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ゴルン教異変編 出発前夜その2

「…静かになった、どうやら決着がついたようだな」


外でユキナとユーゴが激しい模擬戦は、防音を施している隠れ家でも騒音に近い形で聞こえていたのであった。机に向かって魔装具を整備していたグランは、「やっと終わったか」という心の声を上げていた


「まあ、最終的に叔父上が出張ったわね。今はボコボコにユーゴ様をしばいているようね」


リーノは魔力の反応から外の様子をほぼ把握しきっていた。グランの部屋のベットでくつろぎながら


「…割とカノン先生ってユーゴ様に対して、容赦が無いというか…オレやユキナと接している時よりも何と言うか…」

「子供っぽいかしら。初めて会った時から叔父上とユーゴ様の関係はあんな感じだったらしい。前線で暴れて戦うユーゴ様を、叔父上が実力行使で黙らせるなんて日常茶飯事だったらしいし、無茶な作戦立案してきたら、先ずは殴り倒して黙らせてから説教とか」

「…道理でカノン先生がユキナの扱いに慣れていると思ったら、そういうことか。ユキナとユーゴ様はよくも悪くも似ている」


グランが初日から今日まで見てきたカノンが、短い期間でユキナに対しての扱い方、接し方が慣れていたことに納得した、してしまったのだ。一度ユーゴ共に文字通りに、一心同体で戦ったグランだからこそわかってしまった


「ところで、なんでオレの部屋でくつろいんでいるんだ?」

「あら?私がここにいては不服かしら?」


リーノの服装は東の大陸のチェイナの服。それはグラン、というより異性からしてみても目のやり場に困る、妖艶で意識してしまうところに肌が出ている、魅力的なものであった

実のところ、目のやり場に困りすぎて魔装銃のメンテナンスに集中できていないグランであった

その視線にリーノが気付かない訳が無く、意地悪い笑顔になり


「ふふ…私の体に見惚れるわよね。ユキナほど大きくは無いけど…あなたを意識させるほどの自信はあるわ」


リーノはグランに見せつけるようにポーズをとる。意地悪く、楽しそうに。グランも視線を逸らそうになかなか出来ずにいた。本当に美しいと感じてはいたからだ。それは魔法使いとしての本質故


「しかし…ホムンクルスか…話は聞いたことはあったが」

「実物を見るのは初めてかしら?カリバーン王国、それに首都である聖王都ならホムンクルスなんていないだろうし、魔法技術系統としては東の大陸の得意分野だからね」

「確か、妖魔大戦時代に壊滅的な被害をもたらした東の大陸は、人口不足を通常の生殖活動では間に合わない、東の大陸の人類の種を保てないと判断した結果、使われた技術の一つ…ということは習ったことはあるが」


ホムンクルスの技術自体は妖魔大戦より昔からあった技術、既存技術ではあった


「悪く感じるかもしれないし、今の価値観と倫理観的に受け付けられない事を言えば、労働力の確保、兵員の確保という実態もあった。それこそ使い捨て当然でホムンクルスを作っていた…それだけ当時の東の大陸が追い詰められていたって所ね。短命かつ、成人させた状態であれば、低コストで量産出来たからね」

「…たしか、現時点においてはホムンクルス自体の作成自体は研究目的であれば、一定の条件を満たせば合法ではある…だったか?」

「へぇ?よく知っているわね。あなたの専門外の分野だと思ったけど?いいわね、魔法使い同士、こういう話をするのは私は好きよ」


グランの想定外の博識に、リーノは喜んでいた

現在のオリュートスの魔法の分野は、非常に多く、そして細分化している

全ての魔法の分野に精通している魔法使いというのは、サイク家の様なごくごく少数であり、得意な分野を極める、研究する魔法使いが大半である

グランの専門は戦闘魔法と魔装具開発であり、ホムンクルスを扱う魔法分野ではない

それでも知っていたグランに、リーノは感心、そして喜んでいたのだ


「近い世代の魔法使いと接する機会なんて、私の立場的に無いからね。それに分野外の魔法を聞いてくるなんてね」

「サイク家の当主で、サイクの魔法図書館の管理者…その正体がホムンクルス…意識の中に魔導書の図書館をあったり、他者を意識の中に呼び出したり…オレが知り得る限りそれだけでも、すごいことだが」


グランは言い辛そうにしていたのを、リーノはハッキリと


「私はハイスペックの魔法使いとして作られたホムンクルス。元々ホムンクルス研究の一環として、そしてサイク家の魔導書保管技術の一つとして作られた。記憶と意識の中にサイク家が保管する魔導書を記録する存在、そして自衛する為の魔法行使出来るだけの身体能力を可能な限り引き上げ、戦闘技術を叩き込ませた…単純なスペックだけなら、私は叔父上に負けない」

