ステージ5-5 あの、大丈夫ですか…?
今回はリアルの話。紬が出会ったのは…?
今日は、私が好きな二次元アイドル「スターリー‼」の
新作グッズの発売日!
ワンダーグラウンドオンラインを始める前、
そう、前に遊んでいたオンラインゲームにやる気をなくしていた時に、
このグッズ情報を見て、発売日当日に店舗購入できるように、
時間指定入場に申し込んでいた。
なんだけど…。まさかの寝坊!!
二度寝をしてしまった。
テスト勉強をやってたら寝るのが遅くなっちゃったんだよね…。
私が申し込んだのは10時30分の枠。
朝ごはんを食べていたら時間に遅れてしまう!!
昨日のうちに選んでおいた服を着て、
お化粧を済ませて急いで家を出た。
駅まで走れば特急電車に間に合う!
毎日猛暑続きで、夏休みに入ってからはバイトや友だちと会うとき以外、
ほとんど外に出ていなかったし、運動もしていなかったけど…
グッズのためなら走れる!!
なんとか間に合った私は、
欲しかったアクリルスタンドと缶バッジを購入し会場を後にした。
暑い…今日の予想最高気温はなんと37度…。
夏休みも終わりに近づいているのに、まだまだ暑い日が続いていた。
しかもこれ、風通しの良い日陰の温度なんだって。
日陰で37度って、吹いてくる風はもう熱風だよね。
日傘を差していても暑い。日なたは一体何度なんだろう。
なんか…気分が悪くなってきた気がする…。
そういえば、朝ごはん食べてなかったし、飲み物も買ってなかった。
この炎天下の中、なんという無謀な行為。
少し休もう…。私はビルの日陰に入り、日傘を閉じた。
どこかに自動販売機ないかな…。
はぁ…クラクラしてきた…。
すると…
「あの、大丈夫ですか…?」
スーツを着た男性に話しかけられた。
「あ、すみません…大丈夫…です。」
「え…。でも…すごく顔色が悪いですよ…?」
声をかけた方がいいと思わせてしまうほど、
具合が悪そうに見えたって…こと…かな…?
「はは…ありがとう…ございます、今日、暑い…ですよね」
私はなんとか返事をしようと、途切れ途切れに答えた。
「あの…。このビル、オレの勤務先なんです。
よかったら入口で少し休んでいってください。」
さすがにそれは…。
それに知らない男性について行くのはちょっと…。
「い、いえ…。ここで大丈夫です…」
私が警戒していることを察したのか、その人はこう言った。
「……大丈夫です。女性社員もいるので、安心してください」
その人に案内され、私はオフィスのエントランスに入った。
入った瞬間、冷たい風がスーっと吹き、体を冷やしてくれた。
す…涼しい…。それにしても大きいエントランス…。
これは大手の会社だよね…?社名を見ずに入ってしまった。
そして入口にあったベンチに私を座らせてくれた。
私が座るとその人は、オフィスの中にある自動販売機まで行き、
飲み物を買って戻ってきた。
「はいこれ、どうぞ。飲んでください。遠慮しないで」
「すみません、ありがとうございます…」
私はスポーツドリンクを受け取り、ゴクっと飲んだ。
おいしい…一気に潤った感じがする。
そして冷たいペットボトルを首に当てた。
つめたーい…気持ちいい…
私が飲み物を飲んだ姿を見て安心したみたいで、
その人も私の隣に座り、ペットボトルの水を飲んだ。
ちょうど昼休み中だったらしく、外で昼食を済ませて戻ってきたところで、
具合が悪そうな私を見かけて、声をかけてくれたらしい。
改めて見ると、その男性はいかにも好青年な雰囲気で
「爽やか」という言葉が似合う人だった。
ショートの黒髪は綺麗に整っていて、
前髪はセンターパートで清潔感がある。
優しい顔つきで、クラスにいたら女の子から人気がありそうな感じ。
「ありがとうございました。」
