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第三章連載中 元義妹は元義兄と暮らしたい〜他人になったはずの元義妹と再会したら学校でも猛アタックしてきて困ってます〜  作者:
2人の時間

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親友の恋

カーテンの隙間から差し込む朝陽が、寝室の空気を白く染め上げている。

湊は意識が浮上するよりも先に、隣で規則正しい寝息を立てる凪の存在を肌で感じていた。湊の腕の中で小さく身を丸める凪の髪が、微かに鼻先をくすぐる。


「……ん……」


凪が小さく身じろぎし、長い睫毛が震える。ゆっくりと開かれた瞳が、湊の視線を受け止めた。


「……おはよう、みーくん」


掠れた声で、彼女はそう言った。昨夜の残滓を纏ったかのように、頬がほんのりと桜色に染まっている。湊は彼女の額にそっと唇を寄せた。


「おはよう、凪。……体は大丈夫か?」


「うん。……なんだか、昨日はいつもよりさらに優しくしてくれたね」


凪が幸せそうに目を細め、湊の胸元に顔を埋めた。




身支度を整え、二人は家を出た。通学路の風は昨夜よりも清々しく、街路樹の緑が眩しい。凪は湊の手をぎゅっと握りながら、少しだけ恥ずかしそうに空を見上げた。


「ねえ、みーくん。今日学校で、涼くんを誘いに行くんでしょ?」


「ああ。……昨日の話、覚えてるか? 涼があいつのことをどう思ってるか」


湊がニヤリと笑うと、凪は「ああ!」と思い出したように目を輝かせた。


「そうだった! 昨日みーくんに言われるまで、私、二人はただの幼馴染だと思ってて全然気づかなかったの。涼くんがそんなふうに……ねえ、みーくん、今日の涼くん、どんな反応するかな?」


「さあな。あいつは隠してるつもりなんだろうけど、昨日の今日だしな。千尋も来るって言ったら、きっと多少動揺すると思う」


「うふふ、それ見てみたいかも! ……じゃあさ、誘うときにちょっと反応見てようかな」


「意地悪だな、凪も」


「えへへ、みーくんと一緒だもん。二人には助けてもらったから、二人の距離が縮まるお手伝いとかできたらいいな」



二人は顔を見合わせて笑った。学校の門をくぐると、いつもの賑やかな廊下が続いている。教室へ向かう道すがら、湊は隣で楽しそうに歩く凪の横顔を見つめた。昨夜のあとのこの距離感も、涼の恋路を面白がるこの余裕も、すべてが昨日までの自分たちにはなかったものだ。

教室に入ると、涼は相変わらず気だるげに自分の席で教科書を広げていた。


「よし、いくか」


二人は揃って涼の席へと向かった。涼は近づいてくる二人を見上げ、面倒くさそうに顔を上げる。


「なんだよ、朝から連れ立って」


「……なあ涼、週末に遊びに行くことになったんだ。香織と千尋も一緒だ」


湊がわざと千尋の名前を少し強調して口にする。案の定、涼は教科書を持つ手を一瞬止めた。


「……そうかよ」

「ああ。……涼、お前、来るよな? 千尋も『涼が来てくれたら嬉しい』って言ってたからさ」


湊が凪と視線を交わすと、凪がすかさず涼の反応を見るように火をおのぞき込む。


「涼、お願い! ……千尋ちゃんが涼も誘おうって。すごく楽しみにしてたんだよ。あ、でも、もしかして、何か都合が悪い?」


凪の言葉に、涼は心臓を突かれたようにピクリと肩を震わせた。隠しているつもりだろうが、その耳までみるみる赤く染まっていく。そしてちらっと千尋の方を見るのを二人は見逃さなかった。