「カノン先生より…リーノ、実際に戦ったらどっちが勝つんだ?」


グランの質問に、リーノは感心する。真っ先にその質問をして来ることに


「その質問を先には言うってことは、サイク家が私を作り出した目的、本質に気付いたようね。まあ、ヒントがあからさまだったかしら」

「サイク家の魔導書の保管というのは…建前という訳ではないだろうけど…魔法知識とそれを行使する身体能力、戦闘技術を持たせたのは、カノン・サイクに対抗する為。100年前の英雄を危険視していたんじゃないかな?」

「…ご明察。私が作り出せれた目的、カノン・サイクがこのオリュートスの脅威となる存在なった場合の対抗手段、叔父上を殺すために私は作り出せれた側面もある。まあ、実際に叔父上と殺し合いしたら、どちらかが死ぬ。スペックじゃ負ける気がしないけど、叔父上の実戦経験には敵わない」


自身の本来の目的、使命をリーノは真面目な顔で語るが


「まあ、私を含めてサイク家の人間は叔父上が大好きだし、叔父上もそんな気は無いからね。みんな叔父上の英雄譚を聞かされて育ったからね。前にも言ったけど、叔父上をこの世界にひとりぼっちさせないのは、私の先々代からのサイク家の当主の使命。そして叔父上が戦うというのであれば、私達は叔父上と共に戦うのもまた使命…叔父上の隣に戦えるなら、これ以上の栄光な事は無い…まあ、叔父上からしたら不本意かもしれないけどね」


嬉しそうに、嬉々としてリーノは喋る。ホントに心の底からカノン・サイクという人間が好きなんだというのをグランは改めて認識させられていく。そして、グランはリーノと自分の共通点に気付く


「オレとユキナと似た関係性…」

「そう、あなた達と同じ。ユキナが道を踏み外せば、グランが止める。グランが道を間違えればユキナが止める…ユーゴ様に啖呵を切った時に言っていたわね。お互いに理解しているからこそ、お互いに尊敬しているからこそ、成り立っている関係…ホント、巡り合わせというべきかしらね?似たもの同士だからこそ、私とグランは出会ったかもね?」


リーノはグランに顔を近づけ


「運命の赤い糸のようにね?」


自身とグランの小指を繋げながら、グランの耳元にリーノは囁く

グランは赤面しながらも


「…リーノはカノン先生が好きなんじゃ?」

「確かに異性としても叔父上は好きよ?何かしら、妬いたかしら?」


ストレートにグランに好意を言葉と行動に表すリーノに、困惑、振り回されが、グランは優しく、リーノを離して距離を取る


「…ホムンクルスの技術って、意図的に作れるものなのか?生まれながら性能の高い人間を作ることなんて」


赤面しつつも、話の本題の戻すグラン

リーノも意地悪が過ぎたと思ったのと、話題が得意なジャンルだっただけにグランの質問に素直に答える


「あくまでもが頭につくけど、理論上は可能…って所かしら。グラン、今の魔法による医療技術はどこまで把握しているかしら?大規模な病院なら、ホムンクルスの技術が応用されているというのは知っているかしら?」


リーノの問いに、グランは少し考えて、思い出しながら


「…確か四肢欠損…腕とか脚を欠損しても、当人の遺伝子…だったか?それさえあれば再生させることも出来る…確か臓器も可能とは聞いたことがあるが」


オリュートスにおける医療技術は、四肢や臓器の再生レベルなら可能であるが。相応な施設と技術を要求される為に治療を受けた者は稀であり、一般的にはそこまで知られている訳でもない


「私達の体…生命体って言った所かしら?それらには体の設計図の遺伝子というのがある。まあそこを意図的、手を加えたり、優秀な遺伝子同士を組み合わせることで、優秀、優れた能力を持つ者を生み出す…ホムンクルスの研究の一つとして長年、研究と実施を繰り返していた。ただ、まだまだ生命体の体にはわからないことや、不確定要素が多いから、確実に想定された優れた能力を持つ者が生まれるとは限らないし、場合によっては死産することも多い…ホムンクルスの制作技術を応用した治療で、四肢ならまだ再生できるけど、臓器に関してはまだ一部、脳とか心臓とかは難しい…まだまだ発展途上な技術なのよ」


リーノは前提を前もって話す、ホムンクルスの分野疎いであろうグランの為に


「現在においては、疫病を受け付けない体とか、身体能力少し高いとかのホムンクルスを作り出すのは容易。というより妖魔大戦時代の時点で確立した技術だし、その技術は医療行為に貢献してる。東の大陸の労働力不足解消、農作物を耕す人材確保でやむ得ずやったことね…まあ、それ以外に妖魔と戦う為の兵士の確保としてホムンクルスを作り出された事実はある…まあ、この話はあんまり関係無いか」


