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第三章連載中 元義妹は元義兄と暮らしたい〜他人になったはずの元義妹と再会したら学校でも猛アタックしてきて困ってます〜  作者:
元義兄は元義妹と暮らしたい

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箱根旅行2日目①

窓の外から差し込む淡い光が、まぶたの裏を叩く。昨夜の余韻が残る身体は驚くほど軽く、隣を見ると凪がまだ規則正しい寝息を立てていた。窓を少し開けると、箱根の朝の澄み切った空気が部屋を満たす。


「……ん、おはよう、みーくん」


凪がゆっくりと目を開ける。とろんとしたその瞳が俺を捉えた瞬間、胸の奥がぎゅっと締め付けられた。


「おはよう。よく眠れたか?」


「うん、みーくんと一緒だったから」


凪が布団の中から腕を伸ばし、俺の首に絡みついてくる。その無防備な愛らしさに、思わず彼女の額に口づけを落とした。


「ねえ、朝風呂、いく?」


「いいけど、離してくれないと起きれないよ」


「じゃあ、もう少しだけ……このまま」


凪が胸元に顔をすり寄せてくる。朝の静寂の中で、二人の呼吸が重なる。何度もキスをして、身体を寄せ合って、少しだけ甘い時間を過ごした。



朝風呂を済ませた、ちょうど朝食の時間になった。

朝食は、昨日と同じく部屋食だった。並べられた焼き魚、温かい湯豆腐、炊き立てのご飯。


「いただきます」


「朝ごはんも美味しいね」


「うん、旅館の朝食って美味しいんだよな」


「食後のコーヒーもあるみたいだよ」


「わあ、最高じゃん」




朝食を済ませ、身支度を整えて旅館を出ると、箱根の朝はすでに活気に満ちていた。タクシーに揺られ、芦ノ湖の湖畔にある箱根神社を目指す。


「あ、テレビで見たことあるやつだ!」


湖に浮かぶ「平和の鳥居」を見つけた凪が、子どものようにはしゃいで指をさす。その屈託のない笑顔を見ているだけで、ここに来て本当によかったと心から思える。湖面がキラキラと光を反射し、まるで宝石を散りばめたようだ。


「すごい綺麗!ねえ、あの鳥居まで行ってみよう!」


「まずは参拝してからな」


階段を登る足取りは驚くほど軽い。境内に足を踏み入れると、そこは別世界だった。高くそびえ立つ杉木立が空を覆い、時が止まったような厳かな空気に包まれている。木漏れ日が地面にまだら模様を描き、凪の髪を柔らかく照らしていた。

神聖な場所だというのに、凪と手を繋いでいるだけで、世界が色づいていくような不思議な感覚があった。


「みーくん、何お願いしたの?」


「それは秘密」


「えー、気になる!」


「凪こそ、何お願いしたんだよ」


「……内緒」


「ずるいぞ」


「ふふ、叶ってからのお楽しみ!」


楽しそうに目を細め、境内の木々を見上げる凪の横顔を見つめ、俺はこれ以上何を願う必要があるだろうかと、ふと思った。この穏やかな時間が、ずっと続けばいい。それだけで十分だった。



バスで箱根園へと移動し、プリンスホテル内のレストランへ。大きなガラス窓から芦ノ湖と周囲の山々が一望できる、贅沢なロケーションだ。外の喧騒とは隔絶された、ゆったりとした時間が流れている。


「ここ、すごく素敵! 山と湖が全部見えるね」


「落ち着いてていいところだな。ここならゆっくりできるだろ」


「ランチ、何にする? どれも美味しそうで迷っちゃう」


「俺はハンバーグかな。ここ、名物らしいし」


「私はパスタにしようかな! 季節の野菜がたっぷりの」


注文を済ませると、凪は嬉しそうに窓の外を眺めている。湖を渡る風が、レストランの窓辺をかすめていく。運ばれてきた料理の芳醇な香りに、俺たちのお腹は期待で鳴った。


「美味しそう! いただきます!……ん、すごい、ソースが濃厚!」


凪が目を輝かせながらパスタをくるくると巻いている。


「こっちのハンバーグも最高だぞ。肉汁がすごいんだ」


「ほんとだ。……ねえ、みーくん」


凪が小首をかしげ、いたずらっぽく笑みを浮かべる。彼女は手に持っていたフォークを一度置いて、じっと俺を見つめた。


「一口交換こしない? 私、みーくんのハンバーグ、あーんして食べたいな」


「え、ここでか?」


「だーめ? 恥ずかしい?」


凪は少し頬を染めながら、でも楽しそうに俺の反応を待っている。周囲の客はそれぞれの会話に夢中で、俺たちのことなんて見ていないはずだ。俺は少しだけ照れながらも、ハンバーグを小さく切り分け、ナイフの先で慎重にフォークに乗せた。


