表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/23

昭和の風情 2022年12月16日

 この小説は、作者が「星空文庫」で執筆している『宗教上の理由』シリーズの世界設定を使ったスピンオフです。読みたい方は、星空文庫にて作品名または作者名「儀間ユミヒロ」で検索をお願いします。

 もちろん、この小説単体でも話がわかるようにしておりますので、安心してお読み下さい。

 山奥にあるという設定の、架空の小さな村、このはな村。この村にあるコミュニティFMを舞台に、DJのおしゃべりを文字でお送りする、ちょっと変わった形の小説です。

 架空のラジオ番組の文字起こしという体裁のため、文法や文中記号の使い方が本来のルールとあえて異なった形になっている点をご了承願います。原則として地の文はメインパーソナリティのおしゃべり、カギカッコ内は他の登場人物のおしゃべりです。

また、この小説は言うまでもなくフィクションです。

 おはようございます。このはな村インフォメーションです。この番組では、このはな村に関するさまざまな情報をお送りしております。

 このはなFMでは、村外からこのはな村へお越しになる方への情報発信も兼ねて、この放送のネット配信を行っております。


 今日は、村内で店舗等の開業をお考えの方への貸店舗情報をお送りします。

 このはな村では、商工会および各商店会と村観光協会が協力し、景観の保護に努めております。主な対象となるのは欧風の木造建築が多く残る中央広場、昭和の香りを残す仲見世、幹線道路沿いに点在する明治から昭和まで各時代の(おもむき)を残す店舗群などです。

 これらの店舗は歴史的価値も高く、登録有形文化財となっている建物もあります。しかし後継者の不在による廃業や店舗の移転などで空き店舗が増えてきているため、空き店舗を活用して産業の発展をさせつつ景観の維持を図る動きが活発となっております。

 二〇二三年三月時点での廃業や撤退が決まっている店舗は、商工会で把握している限り五店舗ですが、この数字は今後も増えると予想されます。一方、このはな村で新規事業を始めたい方もいらっしゃいますので、建物のオーナーと事業開始希望者をつなぎ、景観や環境を保ちながらの経営をサポートする仕組みが作られました。


 このシステムの運用方法を、今回対象となる店舗が集まるこのはな仲見世商店会を例に取って説明いたします。

 このはな仲見世商店会は村が別荘地として整備されたのち、夏になると中央広場から伸びる路地に露店が集まったのが始まりだと言われています。常設の店舗がつくられた時期ははっきり分かっていませんが、敗戦後、都会の闇市に似た形態の店舗が集まって、屋台やバラック小屋を経てトタン屋根の長屋式店舗が一九五〇年前後に出来上がったようです。

 この時代の名残りとして、アーケードに似た雨や雪をよける「雁木(がんぎ)、雪の重みに耐えるために骨組みをしっかり作った代わりにそれ以外は質素なつくりの店舗、全店舗統一の白地に筆で書かれた店名の大型横看板と、それぞれの取り扱う商品をかたどった木製・ブリキ製・陶製などの小さな張り出し看板、現在は作られない柄物のガラス、昭和中期から後期に各メーカーが宣材として配布した看板やプレート・マスコットの置き物など、レトロな物に溢れています。

 仲見世通りから横道にそれると、さらに小規模な飲食店が軒を連ねる「しらかば横丁」があり、村民の社交場となっています。


 このように昔ながらの風情を残す商店会は全国各地にまだ残っていますが、店子(たなこ)は少しずつ入れ替わっています。これは店主の高齢化と後継者の不在によって空き店舗になったところに、建物や設備の老朽化を逆手にとって安い店賃(たなちん)で借りられることに目を付けた新規事業者が多くやってきたことによります。

 しかし、これら新規事業者は自前で建物をリフォームし、現代風の外観にしてしまうことが多くあります。これによって元々あった昭和中期を思い起こさせる景観のバランスが崩れてしまい、古くから商店街に通うお客様が離れがちになり、また周囲の風景から浮いた新しい外観の店舗は客付きが悪く、撤退してしまうケースも見られます。


 このはな村でもここ数年そのような新規の店舗が現れているため、建物や土地のオーナーも参加しているこのはな村商工会では、新たな借主に対しいくつかの条件をクリアすることで店賃や共益費などを一定期間割り引くなどの優遇措置をとることとしました。