現在のオリュートスにおいての軍備拡張、兵士としてホムンクルスを作るのは禁じられている


「だけど、極端に性能の高いホムンクルスを作り出そうとすれば、どういう訳かこれが上手く行かない。異様な姿になったり、死産するなんてざら…作り出されたとしても、短命だったり、五感がダメになるケースもある。短命前提であれば、上手くいく可能性は上がるけど…どうせなら両方とも解決したということのも研究者として、魔法使いとしてサガというべきかしらねぇ…そんな訳で長年研究が続けられている。最強のホムンクルスを作れるかという研究がね…それに協力しているのがサイク家。その対価として、さっき話した魔導書の保管と、カノン・サイクと互角に戦える者が欲しいということで、私が作り出されて、サイク家として育てられ、サイク家の当主までになった」

「数多の失敗…いや、試行錯誤で誕生したのがリーノなのか…その話だと、サイク家が主導という訳じゃないのか?」

「ホムンクルス研究は、カミヅナ家。元は東の大陸のジパン出身。妖魔大戦時代以前からこのカミヅナ家と良好な関係のサイク家は、縁が深いのよ。お互いの研究に協力するとかよくある」


グランが聞いているサイク家は、魔法使いの家系としてもあるが、領主としての役割もあり、さらに魔導書の制作と提供、また他国の情勢も調査と情報提供で相応に収入があるということはカノンから聞いていた


「資金提供的にも、魔法技術的にもサイク家はありがたい存在だったって所か」

「まあ、そんなところね。幸いご先祖様達と領民達のおかげでね。そしてカミヅナ家の当時の技術の集大成として作り上げられたホムンクルス。十二騎士の一人、閃光のバルゴ」

「閃光のバルゴ!?ホムンクルスだったのか!?」


十二騎士の一人、閃光のバルゴ。ジパンの独自の剣術で妖魔を斬り伏せてきたとされる


「ジパン出身であるという噂は聞いていたが…」

「ホムンクルスというのは衝撃の事実かしら?でも、納得できる話でもあるじゃないかしらね。まあ、今のバルゴは2年前の帰還時に利き腕を欠損する重傷を負うが、帰還している。今は利き腕を再生治療中で、故郷で療養中…本当は彼女もいれば、頼りになるんだけどね」


リーノは残念そうな表情をする。リーノからしても頼りになる人物であることがグランにも伝わる


「そのバルゴのデータを元に、サイク家の人間の遺伝子情報をベースに、叔父上の遺伝子情報を加えて、さらに遺伝子を操作して作られたのがリーノ・サイク。サイク家で唯一、叔父上と遺伝子で繋がっているのが私なのよ」


リーノは誇らしげに、自身にカノンの遺伝子が入っていることを自慢するように、ドヤ顔で強調していた

しかし、グランには少し疑問が出来た。ドヤ顔で自慢しているリーノに申し訳ないと思いつつも、口を開く


「…これを聞くのは少し気が引けるんだが…カノン先生って、魔法使いとしては完全に後天的な努力家だけど、魔力出力、魔力量自体は一般的なレベルより少し上程度…もっと遺伝子に優れた者がいたのでは?」

「確かに、それがホムンクルスの制作の面白い所と言うか…生命の神秘、バランスというべきかしらね?掛け算同士だけじゃ、上手く行かないケースが多い。例えば近い血縁同士で生まれた子供は、体が弱く生まれる確率が高いのと同じように、ホムンクルスの制作も、何処かでバランスを取らなけばならなかった。ある意味で、叔父上の遺伝子はバランスを調整してくれた…偶然の発見らしいけどね」

「偶然?」

「そう、偶然だった。先代と先々代のサイク家の当主の頼みで、叔父上の遺伝子情報を私に加えた。これと言った理屈や理由じゃない。純粋な願いだった、叔父上をこの世界から忘れさせない、ひとりぼっちにさせない為に…繋ぎ留めたい」

「サイク家の悲願…そう言ったな」


グランは以前にリーノから聞いた話を思い出す。元々カノンはこの時代の人間ではない。100年前の妖魔大戦の時代から来た、辿り着いた存在

もし、サイク家が滅んでいた場合、カノンの居場所は無かったかもしれないのだ。ひとりぼっちにさせないのは、当時のカノンを知っているサイク家の願いであり、妖魔大戦を終結に貢献した英雄、カノンに対する敬意なのだと、グランは感じた

