十九話 リリィとミーシャ
大地が異世界に来てすでに三週間が経った。
試合まで残り一週間。
チビーズはそれなりに基礎体力がついてきて野球の動きはそれなりに様になってきたが、それでもまだ野球の実力は小学生レベルといったところだ。
だが大地としてはたった三週間でそれなりに動けるようになったのはいい方だと考えている。
そもそもたった一か月で素人に野球を教えてたかが知れている。ましてや試合に勝つとなるとかなり厳しい。
だから野球としての最低限のことを覚えてもらえればいいと思っていた。
そして大地は今、チビーズにノックをしていた。一か月そこらバッティングを教えたところでメルキド帝国のエースからヒットを打つのは難しい。だから勝つために一点もやらせないよう守備を重点的に強化していた。
「あっ!」
リリィがフライを取り落す。
大地はそんなリリィに気にするなと励まし、丁寧にフライの取り方を教えた。
「……はぁ」
練習が一息つくと、リリィは思わずため息を吐いていた。
「わたしってみんなに迷惑ばっかかけてる」
あのあとも何度もエラーをした自分に嫌気がしてきた。他のメンバーもエラーはするがリリィよりも断然少ない。
元々リリィは運動が得意なタイプじゃない。運動神経のいいオデットや何でもそつなくこなすニーナ、要領ののいいグレタと違ってリリィは何をやってもどんくさかった。 最初にキャッチャーをやっていたのも構えたところにシャルが投げるからリリィは座ってるだけだったからだ。正直恐くてキャッチャーなんてやりたくなかったが、孤児だった自分たちに居場所をくれたシャルに恩を返したかったから頑張った。
大地がキャッチャーをやってくれると言ってくれてシャルは安心した。だけど他のポジションでも自分ができそうなところはなかったから消去法でライトを守ることになった。
「カッカッカッ! リリィじゃないか」
落ち込むリリィに声をかけてきたのは生意気そうな八重歯が特徴的なミーシャ。
ミーシャはチビーズが大地に練習を教えてもらって数日した時に「あー暇だなぁ、ミーシャは天才だから練習する必要はないけど身体を動かしてもいいけどなー、チラチラ」と言ってたので大地が「じゃあ練習しなくていいよ」といったら「練習するもん!」と言い返してから毎日練習に参加していた。
ミーシャは天才と自称するだけあって他のチビーズのメンバーよりも上手かった。足も速かったからセンターを守ることになっていた。ただ、性格がうざがられてチームのメンバーとの仲はあまりよくはない。というか浮いていた。
「ふぇっ! み、ミーシャちゃん!」
リリィはいきなり声をかけられて驚いていた。そして周りには誰もいないと思って喋っていたひとり言を聞かれたのか不安になる。
「もしかして、聞いてた?」
「リリィがみんなに迷惑ばっかかけてるとかの話か?」
「……うぅ」
やっぱり聞かれていたのかとガックリするリリィ。そしてミーシャはリリィに止めを刺す。
「安心しろリリィ! リリィはしっかりみんなに迷惑をかけているぞ」
「ふぇっ! そ、そうなの!?」
ミーシャに言われてリリィは涙目になる。
「ああ。リリィは下手くそだしトロいしエラーばっかだしな。ハッキリ言って迷惑だ」
悪びれた様子もなくズバズバ言うミーシャ。
「……」
一方気の弱いリリィはわかってたとはいえ、第三者にハッキリと言われてショックのあまり死にそうだ。
「……迷惑ばっかかけてごめん。やっぱわたし辞めた方がいいのかな?」
「なぜだ?」
「なんでって、わたしのせいで迷惑ばっかかけてるし、このままじゃ試合で迷惑をかけるかもしれないし……」
「カッカッカッ! それがどうしたというのだ。ミーシャは天才だからな。リリィのミスぐらいカバーするなんて余裕だ」
「えっ?」
いまいちミーシャがいいたいことが理解できないリリィは首を傾げる。
「だ、か、ら! ミーシャがいるからそんなこと気にするなって言ってるんだ!」
そこでようやくリリィはミーシャの意図に気付く。
「えっと、もしかしてミーシャちゃんはわたしを励ましてくれてるの?」
「ち、違う! 天才が凡才のことなんて気にすることなんてあるわけないだろ! これはあれば、大地のやつに頼まれたからだ! べ、別にリリィだけがミーシャによく話しかけてくれるからとかじゃないんだからな。ミーシャはリリィが落ち込んで辞めようが気になんかしてないもん!」
なぜか顔を真っ赤にして否定するミーシャ。
リリィはそれを見てまるで憑き物が落ちたかのようにクスリと笑う。
「そっか。ありがとうね。ミーシャちゃん」




