十八話 メルキド帝国のエース
「なあ、シャル」
チビーズの練習が一段落ついた大地は、近くを通りかかったシャルに声をかける。
「なんだ?」
「今更なんだが、メルキド帝国のエースってのはどんなタイプのピッチャーなんだ?」
大地の質問にシャルは少し考えて答える。
「うーむ。彼女は一言で言うなら技巧派投手だな」
「技巧派ってことは変化球とかが主流ってことか?」
「そうだな。球速は一三〇キロと普通だがコントロールはいい。そして彼女の武器は地面スレスレから投げるアンダースローの利点を活かしたカーブとシンカーの変化球だ。ただでさえアンダースローが少ないというのにあの浮いて落ちる軌道を描く変化球は厄介だ」
「アンダースローか」
アンダースローは速い球を投げるのは難しいが、低いリリースポイントで投げることで浮き上がる軌道で投げられる。
そしてバッティングはどこにどんな球が来るのか予測して打つものなので、オーバースローに慣れた打者はアンダースローの軌道に慣れないため予測が難しい。
「私は何度か打席に立っているから少しはアンダースローに慣れたが、私はバッティングには自信がない」
大地はそれは仕方がないと思う。投手はどうしても練習時間をピッチングや体力づくりに費やさなきゃいけないからまともに打撃練習はできない。試合でもピッチャーの負担を減らすために打順だって九番にするだろうし。
「それに他の者はソフィアを除いてアンダースローどころかまともに打席に立ったこともないからな」
「そうだな。なら魔球はどんな魔球を投げるんだ?」
「それはわからない」
申し訳なさそうに答えるシャル。
「わからない?」
「彼女がどんな魔法を使ってるのかわからないんだ。私のように炎をボールにまとわせる魔球なら見てわかるが、彼女の魔球はそういった特徴がない。というか魔球を投げているのかもわからんからな」
「そうか……」
大地はその魔球の対策が取れないのを残念に思う。
手の内が読めない相手。そんな相手からメルキド帝国から得点を取るのは難しいだろうなと思う大地。
大地は優秀なバッターだがさすがにそう簡単にホームランは打てない。
大地は天才ではなし、体格にもあまり恵まれていない。一七〇センチで六〇キロとキャッチャーとしては小柄な方だ。大地はそういった身体的不利をバッティングフォームを工夫したり、相手を分析して球筋を予測したり努力で補ってきた。
そこで大地はふと天才打者と呼ばわれた男のことを思い出す。
「あのバカならどんな球でも関係なくホームランにしそうだな」
ボソリと誰にも聞こえないように呟くと、その男のことを思い出して大地は苦い顔をする。
☆
「……う……そ」
ロザリーはマウンドで呆然とたたずむ。
八雲との勝負はロザリーの惨敗。しかも三打席でホームラン二本と長打が一本という結果。メルキド帝国のエースが一度も打ち取ることができなかったのだ。
ロザリーに驕りがなかったとはいえばウソになる。最初はロザリーも目の前の珍獣が大した相手じゃないと思って油断していた。
だがその驕りは一瞬にして打ち砕かれた。
様子見程度で投げた初球をホームランにされた。しかも顔面めがけて投げた危険球を。
それを見てロザリーも珍獣がただのバカではないことを悟った。
二打席目はさすがに本気になって投げた。
際どいコースを投げてカウントを稼いで、決め球のシンカーを投げるがあっさりとホームランにされた。
三打席目はこれ以上兄の前で失態は見せれないと思ったロザリーは魔球を投げた。
初球は魔球に気が付いたのか八雲はカットしてファールにした。そして二球目でたやすく打って右中間を破る長打だった。
長打を打った八雲は納得いかないといった感じで首を傾げていたが、メルキド帝国のエースであるロザリーの方はプライドをズタズタにされた。




