二一話 脱げといわれても…
「いつまで練習しているつもりだシャル」
大地はソフィアと別れてすぐにシャルを見つけることができた。大地もソフィアに言われる前からシャルのことを気にかけていてだいたいの場所を予測できた。
「……大地か。どうかしたのか」
と言ってシャルは汗を拭う。
練習が終わったあとだというのにシャルは一人で黙々とブルペンで投げ込みをやっていたようだ。
「どうした、じゃないだろ。投げ込みすぎだ。それ以上やったらケガするぞ」
大地はため息まじりで注意する。
「大丈夫だ。私は昔から身体はじょう――っ!」
余裕をみせるために腕を回そうとするがシャルの顔が苦痛に歪んだ。
「ほら、いわんこっちゃない。ちょっと見してみろ」
と言って大地はシャルの肩を触診する。
「痛くはないか」
「少しだけ」
「なるほど。軽く炎症を起こしてるみたいだな。とりあえずはアイシングして肩を冷やさないと」
大地は野球バックからアイシングサポータとこういう時のために毎日メイドのジジに頼んで冷やしていた保冷剤を取り出してシャルの肩に巻く。
そしてしばらく様子を見て熱が引いてきたらマッサージをして筋肉をほぐす。
「……貴様にはみっともないところをみせてばかりだな」
シャルは申し訳なさそうに話す。
「気にするな」
「だが貴様には色々と迷惑もかけている。チビーズの練習だって本来なら私がみなければならないのに全て貴様にまかせっきりだ」
「気にするな」
「だが……!」
何でも責任を背負い込もうとするシャルを見て大地は本心をのべる。
「俺は次の試合に勝ってもらわないと元の世界に帰れないんだ。俺は元の世界に帰らないといけないんだ。俺はそのためにみんなを利用しているだけだ。だからシャルが気に病むことはない」
「……そうか。貴様は次の試合に勝ったら元の世界に帰ってしまうのだな」
少し残念そうな顔になるシャル。
「一つ、聞いていいか?」
「なんだ?」
「そこまでして元の世界に戻ろうとする理由はなんなのだ?」
「俺を待っている妹がいるからだ」
そう言って大地は寂しがり屋で自由奔放な妹のことを思い出す。
「貴様にも妹がいたのか。さぞや立派な妹なんだろうな」
「えっ? どうだろうな」
と苦笑する大地。
「あとは約束もあるからな」
「約束?」
「ああ、実は俺にも姉がいたんだ」
「いたといことは……?」
「もう死んでる」
「そ、そうか」
シャルは気まずそうな表情を浮かべる。
「俺が言い出したことだからシャルが気にするな。それに俺の小さいころ頃の話だ。で、姉さんも野球をやっててエースだったんだけど女じゃ甲子園に出れないことを知って俺に自分が出れないから仇を取れみたいなことを言ったんだ」
「コウシエンというのは女は出れないのか? それはおかしくないか? なぜなんだ?」
「なぜって言われてもな?」
大地は答えに困る。
「まあとにかく俺は姉の仇を取るために甲子園に出なきゃならないんだ」
大地は自分で言っておいて恥ずかしくなる。
しょせんは子供の戯言。それを本気にして甲子園に行こうとするなんて道化でしかない。
大地自身そのことを誰かに話すのは初めてだった。
――もしかしたら誰かに聞いてほしかったのかもしれないな。
そう思い大地は自嘲気味に笑う。
「姉の仇か……。なら絶対に勝って元の世界に戻らないとな!」
シャルにも何か思うところがあったのか、大地に賛同する。
「そう思うならあんまりムチャな練習はするなよ。お前がいなかったら勝てないんだから」
「あうっ」
大地に指摘されてしょんぼりするシャル。
「だが、今のままじゃ勝てる自信が……」
シャルはここのところ試合に負け続けて自信をすっかりなくしていた。そのうえ大地からはホームランを打たれ、燃える魔球は当てられてしまって自信を失っていた。
「……」
シャルの話を聞いて大地はしばらく考える。
そして意を決する。
「仕方ない。シャル、服を脱げ」
大地は何をするつもりでしょう!




