ちょっと!!?」


修道服を着た、シスターも落ちてきた

カノンの警告を聞いていたことと、反応も常人以上のユキナはシスターをお姫様抱っこをする形で受け止める


「よっと!!…大丈夫かしら?」

「え?…ええ、助かりました…」


シスターの腕の中には、小さい黒猫がいた。カノンはおおよその状況を察する


「…そのチビ黒猫が木登りしたのはいいけど、降りれなくなったから、登って救出しようとしたのかい。随分と勇ましいシスターさんのことだ」

「あははは…わかります?」


シスターが顔を上げた時、カノンとユキナは驚く。それは、カノンとユキナの目的の人物であったから


「ア、アヤメ・クローズ!?」


ユキナはその名を思わず喋ってしまう


「あれ?私のことをご存知なんですか?」

「え?…えーと、いやぁ…」


アヤメの問いに、ユキナは返答に困り、カノンに目線を送る。カノンは「やれやれ」という顔で


「ここ最近、このミルース村の来た知り合いから君にことを聞いていたからね。まさか上から降って来るとは思わなかったが」

「あ、もしかしてあの人のことかな…って、あれ?魔法使いさん、2年振りですね?」

「な…覚えていたのか」

「そりゃ…そんな特徴的な帽子を被った方、そうそういませんよ」


アヤメは微笑みながら、カノンの帽子を見る。今どきの魔法使いですら被らない帽子は、2年前にミルース村に訪れたカノンのことを忘れられることはなかったのだ

運命か必然か、引き寄せられたのか。聖剣の担い手たる勇者、100年前の帰還者、そして現代に蘇った生命波動の使い手が早々に出会うことになったのだ





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