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第三章連載中 元義妹は元義兄と暮らしたい〜他人になったはずの元義妹と再会したら学校でも猛アタックしてきて困ってます〜  作者:
2人の時間

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凪の気持ち

放課後。図書室の窓際から差し込む陽光は、昨日までと変わらぬ穏やかさを湛えていた。湊は凪が戻ってくるのを待つ間、静かに本を読んでいた。だが、文字を目で追う集中力は、どこか凪の帰りを待つ心地よい期待感に揺れていた。そこに、聞き慣れた足音が近づいてくる。


「よお、湊。まだ勉強か?」


気さくに声をかけてきたのは、涼だった。昔から変わらない、湊にとっては兄弟のように近い親友だ。湊は顔を上げ、穏やかな笑みを浮かべる。


「ああ。凪が戻ってくるのを待っているところだ」


「相変わらずだな。凪ちゃんのことを一番に考えてる」


涼は笑いながら、迷いなく湊の向かいの席に腰を下ろした。二人の間には、言葉を尽くさずとも分かり合える、長年の友情が積み重なっている。かつて湊一人で塞ぎ込んでいた時も、凪との関係で誰にも言えない悩みを抱えていた時も、涼はずっと変わらず、ただ横にいてくれた。


「最近の凪ちゃん、本当に楽しそうだな。香織ちゃんや千尋とも打ち解けて、以前よりもさらに輝いて見えるよ」


涼の言葉に、湊は深く頷いた。


「ああ。凪が自分自身の力で新しい世界を広げていく姿を見ていると、俺まで嬉しくなるんだ」


「湊、お前は本当に真っ直ぐだな。凪ちゃんに対して、一度だって妥協せず、あいつの幸せを願い続けてきた。お前がここまで誠実に凪ちゃんと向き合ってきたことを、俺は誰よりも知ってるつもりだ」


涼は湊を真っ直ぐに見つめ、力強く言い切った。


「ただ最近思うんだ。俺が凪の近くにいすぎるせいであいつの交友関係の邪魔をしているんじゃないかって」


湊がポツリとこぼした不安に、涼は少し呆れたように、けれど温かく笑った。


「馬鹿言うな。湊、お前は何も悪くないよ。ずっと誠実だったし、何一つ悪いことはない。むしろ、お前のその不器用なまでの真っ直ぐさが、凪ちゃんを救い、今のこの穏やかな日常を作り上げたんだ。お前がいなかったらそれこそ今こんな感じになってないよ」


「……ありがとう、涼。お前には、いつも助けられてばかりだな」


「何言ってんだよ。俺にとっても、お前は大事な親友だ。……お前が楽しく過ごせているなら、俺としても一番嬉しいんだよ」


涼は満足そうに窓の外へ視線をやった。校庭では、凪が友人たちと笑いながら歩いている姿が見える。


「これからも、その真っ直ぐさで凪ちゃんを大切にしてやれよ。お前なら、絶対に凪ちゃんを幸せにし続けられる」


その時、図書室の扉が軽く開き、凪の楽しげな笑い声が聞こえてきた。


「戻ってきたみたいだな」


湊が立ち上がると、涼も一緒に席を立った。


「じゃあな。二人の幸せを邪魔するつもりはないから、俺は行くよ」


「ああ。またな、涼」


涼が爽やかに手を振って去っていく背中を見送り、湊は図書室の入り口へと歩き出した。重厚な木の扉を抜けると、そこには凪が待っていた。彼女は湊の姿を見つけると、とびきりの笑顔で駆け寄ってくる。





「みーくん! ごめんね、待たせちゃって!」


図書室の扉を控えめに開け、凪が小走りで駆け寄ってくる。その後ろには、少し離れたところで待っていた香織と千尋の姿があった。三人は帰り際まで、今日のお出かけの続きを話していたようだ。


「いや、話ししてただけだから待ってないぞ。凪は香織と千尋と話してたのか?」


湊が微笑みながら尋ねると、凪は駆け寄ってきた。


「うん! 実はね、今後の計画を立ててたの。今度の週末、また香織ちゃんたちと出かけることになったんだ」


「そうそう、じゃあ詳しい話は凪から聞いてね!」


「また明日ね」


「おう、また明日」


そう言って千尋と香織は教室を後にした。

凪は鞄を整理しながら帰る準備をする。

涼もそうだったが気を使わせてしまったようだ。


「それでね、今回の計画は、ちょっと特別なんだ。三人で話していてね、やっぱりみーくんも一緒に行きたいって思ったの。あと涼も誘って、五人でワイワイ行かない?って提案したの」


湊は少しだけ目を見開いた。


「涼をか? ……ちょうどさっき図書室で話したばかりだ、あいつなら断らないとは思うけど」


「そう! 香織ちゃんも『涼くんがいたらもっと賑やかで楽しいかもね』って言ってくれたの。湊くんさえ良ければ、涼も誘っていい?」


「ああ、俺はもちろんだよ。流石に女子三人の中に一人放り込まれるのは辛いからな。それに五人の方がずっと楽しいだろう」


湊が賛成すると、凪は嬉しそうに湊の袖を小さく掴んだ。


「ありがとう! ……じゃあ、この後の放課後、涼のところに行って誘ってみようよ。まだ部活の準備してるはずだから」


「そうか、じゃあ行こうか」


湊は荷物をまとめ、凪の手を自然に取った。図書室を後にし、放課後の校舎を歩き出す。廊下からは部活の威勢のいい掛け声や、生徒たちの賑やかな声が響いてくる。


「ねえ、みーくん。香織ちゃんも千尋ちゃんも、湊くんのこと『本当に凪ちゃんを大切にしてるんだね』っていつも言ってるんだよ。香織ちゃんがね、湊くんと凪ちゃんを見てると、すごく心が温かくなるって」