「……はい、どうぞ」


「……んっ、あーん」


凪が唇を少しだけ開いて、俺が差し出したハンバーグをそっと口に運ぶ。彼女が口を閉じて幸せそうに咀嚼する姿を、俺は少しの緊張と、それ以上の愛おしさで見つめていた。


「ん〜〜! やっぱり美味しい! 肉汁じゅわってなるね」


彼女が満足そうに笑うと、今度は逆に凪がパスタをフォークに巻いて、俺の口元へ近づけてきた。


「じゃあ、次は私から。あーん」


俺が口を開けると、凪は少しだけ手を伸ばして、そのままパスタを口に入れてくれた。柔らかな麺とソースの風味が口いっぱいに広がる。


「……美味しいな」


「でしょ? どっちも美味しいね」


「ああ、最高だよ」


彼女の幸せそうな表情を見ているだけで、俺も自然と笑みがこぼれる。さっきまで鳥居の前で真剣に願っていたことが、もう既に叶っているような気がした。こうして凪と二人で美味しいものを分け合っているだけで、世界がこんなにも輝いて見えるなんて、旅の魔法にでもかかっているのかもしれない。



午後は箱根駒ヶ岳ロープウェイへと向かう。今日は雲一つない快晴が味方してくれた。ゴンドラが頂上駅に向けてゆっくりと動き出し、地上を離れていく。グングンと高度を上げていくにつれ、眼下に広がる箱根の山肌は、まるで職人が縫い合わせたかのような鮮やかな緑のパッチワークへと姿を変えていく。


「わっ……すごい! どんどん高くなっていく!」


凪は最初こそ目を輝かせて窓の外を眺めていたが、ゴンドラが支柱を越えてふわりと揺れた瞬間、表情をこわばらせて俺の腕にぎゅっとしがみついた。


「……ねえ、みーくん。ここ、結構高いね……」


「大丈夫だよ。手握ってるから」


凪は俺の手を握りしめ、恐る恐る窓の外を見下ろしている。その瞳には、絶景への感動と、高いところへの少しの恐怖が入り混じっていた。


「無理して外見なくてもいいからな」


「ううん、せっかくだから……一緒に見たい」


凪は顔を少しだけ赤らめながら、手を握りる力を強める。でも少しずつ落ち着いた感嘆の声へと変わっていった。


「見て! 空が青い! さっきまであんな下にいたのに、景色が綺麗!」


ゴンドラが頂上駅へと滑り込むと、そこには別世界が待っていた。

視界がパッと開けた山頂で、俺たちは思わず言葉を失った。目の前には、どこまでも広がる真っ青な空を背景に、堂々たる山々が静かに鎮座している。そして展望台からは芦ノ湖が一望できた。


