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第三章連載中 元義妹は元義兄と暮らしたい〜他人になったはずの元義妹と再会したら学校でも猛アタックしてきて困ってます〜  作者:
元義兄は元義妹と暮らしたい

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旅行前日

朝の気配に目を覚ますと、隣のシーツはすでに冷たくなっていた。


「……ん……みーくん?」


寝ぼけ眼をこすりながらリビングへ向かうと、キッチンから香ばしい匂いが漂ってくる。エプロン姿の湊が手際よくフライパンを振っていて、その背中が頼もしくも愛おしくて、凪は音もなく背後から忍び寄って、彼の背中にそっと額を預けた。


「……おはよう、凪。あと少しでできるよ」


湊は振り返らずにそう言って、背後の凪の手の上に自分の手を優しく重ねる。昨夜の余韻で、まだお互いの筋肉は少し強張っているけれど、こうして密着しているだけで痛みが和らぐような気がした。湊は調理を終えると、優しく凪の方を向いて、彼女の髪をそっと撫でた。


「いい匂い。……みーくん、お腹ぺこぺこだよ」

「すぐ座ってて。今日は体力回復のためのメニューだからね」


湊に促されてテーブルにつくと、凪はキッチンから漂う美味しそうな朝食の気配を楽しみながら、明日の旅行のためにクローゼットへ向かった。旅行用の服を選ぶという名目だが、実際には二人で過ごす特別な時間を想って、少しだけ念入りに選んでしまう。


「みーくん、この服とこの服、どっちがいいと思う?」


準備をしながら問いかけると、湊はスープをかき混ぜる手を止め、少し考えてから「どっちも似合うけど、その薄い方のワンピースがいいかな。涼しげで、温泉街の散策にもぴったりだと思うよ」と、穏やかな笑顔で答えた。凪は嬉しそうに頷き、そのワンピースを畳んでバックに詰めた。


二人がテーブルを囲んで朝食を終えた頃、ようやく本題の旅行先選びが始まった。


「明日から行くのって、時期的に難しいよね……直前だし、どこも予約がいっぱいかも」


凪が不安げにスマホの予約サイトを眺める。案の定、候補に挙げていた有名な宿はどこも満室で、溜息が漏れる。しかし、諦めかけたその時、湊がスマホの画面を凪の方へ向けた。


「……ここ、どうだ? 箱根の温泉旅館なんだけど」

「えっ、本当だ。……しかも、部屋に露天風呂があるよ!」


凪が目を輝かせた。ひっそりと佇むその宿は、誰にも邪魔されず、ただ二人で静かな時間を過ごすには完璧な場所のように見えた。ただ、宿泊料金を見て凪は一瞬で表情を曇らせた。


「……うわっ、すごい高い……」

「どうせなら、ゆっくり二泊して心ゆくまで身体を癒やすっていうのはどう?」

「いやいや、予算的に……みーくん、貯金大丈夫なの?」


凪の心配に、湊は少し困ったように、けれど余裕のある笑みを浮かべた。お年玉や父親からの小遣いを堅実に運用しており、それなりに蓄えがある湊にとって、この程度の金額は「二人の大切な時間を買う」ための納得できる金額だった。


「大丈夫だよ。……せっかくの夏休みだし、ここでゆっくりして、二人で心からリラックスしたいから」


湊が迷いなく予約ボタンを押し、完了画面が二人の前に表示される。夢のような二泊三日の箱根温泉旅行が、こうして確定した。


「……箱根かぁ。露天風呂から見える景色、どんなだろうね。山が見えるのかな?」


凪が空想に浸るように呟くと、湊は自分のコーヒーカップを置いて、彼女の隣に腰を下ろした。


「たぶん、静かな森の緑が一面に広がるはずだよ。夜は星が見えるかもしれない」


「うわぁ、素敵……。ねえ、二泊あるなら、一日目は宿から一歩も出ないで、ずっとおこもりしちゃおうよ。せっかくお部屋に露天風呂があるんだもん、何回でも入りたい」


凪の提案に、湊は嬉しそうに頷いた。


「賛成だ。二日目は少しだけ足を伸ばして、美術館に行ったり、美味しいご飯を食べたりしてもいいけど、初日はゆっくりしよう。……まずは、身体の疲れを取ることが一番の目的だからね」


湊は凪の手を優しく包み込むと、少しだけ照れくさそうに言葉を続けた。


「……それに、二人で静かに過ごせる時間が、一番の贅沢だと思ってるから。ただ凪と穏やかに過ごせるのが、俺にとっては最高の癒しだよ」


湊の素直な言葉に、凪は少し驚いたような表情を見せたあと、ぱっと花が咲くような笑顔を見せた。


「……もう、みーくんったら」


凪は湊の肩にこてんと頭を預け、少しだけ安心したように息を吐いた。旅行の準備は服を詰めることよりも、こうして二人で未来を語り合う時間の中にこそ、その楽しさが詰まっているのだと二人とも感じていた。


「よし、じゃあ旅行のしおりでも作るか? 細かくスケジュールはたてないけと、食べたいものとか、やりたいことのリストを作っておこう」


「あ、それいいかも! ノート出そうよ。みーくん一緒に書こ!」


凪はソファから立ち上がり、ノートを探しに本棚へと向かった。たった二日間の旅路のために、まるで子供のように目を輝かせてはしゃぐ凪の横顔を見て、湊は胸の奥が熱くなるのを感じた。湊はただ、彼女の幸せそうな姿をずっと見守っていたいと心から思った。


ノートを手に戻ってきた凪が、湊の隣にちょこんと座る。


「まずは何を書く? 食べたいもの? それとも行きたい場所?」


凪がペンを差し出し、無邪気に尋ねてくる。その愛らしい横顔と、自分に向けられた純粋な期待に、湊は胸の奥がキュッと締め付けられるような感覚を覚えた。


湊は凪の手からペンを受け取るふりをして、そのまま彼女の手首を優しく引き寄せた。


「……っ、みーくん?」


驚いて目を丸くした凪の問いかけに応えるよりも早く、湊は衝動を抑えきれずに彼女を力強く引き寄せ、その身を抱きしめた。凪の華奢な身体が、湊のシャツ越しにしっかりと密着する。


「……ごめん。……今の凪があまりにも可愛くて、どうしても我慢できなかった」


「もう、いきなりでびっくりしたよ」


凪は赤い顔をしながら呟く。湊は彼女の肩を優しくなでながら、少しだけ落ち着いた声でこう続けた。


「凪と会えてよかった。本当に幸せだよ」


湊の真っ直ぐな言葉に、凪は照れくさそうに微笑んで、彼の胸にそっと額を預けた。明日、このノートを持って箱根へ向かう自分たちを想像すると、胸の奥から温かい高揚感がこみ上げてくる。


「……私も。みーくんと一緒にいられて幸せ。……旅行楽しみだね」


読んでくださってありがとうございます。

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