九話 ベルに、気をつけろ!
「スコアブックの付け方が俺のいた世界と同じで助かったな」
パタンとスコアブックを閉じながらそう呟く大地。
図書室にある資料室にあった試合の資料は文字が読めなかったが、試合の結果を記したスコアブック付け方だけは自分のいた世界と同じで内容を理解することができた。
「スコアブックを見た限りメルキド帝国は守備が上手いチームだな。なんたってうちと三試合もやってエラーが一個もないもんな。そしてうちのチームはエラーで失点して敗けてる。失点さえなければ五分五分といったところか。と言ってもこれはまだまともな選手がいた頃の話だから今試合をしたらもっとひどいんだろうな」
と大地は現状を分析する。
「さて、そろそろ日が暮れてきたし部屋に戻るか」
図書室で用件を終えた大地は自室へと向かう。
そこでふとソフィアが言った言葉を思い出す。
「ベルに気を付けろってどういう意味だったんだ? 彼女って言ってから女性なんだろうけど、俺が何かしたのか?」
首を傾げながら考えてみるがこの世界に来たばかりの大地には身に覚えがない。
「……誰だ」
何かの気配を感じた大地は気配の感じた廊下のまかり角を振り返る。
しかし曲がり角には誰もいない。
「気のせいか。誰かがいたような気がしたんだけど……んっ?」
勘違いだったかと思って歩き出そうとした瞬間またしても何かの気配を察知して気配を感じた天井を振り向く。
だがやはり天井には誰もいない。
気になって周囲をキョロキョロと見回してみるが人っ子一人いない。
「気のせい……なのか?」
不信に思う大地だったが、突然背筋がゾクリとするような気配を感じる。
――いる。
――何かわからないがいる。
――これは……殺意?
それはまるで得体の知れない怪物の腹の中にでもいるような嫌な感覚だった。
身の危険を感じた大地は咄嗟に後ろを振り返ってみる。
後ろを振り返ってみると触角みたいなアホ毛を生やした少女が包丁を持って襲い掛かってきていた。
「死にさらせ!」
アホ毛の少女が包丁を大地の心臓めがけて突き刺す。
「うおっ!」
大地はその一撃を間一髪でかわす。
するとアホ毛の少女は忌々しそうに呟く。
「ちっ! はずしましたか。犯行を誰かに擦り付けようとして慣れない凶器なんかを使ったのが失敗ですね」
アホ毛の少女は包丁を投げ捨てる。
「だけど次は確実に殺します」
グッと拳を構えるアホ毛の少女。
――犯行を擦り付ける?
――確実に殺すために素手で殺す?
そこで大地はソフィアが言っていた素手で岩をも砕く人物のことを思い出す。
――……もしかしてこいつがベルか。
――だけどどうして俺があいつに命を狙われなきゃいけないんだ。
「おい待て! 俺は敵じゃないぞ」
「そんなこと関係ありません。あなたがあたくしのお姉さまを奪ったのがいけないんです」
「お姉さま? 奪った?」
――彼女はいったい何をいってるんだ?
――いや、待てよ。ソフィアが俺にベルに気を付けろと言う前にシャルからホームランを打ったかと聞いたな。
――もしかして彼女が言いたいのは尊敬する先輩からホームランを奪ったのが許せないってことか。ホームランを打ったぐらいで俺を殺しにくるなんてな。まあ裏を返せばそれだけシャルが後輩に慕われてるってことなのか。
――といって殺されたくはないが。
「なるほど。お前の言い分はよくわかった」
――だからといってホームランを打った事実は変えられるわけじゃないし還すこともできない。
――俺にできることは彼女がシャルからホームランを打てるように指導することぐらいか。
「だったらお前も奪えばいいだろ。奪えるよう俺が指導してやるよ」
「な、なんですって」
ベルが驚愕の表情を浮かべる。
「あなた……正気ですの」
「あ、ああ」
ベルの驚きっぷりに大地は少し困惑する。
――そんなに驚くことか?
――でもまあ自分を殺しに来た人間にホームランを打てるようにアドバイスするなんて普通に考えたらありえないことだもんな。
――だけど少しでも戦力を上げないと次の試合には勝てないからな。
「ふふふ、わざわざ敵に塩を送るなんてあなた頭がおかしいんじゃないですの? それとも絶対に奪わせないという自信でもあるのでしょうかね」
――奪わせない? 何を言ってんだ?
「それはお前次第だ」
「上等ですわ。あなたから奪ってみせますわ」
「はい?」
――俺から奪うって何をだ? まあこいつの言動はおかしいところがあるから細かいことは気にしない方がいいかもな。
「じゃあ明日グラウンドで練習するからこいよ」
「ふん、いつまでもその余裕があると思わないことですわ。近いうちに取り返してみせますわ」
そう言い残してベルはアホ毛をピョンピョンと揺らしながら立ち去って行った。
大地はそれを見送るとため息を吐く。
――シャル、グレタ、オデット、ニーナ、リリィ、ソフィア、ベル。選手はこれで七人か。
「ったく、この国のチームの連中は変わった連中が多いな。せめて最後の一人ぐらいはまともそうなやつがいてくれると助かるんだけど」
そんな淡い期待を抱きながら自分の部屋へと向かうのだが、
「カッカッカッ! そこのお前、ちょっと助けてくれんか」
偉そうな声で大地を呼び止める。
大地は嫌な予感を感じつつ声のした方を見ると、花瓶にパンツが活けられていた。いや、正確にはひとの身体ぐらい大きい花瓶に頭からはまってるせいでスカートがめくれてパンツが見えている状況だった。
――何で花瓶に人がいけられてるんだ。
不可解な現象に大地は思わず目頭をおさえたくなった。