「うわぁ……! 綺麗……」


凪が感嘆の声を漏らし、思わず手すりに駆け寄る。


「絶景だね!あ!あっちには富士山も見える!」


「凪、写真撮らせて」


気づいたら、俺はスマホを構えていた。山頂の澄んだ空気を吸い込み、芦ノ湖と富士山をバックに少しだけ髪を揺らす凪が、あまりにも眩しくて愛おしかったからだ。


「え、もう? ……ちょっと待って、髪とか変じゃないかな?」


凪は慌てて手で髪を整えようとするけれど、その照れくさそうな仕草さえも愛おしくて、俺はレンズ越しに思わず笑みがこぼれた。


「今のままで十分綺麗だよ。そのまま、こっち向いて」


俺が声をかけると、彼女は少しだけはにかんで、俺の方を向いた。背景には深い群青色の芦ノ湖と、堂々たる富士山。そして、その後ろに立つ、世界で一番可愛い彼女。


「いくよ、はいっ」


カシャ、と小さなシャッター音が風に流れる。画面の中に収まった凪は、恥ずかしさと喜びが入り混じったような、とびきり甘い表情を浮かべていた。


「ねえ、見せて!」


駆け寄ってきた凪と肩を並べて、スマホの画面を覗き込む。


「うわ……いい感じかも。なんか、すごく幸せそうな顔してるね、私」


「ああ。最高にいい顔だよ」


「……みーくんのおかげかな?」


凪は少し茶目っ気たっぷりに首を傾げ、俺の腕に体重を預けてきた。秋のひんやりとした山頂の風が吹き抜けるけれど、彼女の体温が伝わる場所だけが、じりじりと熱い。


「この景色も、この空気も、凪と一緒だからこんなに綺麗に見えるんだよ」


俺が真っ直ぐに伝えると、彼女は真っ赤になって俺の胸元に顔を埋めた。


「……ずるいよ、そんなこと言われたら」


「本心だよ。……ねえ、せっかくだからさ、ツーショットも撮ろうよ」


俺がそう言うと、凪は顔を上げて「うん!」と大きく頷いた。


「じゃあ、カメラは私が持つね!」


凪が腕を伸ばし、インカメラに二人を収めようとする。俺たち二人の顔が画面の中で重なるようにして、ギュッと距離を詰めた。


「……近いよ?」


「いいの。……はい、ポーズ!」


カシャリ、という音と共に、二人の笑顔が写真の中に焼き付けられる。


「あ、今のすごくいいね! 二人とも笑えてる」


凪が画面を確認して、嬉しそうに何度も頷いている。その光景が何よりも幸せで、俺は彼女の肩をそっと抱き寄せた。


「……一生の宝物だね」


「うん、絶対だよ。今日のこと、ずっと覚えておこうね」


凪は俺の胸に頭を預け、再び眼下に広がる箱根のパノラマを眺めた。この景色も、今感じている温もりも、すべてを未来へと持っていきたいと、俺は強く思った。



旅館へ戻ると、昼間の喧騒とは打って変わった静寂が、玄関先で俺たちを待っていた。部屋に入り、畳の香りに包まれると、どっと心地よい疲れが押し寄せてくる。


「あー……歩いたねえ。足が少し重いかも」


「無理したからな。まずはゆっくり休もう」


凪は座椅子に深く腰を下ろし、満足そうにため息をついた。窓の外では、山々が深い紅に染まり始めている。


「今日、楽しかったね」


「ああ、本当に。最高の二日目だったな」


「……うん。でもね」


凪がふと口ごもり、俺の方をじっと見つめる。その瞳には、昨夜の温泉で交わした約束の熱が、密やかに宿っているようだった。


「ご飯食べ終わったら、ね」


凪がふと口ごもり、俺の方をじっと見つめる。その瞳には、昨夜の温泉で交わした約束の熱が、密やかに宿っているようだった。

俺は隣に座る凪の肩にそっと手を置き、彼女の耳元で小さく囁いた。


「さあ、何のことかな」


わざと彼女の耳たぶを指先で軽く撫でて、挑発するように視線を絡める。彼女の呼吸が一段と深くなり、胸の鼓動がここまで伝わってくるほどだ。俺は少しだけ意地悪く、彼女の顎先を指先ですくい上げた。


「そんな顔して期待されてもな。凪はほんとにエッチだな」


「……っ、そんなこと、言わないでよ……!」


凪は真っ赤になった顔を両手で覆い、畳に座り込んだまま身を縮めた。普段はしっかり者の彼女が、これほどまでに無防備に羞恥に染まる姿は、何度見ても飽きることがない。俺はなおも意地悪を続けるように、覆われた彼女の手をそっと引き剥がした。


「エッチ、だろ? 今日ずっとそのこと考えてたの?」


「……うぅ。ずっとじゃないよ……意識し始めたのは帰ってくる時からだよ。もう、みーくんの、せいだよ。そんなふうに、ずっと見てくるから……」


凪は潤んだ瞳で俺を恨めしそうに見つめるが、その視線はどこか甘く、拒絶の意志なんて微塵も感じられない。むしろ、俺の挑発をどこかで待ち望んでいたかのように、彼女の吐息はさらに熱を帯びていた。

俺は彼女の顎先をすくい上げたまま、ゆっくりと顔を近づける。鼻先が触れ合うほどの距離で、彼女の震える唇を見つめた。


「この調子だと、ご飯まで待てなくなるぞ?」


「……っ……」


凪は言葉を失い、ただあえぐように小さく息を漏らす。その隙に、俺は彼女の唇のすぐそばで低く囁いた。


「もう少し待とうな」


「……みーくんの、……いじわる……。でも……大好き」

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