十七話 お兄様と妹
大地がチビーズの練習を見ている一方で、八雲はメルキド帝国にあるグラウンドにやってきていた。
「おおー! ここがグラウンドか。……何だか異世界っぽくねえな」
一瞬驚いてみたももの、せっかく異世界に来たというのに自分がいた世界と変わらないものを見てつまらなそうな八雲。
グラウンドは大地のいる選手がほとんどいないエストリア王国と違ってメルキド帝国の選手は大勢いて活気があった。だが八雲からしたらまるで名門高校の野球部の練習を見ているようだった。
「そうなんですか?」
とメルキド帝国の皇帝のジルが聞く。
「ああ。グラウンドの作りとかおれのいた世界と大差ないしな」
「……ふむ」
八雲の話を聞いて興味深そうに顎に手を当てるジル。
「だがなにより気に食わないのはユニフォームが普通過ぎる!」
八雲は拳をグッと握りしめて熱弁する。
「異世界なんだから水着とか、メイド服とか着るべきだろ! 何で選手に女の子が多いのに服装が地味なんだよ!」
「だけどそんなことしたら練習になりませんよ。水着みたいに肌を露出すれば擦り傷が増えますし、メイド服だと動きづらくなりますよ」
ジルは冷静に指摘する。しかしそんなことで八雲が引き下がるわけがない。
「ふっ、わかってねーな。水着は魔法で身体を守ればいいだろ? そうすれば魔法の練習にもなるしな。メイド服は動きにくい恰好で練習することで無駄な動きを減らして効率的な動きを学ぶことができるんだぞ。いいかジル、試合ってのは常に万全の状態でできるとは限らないんだぜ、だから練習の時からちょっと変わった衣装を着ることで足枷を作っていざってときに備えるべきじゃないのか」
コスプレまでするいざという時とはどんな時なのかと問いたくなるような戯言を言う八雲。
「なるほど。普段の心構えというのは大事ですもんね。まあ考えておきましょう」
意外にも八雲の戯言にジルは納得する。
それを見て八雲は小さくガッツポーズする。
そこへジルの元に、ブロンドの髪を左右に結んだツインテールの少女が駆け寄ってきた。
「お兄様!」
やってきたのはジルの腹違いの妹のロザリンド。彼女はユニフォームを着ておりメルキド帝国の選手でもある。
「やあロザリー」
遠くから走ってくるロザリーにジルが手を振って答える。するとロザリーは嬉しそうに微笑んで兄の胸元に抱き着こうとするが、ジルとロザリーの間に突然邪魔者が割って入る。
邪魔者はなぜか両手を広げて自分の胸に飛び込んでこいといわんばかりの姿勢だった。
走ってるせいで急に方向転換もできなかったロザリーは、走ってる勢いを殺さずその邪魔者のお腹にドロップキックをお見舞いする。
「ぐふぅ」
邪魔者はドロップキックを食らって後ろに倒れる。
そしてロザリーは何事もなかったように兄の胸元に飛び込んだ。
「まったく、ロザリーは甘えん坊ですね」
と苦笑のジル。
一方ロザリーは頭を撫でられてえへへーと喜ぶ。
「そういえば今日はどういった用事ですかお兄様?」
ジルは皇帝という立場上普段から多忙で妹の自分ですら中々会う機会がない。だからロザリーは兄がグラウンドにやってきたのは何か理由があると思った。
「今日は彼の野球の実力を知りたくてね」
そう言ってジルはさっきロザリーが蹴飛ばした邪魔者を指差す。
「ほう、これがツンデレか」
邪魔者もとい八雲は何事もなかったように起き上がるとそんなことを呟いていた。
ロザリーはそんな八雲を汚物でも見るような蔑んだ目で睨む。
「お兄様あの知性のかけらも感じられない珍獣は何ですの?」
「彼は異世界からやってきた八雲ですよ」
「えっ!」
兄から目の前にいる珍獣が異世界からやってきたと聞いて驚愕するロザリー。
「こ、この珍獣があの英雄球児と同じ異世界から来たやってきた人物ですの!?」
「はい」
兄にそう言われてロザリーは珍獣をまじまじと眺めて観察する。
見た目はひょうひょうとしていて頭が空っぽそうな感じロザリーが嫌いなタイプの人間だ。だけど身体の筋肉は引き締まっていて余分な脂肪はない。
「まさかおれに惚れちゃった? いやーモテる男はツライなー」
「……」
ロザリーはこんな品性のかけらもない男が異世界からやってきたなんて信じられなかった。
「そんなわけでロザリーは彼と三打席勝負して欲しいのですよ」
「あたしがですか?」
ロザリーは仮にもこのメルキド帝国のエースだ。そんな自分と異世界からやってきたという珍獣とで三打席勝負をさせられるとは思いにもよらなかった。
「彼は野球にはかなりの自信があるそうなので、もし使えそうなら次の試合に出てもらおうと思いまして」
「……わかりました」
ロザリーは了承する。大好きな兄に頼まれては断れないというのもあるが、目の前の珍獣を叩きのめしてやろうと思ったからだ。
「ただし、魔球はなしですよ。八雲さんの世界では魔法はなかったみたいですから」
「はい、お兄様」
魔球などなくても自分に絶対の自信があるロザリー。
「じゃあいっちょやるか」
八雲は楽しそうに首を回して勝負に挑む。