「それは……少し照れるな」


「うふふ、事実だもん。……ねえ、涼は来てくれるかな? 幼馴染の千尋ちゃんも一緒だし、きっと楽しいとは思うけどみーくん以外の男の人を遊びに誘ったことないから」


「涼ならきっと『女子三人の中に男二人が入って大丈夫か?』って笑いながらも、結局は喜んで着いてくるはずだよ」


「それ、すごく目に浮かぶ! 」


「それに涼、千尋のこと好きだからな」


「……え!そうなの?! 涼くん、千尋ちゃんのこと……そんなふうに思ってたの?」


凪は驚きでパッと足を止め、湊の顔をまじまじと見つめた。その瞳は好奇心と驚きでいっぱいに輝いている。

湊は苦笑しながら、歩き出そうと彼女の手を軽く引いた。


「ああ。あいつ、口では軽口ばかり叩いてるけどな。幼馴染っていう関係に甘えつつも、ずっと千尋の近くにいたがってるだろ。見てれば誰にだってわかるよ」


「わぁ……全然気づかなかった! 私、てっきり二人は本当にただの仲良しなんだって思ってた。涼くんって、そんなにわかりやすくしてたっけ?」


「凪にはわかりにくかったかもしれないな。でも、あいつが千尋を見る時の目は、他の人に向ける時とは少し違うんだよ。それに、千尋が他の誰かと盛り上がってると、あいつ、露骨に機嫌が悪くなるし」


「あはは! それは想像できるかも。そういえば昨日も、千尋ちゃんが男子と話してる時、涼くん少しだけ不機嫌そうに本を読んでた気がする……」


凪は納得したように頷きながら、また湊と一緒に歩き出した。


「みーくんって、本当に周りのことをよく見てるよね。私、全然気づかなかった。……ねえ、じゃあ今回の週末のお出かけ、涼くんにとっては千尋ちゃんと一緒にいる口実になるんだね!」


「まあ、そうなるな。涼には世話になってるし何かできることはしてやりたいな」


「任せて! 私も二人を応援する! ……あ、でも、千尋ちゃんは気づいてるのかな?」


「さあな。千尋のことだ、案外気づいていながら、あえて知らないフリをして面白がってる可能性もあるぞ」


「あはは、ありそう! 千尋ちゃんって、そういうところあるもんね」


二人は顔を見合わせて笑い合った。校舎の廊下を歩く間も、会話は途切れることがない。香織、千尋、涼、そして自分たち。この五人で出かける週末が、単なる友人同士の遊びを超えて、少しだけ特別な意味を持つような気がして、凪の胸は高鳴っていた。


「……涼くん、私たちの誘い、喜んでくれるかな」


「もちろんだ。……さっき図書室で話した時も、あいつ、少し寂しそうだったんだよ。凪たちみたいに、誰かと心から楽しんで笑い合える時間を、あいつだってどこかで求めてたんだと思う」


「そっか。じゃあ、絶対に楽しい一日にしなきゃね!」


凪がぐっと拳を握る。その姿を見て、湊は心底安心した。自分が誰かと笑い合うだけでなく、凪が周囲の幸せまで願い、心を砕いてくれていること。その優しさが、湊にとっての何よりの宝物だった。


「涼には、俺から言っておくよ。『千尋も来るし、俺たちもいるから一緒に来ないか』って。そう言えば、あいつは食いつくはずだ」


「うん、お願い! みーくん、涼くんのことよくわかってるね」


「まあ、中学からの付き合いだからな」


湊は凪の手を握り直し、少しだけ歩調を緩めた。沈みかけた夕日が廊下の窓から差し込み、二人の足元をオレンジ色に染めている。涼の恋の行方も、五人の新しい友情も、これからどう転がっていくのかはまだわからない。けれど、少なくとも今は、全員が同じ方向を向いて笑い合える未来がすぐそこにある。


「ねえ、みーくん」


「ん?」


「今日は本当に、涼くんを誘うことができてよかった。香織ちゃんも、千尋ちゃんも、涼くんも……みんなと繋がれて、なんだか世界がすごく広くなったみたい」


凪の言葉に、湊は胸が熱くなるのを感じた。自分は凪を閉じ込めようとしていた。そんな凪は今では彼女が自分で世界を広げていっている。涼の言うようにきっかけは俺だったかもしれない。でも……


「みーくんのことだから、私を閉じ込めてたって自責してたんじゃない?」


「う……」


図星で言葉に詰まる。


「私は閉じ込められているなんて思ってないの。私はみーくんに守ってもらってる。力をもらってる。だからこうやって勇気を出して新しい世界を知れたの。みーくんがいなければできなかったし、これからもみーくんがそばにいないとできないよ」


「凪……」


「だからそんなふうに思わないで。私はみーくんが思ってる以上にみーくんのこと好きだからね。何があっても離れないから」


「……ありがとう」


「うん。……これからもずっと、一緒だよ」


二人は視線を交わし、照れくさそうに微笑んだ。そして少し頬を赤く染める。


「……みーくん」


「どうした?」


「……今日の夜、いい?」



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