二六話 エストリア王国の四番
「さて、メルキド帝国のエースってのはどんなもんなんだろうな」
そう言って大地は投球練習をしているロザリーを観察する。
「見た感じそんな厄介なピッチャーって感じじゃないだけどな」
球速はアンダースローにしては速い一三〇キロ。変化球はシンカーとカーブの二種類。コントロールもそれなりにいい。
アンダースローは厄介だが過去二試合のスコアブックを見た大地は、なぜ目の前のピッチャー相手にエストリア王国がまともにヒットが打てなかったのか疑問に思う。一試合ならともかく二試合連続はさすがに異常だ。
「やっぱ魔球なんだろうな」
という答えを出して大地は打席に立つ。
大地が打席に立つとメルキド帝国のエースロザリーは目を吊り上げて明らかに警戒していた。
「?」
ロザリーの態度に違和感を覚える大地。
メルキド帝国は大地のことを知らないはずだ。そんなメルキド帝国からしてみれば大地は素人の中で四番を張る男程度にしか思われていないはずだ。
もちろん四番ということを気にして警戒するのもわかるがロザリーの態度は確実に大地が強打者だと知っているかのようだった。
「もしかして俺が男で四番だから警戒してるのか?」
この世界では男性よりも女性の方が選手として活躍していることが多い。その証拠にエストリア王国もメルキド帝国も男の選手は一人だけであとは女の選手だ。
そんな中、男で四番なのだから多少警戒するのも仕方ないかと大地は考える。
「でもそうなると、向こうのチームの四番の変態紳士ってやつは何者なんだ? 前の試合にはいなかったみたいだし……」
大地はチラリとショートを守っていたお面を被った変態紳士を見る。
すると変態紳士が大地に手を振ってきた。
「なんなんだあいつは……」
お面を被っていて表情が読めない変態紳士の意図が読めずやや困惑する大地。
「まあそれよりもエースをどうやって攻略するかだな」
と言って大地は気持ちを切り替えて打席に集中する。
そしてロザリーが大きく振りかぶって一球目を投げる。
地面すれすれから放られたボールは甘めに入って真ん中高めのアウトコース……かと思いきやベースの手前でググッとと曲がって打者から逃げるように変化した。
――カーブ!
そのまま甘いコースなら打ってやろうとした大地はバットを止めてそれを見送った。
判定はボール。
「ベースの手前で変化するカーブか。並みの打者なら振りにいって打たされるか空振りだな。素人にはちょっと厳しいかもな」
そう判断して大地は相手ピッチャーを見やる。
ロザリーの目には油断や慢心は一切ない。
素人相手だと油断や慢心があったのなら切り崩す手があったが、現状ではそれは無理そうだと判断する大地。
――だからといってこのぐらいの投手なら打てないってわけでもないけど、今は様子見に徹するか。
続けて投げられる二球目、三球目、四球目を大地はバットを振ることなく見送って球筋を見極める。
カウントはツーツー。
――やっぱ球種は事前の情報通りシンカーとカーブみたいだな。
大地はこれまでの投球からそう分析する。
そして五球目。
ボールはインコース低めに入るシンカー。
大地はそれを振りに行く。
「……っ!?」
カンッ!
金属バットと硬球が当たる音が球場に響き渡る。
打球は鋭い打球となってサードの正面へと転がる。
サードの正面でなかったら確実に抜けるほどの強烈なゴロだったが、転がった場所が悪くサードに捕られてファーストへと投げられて大地はアウトになってしまった。
アウトになった大地は気難しそうな顔をしてベンチに戻るとシャルが声をかける。
「惜しかったな。サードの正面じゃなかったらヒットだったのに」
「いや、惜しくなんかない。俺はあいつの魔球にやられたんだからな」
「なにっ? 魔球だと?」
魔球と聞いてシャルの目が鋭くなる。
「彼女は魔球を投げていたのか?」
「ああ。魔球の正体はわからないが俺が打ち取られた球は二回変化した」
「二回変化したとは?」
「一回目は普通に変化球のシンカーで二回目がバットが当たる直前で微妙に変化したんだ。そのせいでバットの芯からずれてゴロになったってわけだ。おそらく今までの試合でまともに打たれてないのもその魔球のせいだろう。空振りじゃなくて芯を外す程度の微妙な変化だったから気付かなかったのかもな」
「二回変化する魔球か……。どういう原理かはわからないが厄介な魔球だな。何か対策はあるのか?」
「今のところはないな」
「そうか」
大地とシャルが魔球についての対策を考えてるうちに五番のソフィアと六番のニーナがアウトになってエストリア王国の攻撃が終了した。
次はいよいよメルキド帝国の四番、変態紳士の打席だ。