リーノにカノン遺伝子を組み込んだのは、その悲願の一つだと


「…バルゴの遺伝子と、カノン先生の遺伝子…それ以外にもサイク家の遺伝子もある…」

「閃光のバルゴと私は、ある意味では姉妹関係、叔父上とはサイク家で唯一身体的な情報をの繋がりを持つ…私の作られた目的として、叔父上のカウンター…だけど、真に望んだのは叔父上と共に歩める、繋がりを持つ存在…叔父上の本当の養父…私にとっては曾曾祖父当たる方の望み…養子にするほどに、叔父上を愛してはいたからこそ、カノン・サイクをひとりぼっちにさせない」


グランの知り得る限りで、長い歴史を持つ魔法使いの家系の中でも、サイク家はかなり珍しい部類であった

長い歴史の家系ということであぐらをかいて、傲慢な者もいれば、長い歴史の家系として使命として、魔法に貢献する人格者もいるにはいる

しかし、サイク家は代々からの使命を現在まで繋いできた。ただ一人の、魔法使いの為に


「まあ、今回のミールス村に同行出来なくて、この私のご自慢の性能をお見せ出来ないのが残念かしらね。万全の性能を発揮できないからねぇ」

「?…それはどうして?」

「そりゃ…私の魔力神経の一部をグラン、アナタに移植したからよ?」

「…はい!?」


リーノの発言に、グランは慌てて魔力を自身の魔力神経に巡らせる。そして自身の状態に変化が起きていることに気付く


「…ホントだ…いつものオレとは違う、何と言うか…いつも以上に調子が良すぎる?」

「アナタの魔力神経を修復の際に、少し弄り回すのと、私の魔力神経の一部を移植。調子が良いのはそれが要因だけど」

「なんでまたリスクのある魔力神経の移植を?そこまで重傷ではないと思ったが?」


魔力神経の移植技術自体は確立しているものの、リスクも存在する。合わない魔力神経を体に取り入れると、体調を崩してしまい、魔力出力に弊害が起きる可能性もある

ただ、それは合わない魔力神経の話であり


「移植した理由は二つ。修復に手っ取り速かったということ、幸い私とグランの魔力神経の相性が良かったからやった。もう一つは、慣れない魔法行使でも魔力神経を焼き切れさせない為の処置。たぶん、グランはユーゴ様と共にゴートの魔装鎧を纏う可能性が高い。その際に聖剣をある程度扱える、耐えられるようにね」

「魔力神経の耐久性を上げる為にか…確かにその規格外の魔法を行使しているリーノの魔力神経なら…だから今回は同行しない訳か!リーノは今、魔力神経の一部を切り取ってる状態だからか!…なんつー無茶を…」

「まあ、一週間もすれば治るけどね。私は後方支援の方が向いていると思ったし、それならグランを復帰を急がした方がいい…叔父上も私も、アナタの力を信頼しているからね」


リーノは微笑みながら答える。リーノの言い方から、これはカノンも同意のことであるのはグランも察する

魔力神経は、破損や移植の為に切り取っても、個人差はあるものの基本的には自然的に治癒する。だが、自身の身を、文字通りに神経を削るようなことをそうそうやっていい行為ではない。グランにとっては、気にられている、好意を持たれていることはわかっていても、リーノの行為、行動に驚かされていた


「困惑するのはわかるけど、今後の為でもあるし、私達はまだウロボロスという存在なのかをわかっていない。敵の事がわからない以上、こちらで打てる手を出し惜しみ無し打つしかない」


困惑しているグランに、リーノは釘を刺すように言う


「それに…困っている人、危険な目に遭わされそうな女の子は助けてあげないと。今回の目的はそれなんだから…そのついでに私とグランの繋がりを作って、外堀を埋めないと…ね?」

「最後に本音がこぼれてるぞ?リーノ?」

「あら?うっかり」


ニヤリと微笑むリーノの表情を、グランは魅力的に感じていた。意識してしまう、意識せざる得ないのだ

ここまでドストレートに好意を伝えてくる異性は、リーノが初めてあり、ユキナ曰く、異性の好意に鈍感だけど、免疫のないグランには効果テキメンであった

グランとリーノが会話が一区切りついたタイミングで、グランの部屋の窓が叩かれる音がした


「盛り上がっている所悪いな、二人とも」


寝間着姿のカノンが、隠れ家の2階にあるグランの部屋の窓枠に掴まりながら、窓を開けてきたのだ


「あら、叔父上」「カノン先生…どうしたんですか?わざわざこんな…ここ2階ですよ?」

「わざわざ家に入るより、手っ取り早かったんだよグラン。それより二人とも、少し手を貸して貰えるか?あのバカを好き勝手にさせると、碌なことにならん」

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