十話 ミーシャと花瓶
「カッカッカッ! よく助けた。礼を言っておいてやる」
大地が花瓶から救出してやると花瓶にはまっていた少女は偉そう礼を言う。
少女はチビーズ達と同じぐらいの歳。生意気そうな八重歯と広いオデコが特徴的だ。
大地はまともに相手をするのはめんどくさそうだと思いつつ質問する。
「お前ってもしかして選手なのか? 個人的には迷子であって欲しいんだけど」
――花瓶に頭からはまって抜け出せなくなるようなアホの子が選手というのはなぁ……。
「何を言ってるんだお前は? この寮にいるのだから当然ミーシャは選手だぞ。しかも天才だから次の試合は勝ったも同然だ。って、なぜお前はそんな嫌そうな顔してるんだ!」
「いや、最後に変な奴が出てきたと思ってな」
目も前にいる人物が九人目の選手だと知って大地は落胆する。
「?」
一方ミーシャと名乗った少女は大地の言ってる意味がわからず首を傾げる。
「つーか、何でお前は花瓶に頭を突っ込んでいたんだ? そういう性癖でもあるのか?」
「違うわ!」
「じゃあイジメか? お前ってウザそうだから苛められそうな感じだし」
「カッカッカッ! ミーシャが苛められるわけがないだろ。なんたって苛めをする友達すらいないのだからな」
「理由が悲しすぎるな」
ミーシャが不憫すぎで若干同情しそうになる大地。
「じゃあなんで花瓶なんかに頭を突っ込んでいたんだ? 花瓶の中が異世界にでも繋がってると思ったのか?」
「……なんかお前ミーシャを残念な子だと思ってないか?」
「えっ? 違うのか?」
大地は素でそう返す。するとミーシャは目をクワッと見開いて抗議する。
「違うに決まってるだろ! ミーシャは天才だ! 残念な子じゃない! さっきの花瓶にはまっていたのは幽霊にやられたからなんだぞ」
「あー、うん。とりあえずそういうことにしておくわ」
ミーシャの言い訳が痛すぎて大地はそっと目をそらす。
「ぐぬぬ。ミーシャのこと信じてないな。お前のあのクソババアの幽霊に襲われちゃえ! バーカ」
舌を出してあっかんべーをするとミーシャは走り去って行った。
「ちょっとおちょくりすぎたか」
大地は少し反省する。
「しっかし、幽霊ってのはなぁ。ファンタジーの世界にはいるもんなのか?」
適当に誤魔化すいいわけだったのか本当に幽霊がいたのか大地には判断できなかった。
「まあとりあえず部屋に戻るか」
幽霊がいようがいなかろうが別に気にすることはないだろうと思った大地は部屋へと戻る。
「あら、お帰りなさい」
部屋に戻った大地を出迎えたのは、大地をこの世界に呼んだ魔導士のシェリル。
「どうしてお前がここにいるんだよ」
「おやおや、せっかく引っ越し祝いに来たのに機嫌がよろしくないですね。何かあったんですか?」
すべての元凶であるシェリルはしれっとそんなことを言う。
「無理やりこの世界に連れてきた人間に対して笑顔で出迎えるほど俺の頭はめでたくない」
「あらら、そんなこと言っていいんですか? わたしに聞きたいことがあったんじゃないですかね」
「……」
全てを見透かしたかのように言うシェリルに大地は苦虫を噛み潰した表情になる。
まだこの世界に慣れない大地としてはシェリルからこの世界について色々聞きたいこともあった。
特にシェリル自身が何者なのか気になっていた。なぜこの世界で唯一異世界から人を召喚したことがあるシェリルと同じ名前なのか? 何を企んでいるのか? など。
そんな大地の反応を見てシェリルは妖艶に微笑む。
「いいですよ特別に教えてあげます。上から八六、五八、八五ですよ」
「……ん? なんの数字だ?」
シェリルの言った数字の意味が理解できず大地は困惑する。
「もちろんわたしのスリーサイズですよ。それを聞きたかったんじゃないでのですか?」
意外そうに言うシェリル。
「ちげーよ。俺が知りたかったのはお前のことについてだ」
「だからスリーサイズを教えてあげたじゃないですか」
「そういうのじゃなくてお前の正体と目的についてだ」
「ああ、そっちですか。それはもちろん、秘密です」
とシェリルは自分の唇に人差し指を当てる。
「……っ」
シェリルの人を食ったような態度に軽くイラッとする。
「でも、その代わりに取っておきの情報を教えちゃいます」
「取っておき?」
どうせまたくだらない情報なんだろうと思い話半分に聞くことにする。
「なんと! 実は今、大地さん以外にもこの世界にやってきた異世界人の人がいるんですよ」
「俺以外に?」
自分以外にも異世界からやってきた人間がいると聞いて興味を持つ。
「そいつはどうやって異世界に来たんだ?」
もしかしたら元の世界に帰る手がかりになるかもしれない。と大地はそんな期待を抱くがすぐに砕かれることとなる。
「いやー、それがですね。大地さんをこの世界に連れてくるために開いたゲートからやってきたみたいなんですよ。まさかゲートが閉じる瞬間に飛び込んできたせいで座標が狂ってその人はこの世界のどっかに漂流しちゃったみたいなんですよ」
「……」
どこか軽い調子で答えるシェリル。大地はこの世界にやってきてしまった人物に同情する。
――でも、あんな不気味な穴に飛び込むなんてどんなやつなんだ?




