十三話 キャッチボール
「よし、次はキャッチボールだ」
「えー、キャッチボール? なんか地味な練習だなー」
とつまらなそうに言うオデット。
「文句をたれるな。それに今回はこれでキャッチボールをしてもらう」
大地はポケットから直径四センチほどの橙色のボールを取り出す。
「あんちゃん、なんだそれ?」
オデットは大地が取り出したボールを見て不思議そうに首をかしげる。
「硬球……ではないですよね」
グレタがそんな感想をもらす。
「痛くなさそう」
ホッと胸を撫で下ろすリリィ。
「……」
なぜかニーナは無表情で大地の股間を眺める。ニーナの視線が気になったオデットがニーナに尋ねる。
「どこ見てるんだニーナ」
「きん――」
「これはピンポン玉だ!」
ニーナが変なことを言う前に大地が慌てて説明する。
「ピンポン玉は硬球と違って痛くもないボールだ。これを片手でキャッチして相手の胸に投げられるようにしとけ」
「へっ、そんなの楽勝だぜあんちゃん」
「ほらっ」
大地は自信満々のオデットにピンポン玉を投げてやる。
「うおわっ!」
ピンポン玉はオデットの胸の前に行くがオデットは片手でキャッチできずに手で弾いてしまった。
「……下手くそ」
「うっせー! このピンポン玉ってやつは小っちゃいから取りにくいし、素手だとキャッチしても弾いちまうんだよ。お前もやってみろよ」
ムキになったオデットがニーナに向かってピンポン玉を投げるが、すっぽ抜けて暴投になる。
「…………」
「なんか言えよ! むなしくなってくるじゃんか。これって意外と投げるのも難しいんだぞ!」
「そういうことだ。取るときはボールをしっかり見て掴むようにキャッチすること。投げるときは指、手首、腕を意識してキレイな回転で投げるように。そうしないとピンポン玉は軽いから軌道が変化して取りにくくなるからな」
そう言って大地は二人に一つピンポン玉を渡す。
チビーズはピンポン玉をもらうとさっそくキャッチボールを始める。最初なのでまともに狙い通りのところには投げられないし上手くキャッチすることもできなかったが、チビーズたちは夢中になってキャッチボールをやっていた。
「ふむ、また変わった練習だな」
大地と一緒に練習を見ていたシャルが興味深そうに言う。
「ピンポン玉でキャッチボールというのはそんなに難しいのか?」
「そんなことはないぞ、ほらっ」
「おっと」
シャルは大地の投げたピンポン玉を難なくキャッチした。そしてそれを大地に普通に投げ返す。
「ピンポン玉でのキャッチボールなんてある程度野球ができるやつからしたら別に難しいことじゃない。この練習の目的はしっかりキャッチしてボールを捕球することと、ボールに慣れさせることが一番の目的だな。あいつらは素人だ。だから硬球で練習しても恐がって練習にならないからな」
「そうか」
と言ってピンポン球を投げてキャッチボールをする二人。
「確かに素人の彼女らにいきなり硬球で野球させるのはよくないな……」
そんなことにも気づかなかった不甲斐ない自分に落ち込むシャル。落ち込みつつもピンポン玉でキャッチボールを続ける。
「にしても貴様は野球が上手いだけでなく指導者としても優秀なのだな」
「まあ色々とあったからな」
「色々と? もしよかったら貴様の話を聞かせてくれないか」
「俺の話を?」
「ああ。貴様の練習方法とかは興味深い。私の練習にも何か取り組めるかもしれない。このピンポン玉とやらも面白いしな」
「まあいいけどそんな面白い話じゃ――」
「お姉さま!」
「べ、ベル!」
大地とシャルの会話に突然割って入ってきた触角のようなアホ毛を生やしたベル。ベルはちょうどキャッチボールしている大地とシャルの中間の辺りに立つ。そしてシャルの投げたピンポン玉をキャッチするとしれっと自分のポケットにしまう。
「おい、人のピンポン玉をパクるな」
「お姉さまが触ったものはベルのものです!」
「どっかのガキ大将よりもタチが悪いな」
「そうだぞベル。それは私のだ」
「お前も意外にちゃっかりしてるな! まあ別に元の世界に戻ったら買えるもんだからいいけど」
大地はどこかあきれるように言う。
「それよりもお姉さま! 何ですかさっきのイチャツキっぷりは!」
「い、イチャツキ?」
何のことだかさっぱりのシャル。
「ベルは悔しいですの! 男嫌いだったお姉さまがあんなにも楽しそうに男と話すだなんて」
「別に私は普通に話していただけだが……」
「そんなことないです! あたくしと話すより楽しそうでした」
「まあ、それはそうかもな」
「……くっ! これが惚気というやつですか」
まるで見えないオーラにでも圧倒されたかのようなリアクションのベル。
「そこのゴミ虫!」
ベルは大地を指差す。
「さっさと特訓を始めるのです! あたくしが一刻も早くお姉さまの心をあなたから奪ってみせるのです!」
シャルはまたベルが変なこと言い出したなぁと疲れた表情を浮かべる。
「わかったわかった」
一方大地はベルの言ってることの意味がほとんどよくわからなかったが、昨日シャルからホームランを打てるように練習をみると約束したのでチビーズと一緒にベルの練習をみることにする。




