二三話 執務室でのお茶会
明日は予定があって更新がでないと思います。
「骨まで愛して!」の方はすでに完成した作品なので予約投稿しときます。
この遅れはどこかで取り戻さなくては…
「よお、ジル」
と言って八雲はメルキド帝国にある皇帝の執務室のドアを蹴破って入ってきた。
その八雲の後ろで警備隊の隊員が侵入者を許してしまって慌ててジルに跪いて謝罪している。
ジルは警備隊の面々に気にするなと言って下がらせる。
八雲が執務室に侵入してくるのはこれが初めてではない。週に何度もあることだった。
だからといって皇帝の警備が緩いかというと違う。八雲が来るまで誰一人として侵入者を許したことがないほど厳重だったのだ。
八雲という男が異常なだけだ。
八雲は毎回警備の抜け穴を見つけ出し侵入してくる。見つかったとしても必ず振り切ってジルの元までたどり着くのだ。八雲としてはスパイごっこをしてるような感覚みたいだ。
なのでジルとしても八雲が警備の穴を見つけてくれることでより警備が強化できると思って割り切っていた。
「今日はどうしたんです?」
「んー? 別にこれといって用はないな」
あっけらかんと答える八雲。
その言葉を聞いて近くに控えていた秘書官の女性は頭痛でも我慢するかのように頭を押さえる。秘書官としてはメルキド帝国という大国の皇帝に対して特に用もなく会いに来るなど理解ができなかった。皇帝に謁見を申し込むものだって大勢いるのに、この目の前の珍獣のような男は特に用もなく会いにやってくのだ。身の程をわきまえないにもほどがある。
だがジルは八雲の来賓を歓迎する。
「そうか。ならお茶でも飲んでいくかい?」
「おう」
と言って八雲はソファーに座りかける。
ジルが目配せをすると秘書官がすぐにお茶の準備を始める。
秘書官は目の前の珍獣の存在を腹正しいと思うが、政務で忙しい皇帝は滅多に休憩を取らないのでこうやって休憩を取ってくれるのは内心よかったとも思う。
もしかしてあの珍獣はそれを知ってやってくるのでは? と勘繰ったりもしてみたがお茶菓子を美味しそうに貪ってるところを見るとそれは違うのだと思い直す。
「明日が試合だけど大丈夫そうかい?」
ジルがお茶を一口飲むと八雲に尋ねる。
「まあな」
「そうかい。そういえばロザリーに何か仕込んでるみたいだけど明日の試合で使うつもりかい?」
「もちのロンだ。明日の試合はすっげー魔球を投げるから楽しみにしてろ」
イタズラを画策する悪ガキのような会心の笑みを浮かべる八雲。
「それは楽しみだ」
とジルは満足そうに微笑む。
それを見て八雲はお茶をグイッと飲むと気になっていたことを質問する。
「ところでよ、何でエストリア王国なんてところと戦争するんだ? あそこは別に目立った特産物があるわけでもないし、技術力がある国でもないただの小国だ。戦争を仕掛ける意味なんてあるのか?」
八雲の質問にジルは少し驚いたように目を少し見開く。
「なるほど。野生の勘、とでも言うのかな? 鋭いね」
そう言ってジルは秘書官に退室するように目配せする。
秘書官は何も言わず退室する。
秘書官がいなくなるのを見計らってジルは話し始める。
「あの国ににはこの世界の理を支配する力がある」
「理? どういうことだ?」
八雲が問い返すとジルは肩をすくめる。
「詳しいことはわからない。だが、この世界はあきらかにおかしい。人の歴史とは争いと殺し合いの歴史だ。それはどんなに文明が発達しようとそれだけは変わらない。この国の始まりもその争いから生まれたものだ」
「……」
「なのに今のこの世界では野球が戦争の手段になっている。しかも突然だ。徐々にならまだわかるが、いきなりそうなるなんてありえないことだ。八雲、君は『英雄球児』を知ってるか?」
「ああ。前に監守のおっちゃんに本を借りたけど読めなかったらあらすじだけは聞いたけど、確か異世界からやってきた球児がバットとボールを駆使して悪の魔王を退治して世界を平和にするって話だろ? んでそれを讃えて戦争じゃなくて野球で争うようになったとかなんとか。そういえばその時にエストリア王国が出来たんだっけな」
「果たしてそんなことで本当に世界から戦争がなくなると思うかい?」
「まあ俺の世界でならありえないことだな。でもこの世界では実際になくなっただろ?」
「そうなんだ。だからこそ私はあの国にはこの世界の理の変えてしまうような何かあると推測している」
「なるほどね。エストリア王国には世界を揺るがす何かがあるってことか。なら明日勝てばその真実がわかるな」
と言って八雲はお茶を飲み干した。