 具体的には、仲見世通りの各店舗では外観の変更は原則禁止です。さらに元からある手書きの大看板を見えたままにするならば、共益費は初年度免除、二年目以降も半額となります。共益費は店舗によって異なりますが、おおよそ月一万円程度となっております。その代わりに村内で出た間伐材などを使った小看板を作成する場合は無料、それ以外の材料でも安価で作成が可能です。

 内装につきましては、必要最小限の改造にとどめるようお願いしております。ほぼ改造無しである場合、敷金半額・礼金無料となります。

 店内に残された備品についてはご自由に使用可能です。レトロな物が多くありますので、ショーウィンドウ等に展示しも見映えがします。そして、これらを実際に使用する場合、修理やメンテナンス費用は原則商店会で負担します。例えば現在空き店舗となっているうちの一物件には昭和二十年代製造のレジスターがあり、今も現役で使用可能です。こちらは元はパン販売店で、商品の陳列棚等もそのまま使用できます。

 このような形で、店舗をできる限り元のまま使う事で初期費用や維持費用の割り引きや補助が受けられますので、是非ご利用ください。


 このはな村インフォメーション、担当は池田でした。






 国内・国外資本を問わず、大型スーパーやショッピングモール、量販店に蹂躙されたかに見える日本の街並みですが、どっこい日本各地にはまだまだ昔ながらの商店街や横丁も残っています。

 ところがそれらの店主も高齢化が進んだせいか、それかはたまた気づいてしまったのでしょうね。自分で商売するより、商売をしたい人に店を貸した方が楽して安定したお金が入るということに。


 いくら売り上げが下がっても、子どもが勤め人になって、そっちの方が安定収入を得られていても、「年金プラスアルファの儲けだけでいいからこの看板を守るのだ」という気概だけで頑張ってきたご主人方も、長年続く経済の停滞、そしてこのウィルス禍と賃上げ無き値上げラッシュでとうとう心が折れたのかもしれません。

 それも一概に責められないことです。人間、加齢には逆らえませんし、そこにパンデミックやらインフレによる不景気やらが相次いで襲ってきたとあっては、無理もありません。


 で、そんな空き店舗に店子として入る人たち、うちの近所の商店街だと、若い人が多くて、本文中にも記した戦後の闇市系のこの街に不釣り合いなくらいキラキラしているんです。

 綺麗です、見た目綺麗です。けど、周囲の景観とのギャップが大きすぎます。特に出店が目立つのは立ち飲みショットバーの類なのですが、それぞれの店がそれぞれのセンスでリフォームをするものだから調和が取れていないし、そのくせ提供する商品は酒ばかりなのですから、これいずれ共倒れじゃないの? と思うこともしきりです。

 再開発から取り残された横丁が、若き経営者のスタート地点として選ばれることは多いようで、新宿の思い出横町などもここ数年で入ってきた店主が切り盛りする酒場街と化しています。

 けど一昔前、いやふた昔前はこうじゃなくて、焼き鳥屋やそば屋がポツリポツリとある一方で、定食屋がかなりの数を占めていたんです。サバの味噌煮にご飯と味噌汁お新香が付いて五百円くらい。酒が欲しい人は肴だけ頼んで瓶ビールか冷や酒(もちろん常温のこと)もしくは熱燗、みたいなところが多かったんです。

 あれが懐古「趣味」では無い、ホンモノの昭和なんです。一見手書きの看板やのれん、いかにも昭和風に見せかけるための映画などのポスター、なんてお店はすぐ化けの皮が剥がれてしまいます。

 

 海外からの観光客が戻って来ているようですが、地球規模で見れば日本はアジアの中の一国。われわれ日本人は台湾や東南アジアといった国々の屋台に異国情緒を求めて出かけるのでしょうが、同じものを日本に求めてやってくる海外の観光客も少なくないはず。

 そう考えれば、今ある日本の昭和(という年代のくくりも日本ならではですね)の街の風景はなるべく残すほうが良いのだと思います。そして看板は店の顔。下の店主が代わっても昔からの看板がちょこっと顔を出してるなんてこともあるんで、そんな風情が残ってこそのジャパニーズヨコチョーだと思いますし、文化的価値はあるんじゃないかって思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