「……行くよ」


「ほんと? 嬉しいな! ……じゃあ、千尋ちゃんにも『涼くんも来るよ』って伝えておかなきゃ!」


凪が楽しそうに笑うと、涼は狼狽したように視線を窓の外へ逸らした。


「……おう」


涼の反応に、湊と凪は顔を見合わせ、声を殺して笑った。あいつの不器用な恋心。それを凪と一緒にこうして眺めていられる毎日が、湊には何よりも愛おしかった。

涼は早々に教室を抜け出していったが、背中から「千尋と出かけられる」という隠しきれない高揚感が漂っているようで、二人は顔を見合わせる。


「……みーくん、本当にそうなんだね」


「ああ、完全に食いついてたな。さて、次は千尋に報告だ」


湊と凪は足早に、いつもの溜まり場となっている校庭側の廊下へ向かった。千尋と香織は、窓辺で何やら熱心に話している。


「千尋ちゃん! 香織ちゃん!」


凪が声をかけると、二人が振り返る。千尋はパッと目を輝かせた。


「おっ、凪ちゃん! どうだった? 涼はなんて?」


「それがね……!」


凪は千尋の横に並ぼうとしたが、ふと思い出したように湊の方をチラリと見た。湊は小さく頷く。凪はいたずらっぽく笑みを浮かべると、湊の方を振り返りながら千尋に問いかけた。


「その前にね、千尋ちゃん。ちょっと聞きたいことがあるの。千尋ちゃん、涼くんが自分のことをどう思ってるか、……その、気づいてたりする?」


凪の唐突な直球質問に、千尋は一瞬だけ目を丸くした。香織が隣で「おっと」という顔をしてニヤニヤと笑い始める。千尋は少しだけ顔を赤らめ、視線をさっと逸らした。


「……は? 何それ。あいつが私のこと? どうって……幼馴染なんだからあのバカが何を考えてるかなんて知ってるわよ」


強気な言葉とは裏腹に、千尋の耳元は明らかに染まっていた。湊は千尋のそんな反応を見て、確信を深める。


「あいつ、前から俺の前で千尋の話が出るたびに、顔赤くしてるんだぞ。いつもチラチラ千尋のこと見てるし」


湊の言葉に、千尋は「へえ、そうなんだ」と呟いた。その声は心なしか弾んでいる。


「……あのボケナス、本当にわかりやすいのよね。」


「なんか、千尋ちゃん嬉しそう!」


凪が千尋の肩を小突くと、千尋は「うるさいな、もう!」と笑いながら、凪と湊の方へ歩き出した。


「で? 結局あいつ、来るって言ったの?」


「うん! すごーく素直に、『行く』って言ってくれたよ」


「……そう」


千尋はそう言って窓の外を見た。その横顔は、いつもの勝気な千尋とはどこか違う、柔らかい光を帯びていた。湊はその様子を見て、ようやく本題の「実況」へと移ることにした。


「じゃあ、報告するよ。……昨日の放課後、涼を誘ったときのことなんだけどね……」


凪は千尋の横に並び、昨日の二人の作戦と、涼の分かりやすすぎる赤面リアクションを事細かに実況し始めた。千尋はそれを聞くたびにお腹を抱えて笑い、時折「あいつ、そんなに顔赤くしたの?」「マジで? そんなこと言ったの?」と疑り深く、けれど嬉しそうに聞き返している。


「あはは! 想像できるわ。涼って、昔から隠し事が下手なんだから」


千尋の言葉に、湊は小さく頷く。涼が千尋を好きなのは周知の事実になりつつあるが、当の千尋はそれをどう受け止めているのだろうか。湊は少しだけ踏み込んで聞いてみた。


「千尋ちゃん、改めて聞くけど……涼くんのこと、本当はどう思ってるの?」


凪の直球な問いかけに、千尋は一瞬だけ表情を和らげ、少しだけ恥ずかしそうに下を向いた。


「うーん……まあ……秘密。またのお楽しみってことで!」


千尋のいたずらっぽい笑みに、湊と凪は「やっぱり!」と確信した。彼女もまた、この不器用な恋を心から楽しんでいるのだと。

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