解放
カーテンの隙間から差し込む朝の光が、寝室に淡いオレンジ色の線を描いている。昨夜の激しい営みの余韻は、シーツのそこかしこに残る湿り気となって、今も二人を包んでいた。湊がゆっくりと目を開けると、すぐ目の前で凪が穏やかな寝息を立てている。汗と熱を帯びた彼女の肌は、朝の光を反射して艶めき、昨夜の愛の証である紅潮がうっすらと残っていた。湊が愛おしそうに凪の肩を撫でると、彼女は微かに身を震わせ、夢うつつの中で湊の胸元に顔をすり寄せてくる。
「……ん……みーくん?」
凪が長いまつ毛を揺らし、濡れたような瞳をゆっくりと開く。彼女の身体が湊に触れるたび、肌と肌がしっとりと吸い付くような感覚が伝わる。
「おはよう、凪。……昨日は、ずいぶんと激しかったな」
湊の低く掠れた声に、凪は頬を染めながら、いたずらっぽく笑った。
「……だって、みーくんが私を離してくれなかったんだもん。……身体中、まだみーくんの熱が残ってるみたい」
凪は湊の首に腕を回し、身体をさらに密着させた。昨夜の残り香が、まだ寝室の空気に濃厚に漂っている。肌に張り付くようなベタつきや、火照った身体の熱に、二人の衝動は再び静かに、しかし確実に火がつき始めていた。
「……このままじゃ気持ち悪いね。お風呂、行こうか」
湊は凪を抱き上げると、そのまま浴室へと向かった。扉を閉めると、密室の熱気は一層高まった。シャワーから湯が溢れ出し、温かな霧が二人を包んでいく。
昨夜の愛の跡を洗い流そうと、湊がシャワーを当てると、凪は湊の胸に額を押し当て、熱い吐息を漏らした。石鹸の泡が彼女の白い肌の上でとろりと溶け、指先が滑らかな曲線をなぞる。昨夜よりも一層敏感になっている凪の身体は、湊の手が触れるたびに小さく跳ねた。
「……ねえ、みーくん。今日も家にいよう」
凪が泡のついた手で湊の肩を掴み、彼を壁際に追い詰めた。彼女は濡れたままの瞳で湊を妖艶に見つめ、わざとらしく腰を擦り寄せる。昨日、何度も果てたはずなのに、今朝の彼女の瞳には、終わりの見えない飢えが宿っていた。
「……昨日、あんなに何度もしたのに、まだ足りないのか?」
「……みーくんが、私を夢中にさせるからいけないんだよ」
凪はいたずらっぽく笑うと、湊の手から石鹸のついたスポンジを取り上げた。彼女は自分を急かすのをやめ、湊の胸板から腹筋にかけて、まるで慈しむように泡を広げていく。指先がゆっくりと肌を滑り、時折、昨夜の名残が残る場所を執拗になぞる。湊は凪の熱い吐息を感じながら、彼女の導くままに身を任せた。
「……夏休みでよかった」
丁寧に、互いの身体を洗い流し、二人はそのまま湯船へと沈み込んだ。狭い浴槽に二つの身体が重なり合うと、湯があふれて床を濡らす。お湯の中で凪の脚が湊の腰に絡みつき、昨日から続く密着が、より濃密な感覚となって二人の理性を揺さぶる。
「……今日は、どこにも行かないでね」
凪は湯船の中で湊に寄りかかり、濡れた髪をかき上げながら言った。
湊は凪の腰を抱き寄せ、その頬に軽くキスをする。
「ああ、そうだな。……でも、そんなにずっと二人でいたら、またすぐにお前をめちゃくちゃにしてしまいそうだけど、いいのか?」
湊の言葉に、凪はふふっと小さく笑って、彼の胸元に指先を這わせた。
「……ふふ、どうかな。……みーくんのせいで抑えられなくなっちゃったから」
凪はあえて余裕を見せるように問いかけるが、その瞳は期待と欲情で潤んでいる。彼女は湊の耳元に口を寄せ、甘く、そして釘を刺すように囁いた。
「……一週間、私に時間くれるって言ったよね? 昨日のあの時、そう約束したんだから……一日たりとも、私から離れないでね」
湊は彼女の首筋に顔を埋め、深く息を吐いた。凪の体温と、窓から漏れる夏の湿った気配が混ざり合う。約束という言葉に包まれた二人の甘い夏休みは、まだ始まったばかりだった。
「一週間……か。ずいぶんと長い修行になりそうだな」
「修行? ……みーくん、酷いなぁ。私と過ごすことが修行なの?」
凪がわざとらしく唇を尖らせると、湊は彼女の鼻先を指先で軽く突いた。
「違うよ。……お前が可愛すぎて、理性を保つのが修行だって言ってるんだ」
「ふふっ、なら理性なんて捨てちゃえばいいのに」
凪の手が再び湊の肩を滑り落ち、湯船の中の熱い水面を割って彼の身体をなぞり始める。昨夜の激しい営みの記憶が、二人の中に再び熱を呼び起こしていた。
「ねえ、みーくん。洗って。中がベトベトになっちゃったから」
その言葉の持つ意味を、湊はすぐに理解した。彼女の瞳が、昨日よりもずっと深く、彼を飲み込もうとしている。
「……分かった。降参だ」
湊は凪を湯船の縁に抱き上げると、その柔らかな肌を熱いお湯で何度も撫でた。昨日までの無邪気な義兄妹としての記憶、そして今、愛し合う恋人としての記憶が、二人の間で複雑に絡み合う。
「……みーくんの手、大好き。……もっと、こっちも……ずっと、触っててほしい」
凪の甘い誘惑に応えるように、湊の指先は彼女の身体の隅々までを愛おしみ、昨夜の続きを求めて動き出す。夏休みの朝は長く、そして二人の愛の営みは、この小さな密室の中で、昨日よりもずっと激しく、濃密な形を成していこうとしていた。
「……凪、本当にお前は……」
「……みーくんが、私をそうさせたんだよ?」
二人の声が浴室の壁に反射し、心地よい旋律となって響く。朝の光が窓から差し込み、二人の肌を白く、そして官能的に照らし出していた。二人の夏休み、約束された一週間の始まりは、愛の悦楽の中に溶け込んでいった。
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