「いえ、顔色が良くなってきましたね。よかったです。ところで…」
その人は私のカバンに目を落とした。
「もしかして、ワンダーグラウンドオンラインやってます…?」
と聞いてきた。
私はカバンに先日Dexで行われていた、
ワンダーグラウンドオンラインβテスト開始記念キャンペーンで、
呟きを拡散したら抽選でもらえるバックチャームをつけていた。
そう、ダメ元で拡散したんだけど、当たったんです。
当選者にはメールで当選番号が送られ、
公式HPでβテスト申し込みの時に決めたIDとパスワードでログインし、
キャンペーンフォームにその番号を入力すると
バックチャームが送られてくるという流れだった。
「はい…!やってます!!」
「オレもこれ当選したんですよ。
総勢500名だったので当たって嬉しかったんですけど
案外、当たってるものなんですね。」
その人は照れくさそうに笑った。
「ですよね。私もまさか当たるって思ってなかったので嬉しかったです。
ゲームにダイブして初めて戦ったのがスライムだったので欲しくて。」
「オレもですよ。
最初のフィールドにいる敵にしてはHPが高くて驚きました」
楽しい…!
リアルで同じオンラインゲームをしている人と話ができるなんて…!
「もしかしたら、ゲームの中ですれ違ってるかもしれないですね。なんて」
男性は、微笑みながらそう言った。
「そうですね!!」
βテスターは50万ほどいるので、
実際にはすれ違ってないかもしれないけど、
同じゲームをしているから、可能性は0じゃない!
それと同時に、私はパーティーメンバーに恵まれてるなと思った。
50万人もいると、合わない人とパーティーを組むことだってある。
でも今のパーティーはみんないい人たちだし、
メンバー全員仲がいい!
そんな人たちと出会って冒険できてるってとてもすごいことだと思う。
「そういえば…イヤリング片方落としていませんか?」
「あ、いえ!初めから右にしかつけてないので」
「そうですか、それならよかったです。かわいいイヤリングですね」
「ありがとうございます!」
私は今日も右耳に、この間買った白い貝殻のイヤリングをつけていた。
片方しかつけてなかったので、
落としたんじゃないかって心配してくれたみたい。
本当に優しい人だなぁ…。
「ゲームの中で、そのイヤリングに似た装備品ありますよね」
「そうなんですよ!なので見つけた時嬉しくて、つい買ってしまいました!」
この人、小さな白い貝殻のイヤリング、知ってるんだ…!
ゲームの中で誰かが装備してるのを見たのかな?
それともビッグベアと戦って手に入れたとか!?
聞いてみたいって思ったけど…私は肝心なことを思い出した!!
「あ、すみません!!飲み物代!!」
私はカバンからお財布を取り出した。
「いえ、ちょうどアプリのポイントが貯まっていたので、タダだったんですよ。
だから気にしないでください」
「え…でも…。」
本当かな…?
でも、もしポイントが貯まっていたなら、それはそれで申し訳ない…。
私はお財布を持ったままどうしたら受け取ってくれるか考えていたら
「なら…。もしゲームの中で会うことがあったら、
その時は、オレに何かおごってください」
その人は、素敵な笑顔でそう言った。
するとオフィスのゲートから40代くらいの男性がこちらに向かって走ってきた。
「あ、いたいた!!宮田!ちょっと大変なことが起きた、すぐ来られるか?」
この人、宮田さんって名前なんだ…。
宮田さんはすぐ立ち上がり、返事をしていた。
「はい!!今行きます」
宮田さんに声をかけた人は再びゲートを通って、オフィスに入っていった。
「すみません、何かトラブルがあったみたいで…」
「行ってください!私ならもう大丈夫なので!!
