十六話 キャッチャーと信頼
「大丈夫か?」
大地は顔を真っ赤にするシャルを見て何か病気にでもなったのかと心配して顔を覗き込む。
「ま、待て! キスは気が早い! そもそも私はまだ結婚より野球の方が……」
アワアワと気が動転するシャル。
「キス? 結婚?」
大地が何のことだと言わんばかりに首を傾げるのを見て、シャルは咳払いをして落ち着きを取り戻す。
「ゴホンッ! 何でもない」
と言いながらもシャルはソフィアを怨めしそうに見つめる。
ソファアはソフィアで青春だね、といった感じで頷いている。
シャルはそれを見て何か諦めるようにため息を吐くと、大地と向き合う。
「それよりも貴様は私の球を捕れるのだろうな? これで捕れませんでしたでは話にならないぞ」
「まあそれもそうだな」
そう言って大地はキャッチャーミットを持ってベースの後ろに座るとミットを構える。
「さあ来い」
「防具はつけないでいいのか?」
シャルはケガの心配というよりも、防具をつけないということは自分の球は大したことはないと言われてるような気がして尋ねる。大地の実力は知っているが、それは打撃においてだけでキャッチャーとしての実力がどの程度かは知らない。
「大丈夫だ。お前なら失投もしないだろ」
「そうか」
自分の実力を信用してると言われてはシャルも言い返すことはできない。
「ではいくぞ」
さっきまでの投球練習で肩が十分暖まってきたシャルは今しがたの憤りを晴らすべく大きく振りかぶって投げる。時速一四〇キロ、魔球を除いてシャルにとって最速のストレートだ。
スパンッ!
ボールがミットに叩きこまれる気持ちのいい音がブルペンに響き渡る。
その音を聞いてシャルだけでもなくソフィアまで感心する。
キャッチャーが捕球の際にいい音を出せるか出せないかでピッチャーのモチベーションは大きく変わる。音が悪ければピッチャーが調子が悪いと思ってしまい腕の振りが悪くなったりすこともあるほどだ。
だからこそキャッチャーは捕るだけでなくピッチャーを気持ちよく投げさせるのも必要なスキルなのだ。
それから続けて十球ほど連続で投げるが大地はいい音を出してキャッチする。途中大地の不意をついてスライダーを投げるが大地は難なくキャッチをしてみせた。
だがシャルとしては自分の球をこうもやすやすと捕られてはつまらない。というよりも恥ずかしいところを見られたのだから大地の恥ずかしいところも見なければ気が晴れないだけなのだが。
「やるな。ならこれはどうだ」
シャルは深呼吸をして集中力を上げると振りかぶるって投げる。投げたボールは炎を纏って大地が構えるミットへと突き進む。
燃える魔球だ。
シャルは異世界から来た大地が初めて捕る燃える魔球に動揺して逃げ出すだろうと思っていた。
しかし大地は燃える魔球から逃げることなくどっしりと構えて燃える魔球をミット捕球した。
「……まさかこれほどだとはな」
この結果に投げたシャルの方が動揺させられていた。
魔球はバットやミットといった何かに当たれば効果は切れる。それはルールによって定められていることだ。大地はそのルールを知らなかったが、シャルとの勝負の時に気付いていた。
だから大地は燃える魔球に怯えることなくキャッチすることができた。
かといってそれを知ってたからといって迫りくる燃える球をキャッチできるとは限らない。実際に初球で燃える魔球をキャッチできたのはシャルの姉のシエルだけだった。とはいっても当時はそこまで球威はなかったのだが。
「よく逃げなかったな」
「そりゃ信じてるからな」
「信じてる?」
「お前が俺が捕れないような危険な球を投げるわけないってさ。だって俺らはバッテリーだろ。だからお前も俺を信用しろよな」
「……まったく、貴様にはかなわんな」
と肩をすくめるシャル。
「じゃあ俺はチビどもの練習を見なくちゃだから。あんまりムチャはするなよ」
大地はそう言い残して慌ただしそうにブルペンを去っていった。
シャルはそれを見送るとグローブで顔を覆う。
「なんてみっともないことをしたんだ私は。穴があったら入りたい……」
シャルは大地の前でみっともない醜態をさらしたあげく、ムキになって大地を試すようなことまでした自分を呪いたくなった。人の上に立つ立場としてはあまりよろしい行いではなかった。
「でもさっきまでのシャルの方が変に大人ぶってるより年頃の女の子っぽくて良かったよ」
「……」
嬉しそうにぼやく尊敬する先輩をシャルは恨みがましそうに睨むのだった。
その日その日で書いているのでいつも投稿が日付変わるギリギリですいません!
なるべく早いうちにストックを作ってもっと早く投稿できるようにしていきたいです……。