とても助かりました!!ありがとうございました!!」
「気を付けて帰ってくださいね」
そう言うと宮田さんは、さっきの人を追いかけるようにゲートへ入っていった。
体調が落ち着いてきたので、私は立ち上がり、
オフィスから出て日傘を差して歩き出した。
思えば、忙しい社会人さんの大事な休憩時間を
私なんかの介抱に使わせてしまって本当に申し訳ない。
私は寝坊し、朝ごはんを食べずに出かけ、飲み物も買わずに、
二次元アイドルグッズを買っていたというのに。
こんなんで、あと2年で社会人になれるのかな…はぁ…。
あ!!アバター名も、職業も、見た目も、何にも聞いてない…!!
これじゃあ、ゲームですれ違ってもわからないよ…。
あの人、初めから何も受け取る気なかったんだろうな。
対応すべてが紳士。
そういえば…何の会社のビルだったんだろう…。
振り向いてビルを見てみたら…
武芝薬品工業…? 武芝薬品!?
私が入ったのは、大手製薬会社のビルだった!!
落ち着きがあって、紳士で、しかも大手製薬会社にお勤め…。
きっと、ゲームではパーティーリーダーとか、
パーティーの頭脳的なポジションだろうなー。
どちらにしろ、アバターの情報を何も聞いてないので
会えないだろうなぁ…はぁーあー…。
その日の夜。
―――「トークトーク画面」――――――
『βテスターズ』
シャル:すみません、今日はログインできなそうです。
累:あいよー。おつかれ
ルリ:了解!連絡ありがとう!
――――――――――――――――
そっかー…シャルくん今日はログインできないんだ…。
私はたまり場の椅子に座って、
みんながログインするのを待っていた。
累「シャル来れないんじゃ、ダンジョンはやめておくか」
ルリ「そうだねー…」
すると、レオくんと連くんがログインしてきた。
レオ「よ!!シャル来られないみたいだな」
連「こん」
ルリ「あ、レオくん連くんこんばんは!」
連「眠い…」
ルリ「私も…。実は今日、昼間ちょっと具合が悪くなっちゃって…
今日は早めに寝ようかな。」
レオ「今日暑かったもんなー」
累「大丈夫か?だったら早く寝た方がいいぞ、れんれんも寝な」
ルリ「そうさせてもらおうかな」
連くんは「ん、おやすみ」と言ってログアウトしていった。
累「レオ、時間があるならちょっとブラックナイトマーケット行こうぜ?」
レオ「お!行く行く!」
累「んじゃ、ルリも寝ろよ!」
ルリ「うん、ごめんね!おやすみ」
そう言うと累さんとレオくんはブラックナイトマーケットに出かけて行った。
2人を見送って今日はログアウトすることにした。
寝る支度をしてベッドに入った。
はぁ…明日になったら体調戻ってるといいな。
宮田さんのおかげで倒れずに済んだんだよね。
はぁー…ゲームで会えたら絶対お礼するのになぁ…。
そして…
―――――――――――――
夏休みが終わり、
また大学の日々が始まった。
結局お兄ちゃんとは、家の中で挨拶をする程度しか会えず、
ワンダーグラウンドオンラインの話はまだできていない。
大学の講義、テスト勉強、バイトをしている間も
頭の片隅で、常にワンダーグラウンドオンラインのことを考えていた。
ログインボーナスはないのに、
時間がなくても、少しでもゲームの世界に浸りたくて
30分だけでもログインした。
時間が合わず、パーティーメンバーと会えない日もあったけど
街を歩くだけ。お店を見るだけ。それだけでも楽しかった!
そうして無事、全科目の試験が終わり、
正式リリースまであと1か月となった…!!
試験が終わったから今日は久々にたくさんゲームができるー!!
そして今夜はダハニア遺跡のレベル30以上の入口へ!!
そこには、大きな大きな宝箱があって…。
紬がリアルで出会った好青年。この青年は…?
紬は再び彼に会うことができるのか。
それはまた別のお話で。
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都合により、明日も20:10に投稿します。




